その花の意味
「頑張ったわね!あなたが勉強以外の何かに頑張るなんて…。」
「素敵だったよ梨子。2人からだ。」
8月12日。
合唱発表会は大歓声を得て、無事に幕を下ろした。
部員たちは舞台から下り、それぞれ家族や友人に囲まれて談笑をしていた。
両親は忙しいお盆の時間を割いて、最前席で鑑賞してくれた。
母は涙目になりながら私の頭を撫で、私は父から花束をもらった。
「明るい梨子にピッタリだと思って、母さんが選んだんだよ。」
それはー向日葵の花束だった。
私はその花を見た瞬間、自分の胸が強く締め付けられたのが分かった。
胸を押さえて深呼吸をした時、親友たちも私の下に集まった。
「梨子ー!お疲れ様ー!
「ねぇ聞いてよ!哲平ったら、感動したみたいでアンコールの後に泣きながら拍手してたんだよ。」
「え…哲平、そんなに合唱好きだったんだ?」
あのギャルゲーが趣味の野球バカこと、未来の旦那が合唱に興味があったなんて知らなかった。
私は彼らのおかげで少し動揺が落ち着き、2人に微笑んだ。
「はい、私達からお菓子どうぞ!」
「ありがとう!美味しそうー。」
「…太るなよ!」
クッキーやパウンドケーキ、咲良が選んでくれたんだろう私が好きそうなお菓子の詰め合わせをもらった。
相変わらず嫌味を言う哲平に人睨みすると、彼は同じクラスの部員のところに逃げて行ってしまった。
残った咲良は、私の耳元で静かに囁いた。
「倫太郎先輩来てたよ。ほら、あれ。」
「本当だ…。」
咲良が指差す観客席の奥に、私は倫太郎の姿を見つけた。
紗奈と新太が一緒にいる。
弟に連れてかれたのだろうと思っていると、私たちの視線に気付いた紗奈から手招きをされた。
「梨子。行ってきなよ。」
「…うん。」
私は観衆たちの声をも聞こえないくらい大きく高鳴る心臓の音を聞きながら、一歩一歩進んでいった。
「梨子ちゃん、お疲れ様。」
私が紗奈の横からこそっと顔を出すと、倫太郎は満面の笑顔で私にそう言った。
そして私が一瞬で顔を紅らめ俯いている間に、紗奈たちはいなくなっていた。
実は自分の合唱をする姿を見ていたなんて、なんだかいつもより緊張してしまい何を話したらいいのか分からなかった。
そんな時、彼は私の手元を見つめて呟いた。
「向日葵…。」
「あ…。」
倫太郎は酷く寂しそうな目で、その花を見つめていた。
彼と2人で向日葵を見るのは、二つの過去を持つ私にとっては二度目のことだった。
「先輩、この後…ちょっと遅くなっちゃいますけど待っててもらえませんか?話がしたいんです。」
「…分かった。待ってるね。」
倫太郎のことは二度目の過去でも大好きだけれど、下心は今の私にはない。
でも彼がこの花を想う意味を、私はずっと知りたかった。