一度目の初恋
あれよあれよの間に入学式に参加し、私はあの時の自分の感情を思い出してきた。
高校は進学校で、制服も可愛くブランド力があるところだった。
私はスポーツや芸術の才能は皆無、不器用で動物や植物の世話もできないダメ人間だったが、頭だけは良かった。
まあそれもDNAという両親のおかげだが、皆が憧れとする高校に入ることができとても嬉しく思って式に出ていた。
しかも一緒に高校に入ることができたのは仲良しの友人咲良、幼なじみの哲平もだった。
哲平は、そう私の未来の旦那。
彼は正真正銘のバカだったはずが、何故か高校受験に成功した。
中学3年の夏に部活を引退してから、学校以外は部屋に引きこもりゲームをしてたとか。
ゲームをしすぎて頭でもおかしくなったと私は思っていたし、彼も確かそう言っていた。
まあとりあえず主要人物の紹介は置いといて、校長先生の長い教えの間に、私の苦い初恋を振り返った。
初恋の相手は、同じ高校の2学年上の先輩ー倫太郎という。
彼との出会いは初夏だった。
私は電車通学だったのだが田舎なもので本数も少なく、いつもはダラダラと哲平と一緒にギリギリの時間の電車に乗っていた。
しかしある日あろうことか早起きをしてしまい、一人で優雅にモーニングでも取ってから通学しようといつもより早い電車に乗った。
そこで駅のホームから降りた時、私は一目惚れをしてしまった。
長身に少し長い黒髪、垂れ長の目に鼻が高いー彼はまさに私のドストライク!タイプだった。
そして友人と歩く彼の後をコソコソ着いていくと、なんと私の高校に行きついた。
もれなく会話も盗み聞きして名前も聞き、学年とクラスまで下駄箱でチェックをした。
その頃の私は高校デビューしてギャルになっており、同じクラスの超可愛いけど性悪な友人紗奈と二人で調子に乗っていた。
学校を無断でサボったり、授業中にベランダにいたりなど進学校には稀な問題児だった。
そして紗奈はとてもモテるので、紹介などしてもらい私も入学してから数人と付き合っては別れての繰り返しだった。
倫太郎と出会ってしまった昼休み、私は堂々と彼の教室に紗奈と見定めにいった。
扉の端からジロジロと見ていたのだが、彼は見つらなかった。
そして諦めて帰ろうとしたところ、私達の前に奇跡のように彼は現れた。
友達とどこかに行っていたのかー、私は顔を真っ赤にしながら自分の連絡先の書いた手紙を渡してダッシュで逃げた。
正直期待などはしていなかった。
誰かと付き合うのも相手からで、今までの私は特に好きって感情も分からなかった。
でも初恋をしたと直感した、倫太郎を見た瞬間。
だからどうしてもこの思いを行動に移してみたかった。
まさか好きですとまでは手紙には書かなかったけれども。
しかし、奇跡は再び起こった。
その日の夕方に連絡が来たのだ。
そしてメールのやり取りから倫太郎を知ることになった。
倫太郎は隣駅に住んでいて、引退したバレー部で一緒だった彼女と別れたばかり。
ちなみにそれは仲の良い二人だったと、同じ部活の同級生から聞いた。
そしてなんと倫太郎はー私が初めて付き合った彼氏の親友の兄だった。
私の初めての彼氏は超イケメンだったのだが、チャラ男で二股をかけられた挙句捨てられた。
ついでに他校にいる彼の本命の二股相手から、駅で遭遇するとなぜか嫌がらせまで受けた。
そんな大嫌いな初めての彼氏の身内である彼と付き合えたとしたら、そいつに侮辱的な気持ちを与えられるような気がした。
それから何度か一緒に下校したりして、私から告白して付き合い、すぐに訪れた夏休みにはそれはそれは素敵な思い出を作った。
夏祭りに海、花火大会ーしかしそれは一夏限りの倫太郎との思い出になった。
夏休みを終えてからの倫太郎は私によそよそしくなり、連絡も減った。
大学受験に向け塾に通っていた彼とはすれ違い、会う時間はほとんどなかった。
周りからは自然消滅だと言われたが、私は彼をずっと応援していた。
また夏休み明けから私は悲劇の連続だった。
まずは3年の女先輩からの虐めー悪い噂を立てられたり、囲まれて軽い暴力を受けた。
それは倫太郎の元カノの取り巻きによるものだった。
それが原因で一緒に粋がっていた紗奈も私から離れていき、クラスではいつも独りだった。
私はそれでも懸命に彼の受験の成功を祈りながら、孤独な一年を過ごした。
バレンタインさえも会えず、チョコレートは下駄箱の中に置いておいて欲しいと言われたのを耐え、卒業式になった。
大学受験も結果待ちの時期になり、私は勇気を出して会いたいーというメッセージを送ったが、返信はなかった。
さすがの私も現実を知り彼を諦めようとした春休みー、倫太郎から珍しく連絡が来て会うことになった。
ちょうどホワイトデーだった。
倫太郎とよく会っていた公園で再会し、彼から大学受験は失敗して、隣県の大学へ進学することを聞いた。
そして彼は前と変わらぬ態度で私に触れ、それ以上は何も話さなかった。
本当の悪夢の始まりは、それからだった。
ー辛い。無理。
悪夢はずっと心の奥底で封印していた。
10年経った今でも私は胸が強く苦しくなり、その先を思い出すのをやめた。
ちょうど入学式も終わり、私にとって2回目の高校生活は始まったのである。