先輩の涙
私が一度目の初恋をした夏から2年。
その日も同じ8月12日だった。
倫太郎のアパートに行き、私はいつものように散らかってる部屋を簡単に片付けていた。
彼は買い物に行っているようで、私は郵便受けに入っていた合鍵を使って先に部屋に入っていた。
紙屑などのゴミを集めて台所の大きいゴミ箱に入れようと開けた時、私はあるものを見つけてしまった。
それはピンクの袋に赤いリボンでラッピングされた一輪の向日葵だった。
その時ちょうど、倫太郎がスーパーの袋を抱えて帰ってきた。
私は挨拶もせずに、とっさに彼に聞いた。
「ねぇ、ゴミ箱に捨ててある花どうしたの?」
「…言えない。」
倫太郎はそう冷たく言い放つと、私に目を逸らしたまま寝室のベッドの上に寝転がり携帯をいじっていた。
私はベッドの端に座り、彼に詰め寄った。
「この花どうしたの?」
「…。」
「彼女にあげるの?」
倫太郎は何も返答せずに、携帯をいじったままだ。
私は今まで我慢していた感情を抑えていたものが溢れ出し、彼の携帯を奪って言った。
「それとも誰か女の子にあげるために買ったの?でよなんで捨ててあるの?」
私は思わず涙が出てきて、寝ている倫太郎の肩を強く揺すった。
彼は深くため息をついて、私の両腕を強く掴んで怒鳴った。
「そうだよ。」
それは倫太郎が私に初めて見せた、真剣な顔だった。
そして私はそのまま今までの想いを告白して振られ、私達はもう二度と会わなくなったのである。
ー倫太郎はきっと想いを寄せる相手に向日葵を買ったのだろう。でもなぜこの花を渡さなかったのだろう?
それは私がずっと、二度目の過去でも忘れずに気になっていたことだった。
だからこの花に動揺を隠せなかった倫太郎を、私はつい強引に誘ってしまった。
ーどうやって聞き出せばいいのかー、聞いてもいいことなのか?
私は悩み少し後悔しながらも、会場の片付けが終わると直ぐに倫太郎の元へ向かった。
「待たせてしまってすみません。この後用事とかありませんでしたか?」
「大丈夫だよ。」
倫太郎はいつもと変わらず目を細めて微笑み、歩み進もうとした。
しかし私は立ち止まり、振り返る彼に手元にあるものを渡した。
「先輩、この花束を貰ってくれませんか。」
「…向日葵。どうして俺に?」
「先輩、この花をずっと見てたので。」
倫太郎は受け取った花束を胸に抱きしめて俯き、目からは一筋の涙が流れていた。
そして私から顔を逸らし涙を拭いながら、日が暮れかけた夕空を見て言った。
「梨子ちゃん、よかったら一緒に来て欲しいところがあるんだ。」