イケメンストーカー
私がやり直した高校生活は平凡に充実した時間が過ぎていた。
紗奈と入った合唱部で切磋琢磨し部活に励み、更生した私たちにはクラスでもたくさん友達ができた。
それは私にとってあまりに楽しくて、初恋のことなど忘れかけていた。
しかし春が終わりかける頃、私には回避したいフラグが近づいてきたのである。
「おーい、梨子こっち来いよー!」
「何?」
部活帰り電車に乗った私は、エロ猿こと哲平に大声で呼ばれて彼の車両に渋々と向かった。
雨が降っていていたからか車内は混雑していて、私は座席に座る哲平の前のつり革に捕まった。
「こいつ、見たことある?俺と同じクラスなんだ、紹介したくてさ。」
「俺、絢斗。よろしく、梨子ちゃん。」
「あ、お前ここ座れよー。」
私は哲平の隣にいる絢斗の姿に驚き、開いた口が塞がらず手で覆った。
彼らは席を詰めて、哲平に言われるがままに私は彼の隣に座った。
ミントのような香水の匂いがきつい。
「俺、莉子ちゃんのこと前から気になっててさ。連絡先交換しない?」
「…え、嫌です。」
「なんで?」
ーそれはあなたが私をこの先グッサグサ傷つけるであろう初めての彼氏だからよ!
そう、この茶髪の長髪で目鼻立ちが整っている美形チャラ男ー絢斗は私の初めての彼氏となる人だった。
本来、絢斗と付き合ったのは入学式のすぐ後である。
やはり同じように哲平に紹介されて、チャラッチャラな絢斗に流されてすぐに付き合い秒で捨てられたのであった。
私は入学してから学校では絢斗の姿を何回か見たことがあったが、ギャルもやめたし規則正しい充実した高校生活を送ってたことでつい彼を回避できたと思い込んでいた。
「なんでもとにかく私は貴方とは連絡先交換しないので!」
私はこのまま絢斗のペースに巻き込まれることを焦り、そのまま立ち上がり大勢の人をかき分けながら一番遠くの車両まで逃げた。
混んでいたことが本当に救いだった。変に追いかけられなかったから。
絢斗は隣町に住んでいて普段は自転車通学をしていたのだが、雨の日は電車に乗っていたことをふと思い出した。
ーこんなブスでださい私には二度と構わないし、こうやって会うこともないだろう。
私は自虐しながら安心感に浸っていたが、それは次の日から打ち消された。
なんと絢斗は晴れた日でも電車で通学するようになり、学校への行き帰りに私に付き纏うようになった。
ーイケメンの彼なんてもっと可愛くて美女を落せるだろうし、寄ってくる女もいてモテモテなはずなのに。変なプライドなのか。
1週間ほどイケメンストーカーを無視し続けたのだが、さすがに彼を愛する他の女達から私が嫌がらせを受けせっかく幸せな高校生活を害される嫌な予感がしてきた私は、ついに彼と正面衝突対決をしてしまった。
「ねぇ、いい加減にしてよ!ストーカーで訴えるわよ!」
「…なっ。」
その日も部活帰りに高校の正門の前で待っていた彼は、私が無視しても後ろから付いてくる。
私がついに爆発したのは駅の出入り口前の広場だった。
ちなみに近くに交番もあり、本当に訴える気はなかったがちょっと脅かす気持ちでいた。
私の大声で周りに立ち止まる人がいて少し人溜りができたが、さすがストーカーを続ける強靭なメンタルを持つ絢斗はその状況でさえ動じなかった。
「ってかさ、お前こそなんでこんなイケメンの俺様に構ってもらえてそんなツンデレできんだよ。余計に気になって仕方ねーからやめろよ。」
「…はぁ?あんたなんか私のタイプじゃありません!」
「タイプじゃない?お前の目は腐ってんのか?いやドSなのか?」
そう、絢斗は超ナルシストで勘違いのバカだった。
私が相手にするには強敵だとすぐに気づいたが、そう言う私もバカなのでそのまま大喧嘩を続けた。
自然と人混みは退いていた。
こんなバカ達の救いようもない喧嘩を見るなんて時間の無駄でしかないのだろう。
「…お前本当に変な奴だよな。」
「いやいやそうかもだけど、あんたも変な奴だよ?」
私達はお互い激しい罵り合いをしていたらなんだかスッキリしたのか、笑い合った。
「帰ろうか。次逃すと終点だし。」
「そうだね、疲れたー。」
「しょうがない、シェイクでも買ってやるよ。」
「おっ、サンキュー。」
私は初めて絢斗の隣を歩き、一緒にファストフード店に向かおうとした。
その時、私は後ろからよく聞き慣れた声を聞き、恐る恐る振り向いた。