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チケットの行方

初夏はすぐに終わり、暑い夏がやってきた。

期末テストもギリギリ落第点を逃れ、無事に夏休みを迎えることができた。

しかし合唱部は月末に合唱コンクール、お盆前には合唱発表会があるため、受験生並みに休む隙などない。

朝から晩まで合唱詰め、過去の私よりかなり頑張っているなと感じている。


「梨子はチケットさばけた?」

「うーん、親と哲平と咲良にあげて。あと1枚残ってる。紗奈は?」

「私も親と兄と、新太に2枚でさばけたよ。」

「あと1枚、どうしようかなー。」


お昼休み、私達は合唱発表会のチケットについて話をしていた。

チケットは貰えるのではなく、部員は強制的に5枚買わなければいけない。

まあ自分たちが成果を発表する会であるから、その会場代などは自分で出せというのだろう。

私は残り1枚を誰に渡すか、些細だが迷いの種であった。


「倫太郎先輩に渡さないの?」

「…渡さないかな。」

「渡したら喜ぶと思いそうだけどなぁ。」

「そう?」


あれからその日のうちに倫太郎は弟に私の連絡先を聞き、連絡をよこした。

嬉しかったけれど、彼から連絡が来ない限りは連絡をしなかった。

だからか連絡を取ることは少なく、時々帰り道や電車で偶然会うと一緒に帰ることがあったくらいだ。

梅雨だけでなく猛暑の今も、彼は電車通学をしていたから。

ちなみに部活の先輩方は優しいので、私が倫太郎と一緒にいることを見かけられても嫌がらせとかはまだ受けていない。


「なんで好きな人にチケットを渡さないの?」

「恥ずかしいの。彼氏でもないんだから。」


倫太郎を好きなことは、いつも一緒にいる紗奈にはすぐにバレてしまった。

ちなみに咲良や哲平にも。

やはり彼に会ってからの私はおかしかったらしい…。

そして私が新しく出会った人の存在に気付いた友人達は、彼が理由だとすぐに勘づいたのであった。


皆は私が好きな人に行動に移さないことを不思議がり、私を応援しようとする。

でも私はこの気持ちを伝えさえしなければ、私も倫太郎も傷付かないだろうと思ってやまなかった。

そんなことは彼らに言えるわけもなく、私は恋に臆病な女の子を演じて誤魔化していた。


「ねぇ、新太は知らないよね?」

「…私が言う前に勘づいてたよ。新太も兄貴が梨子と付き合ったらいいなって言ってた。」

「え…なぜ。」

「面白そうだからだって!4人でお出かけとか?」


なんだか紗奈と新太の間では盛り上がっているようだ。

ダブルデートなんて、周りに知られないようにひっそりと付き合ってた過去の私たちには全く別の世界だ。しかしそもそも、私が好意を持っているだけだし倫太郎の気持ちさえなければなんにも展開は進まないと信じていた。

そして8月になった。

合唱コンクールは無事に終わり、例年通り良い成績を抑え、残る発表会に向けて正念場だった。

その日私は部活帰りに、絢斗とファーストフード店で夕食を取っていた。


「なぁ、梨子。コンクールのチケット持ってる?」

「うん、1枚残ってるよ。」

「俺にちょうだい?」

「あれ?新太と行くのかと思ってた…いいよあげる!」


絢斗とはなんだか気が合って、こんな風にご飯を食べたり、カラオケをして騒いだりなどよく2人で遊ぶことも多かった。

だからチケットをあげることも友人として何も躊躇いもなかった。


「音外すの楽しみにしてるから。」

「私の美声に聞き惚れるがいいわ!」

「…まあ音痴ではないけどさ。」


ひょんなことでチケットが無くなり、私の気持ちは軽くなった。


ーこのまま倫太郎には何も行動しないように。できているよね私。


しかし運命というのか、心の呪縛のようなものはそう簡単には上手く解放できるものではなかった。



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