消えない花火
お盆の終わりに行われた花火大会は、近隣の市で開催される大きな行事だった。
私は少しでも倫太郎に可愛く見せたいとの女子心で、黄色の牡丹柄の浴衣を着て編み込みアップのヘアアレンジをした。
気合の入れすぎにも感じたが、夏休み最後の思い出として楽しいものしたかった。
私達は花火大会が開催される駅前で待ち合わせをした。
「梨子ちゃん、同じ電車だったけど混んでて会えなかったね。」
「…そうですね。」
すぐに合流した私達だったが、私は倫太郎の姿に息を飲んだ。
黒い浴衣を少し着崩す彼は、まるでその服が長身で細身の彼のために作られたように似合っていた。
「梨子ちゃん、可愛いね。」
「そんな、先輩こそすごく似合ってます。
私はこんなに素敵な大好きな人の隣にいるだけで、この上ない幸福感を感じた。
そして近くの川沿いの花火大会会場までの道を前に、すでに人が溢れかえっていた。
「混んでるね…。迷わないように気をつけよう。」
倫太郎はそう言うと、彼の左手と私の右手は繋がれた。
私はつい赤面して俯き、いつものように気さくに話す彼に頷くだけで精一杯だった。
ー倫太郎は手を繋ぐのが好きだったな。そして私は細くて長い、彼の指が大好きだった。
そして私達は会場途中の屋台を巡り、珍しい食べ物を買って立ち食いをしたり、射的や金魚すくいをしたりしては笑い合った。
本当に楽しい時間はあっという間で、花火大会は始まった。
音楽と共に雲一つない夜空に舞う花火は、感動するほど綺麗だった。
でも花火がエンディングに向けてより魅力的なものになるにつれ、私の心に寂しさが募ってきた。
ー最後の思い出。花火と共に、二人の関係は消えてしまう。
例え私がタイムスリップでなくこれからまた人生をやり直していったとしても、倫太郎との関係はもう最後になると思ってならなかったのだ。
そう考えると私の目には涙が溢れ、必死に堪えようとしたとき、私の左手の上に彼の右手が重なった。
それは空一面にこれまでで一番大きな花火が数個打ち上げられ、周りから大歓声が起きた時だった。
倫太郎は私の顔を正面から真剣に見つめて言った。
「俺と付き合ってくれない?」
「え…。どうして?」
私はあまりに想定外の展開に信じられず、つい困惑して理由を聞いてしまった。
「俺はずっと夏帆が好きだと思ってた。でもあの夜、夏帆に想いを伝えたときに気付いたんだ。俺は夏帆が心配で忘れられなかっただけだって。夏帆といるときも、俺は梨子ちゃんのことを考えてた。俺はさ、梨子ちゃんに出会ってからその明るさに癒されて恋してたんだよ。」
悲しくて溢れてた涙は、嬉しさに変わり頬を伝った。
私はそのまま返事もできないまま人目を気にせずに泣き続け、倫太郎はその理由も聞かずにただ私の背中を優しく摩ってくれた。
ー倫太郎が夏帆さんの代わりでもなく、私を好きになってくれた。未来が変わってしまったらごめんなさい。でももう我慢できない。
「私も倫太郎先輩のこと大好きです。よろしくお願いします。」
倫太郎は安堵したかのように顔を緩め、私の肩を自分の胸に包み込んだ。
花火は消えず、最後の思い出は私達の始まりになった。