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気持ちに嘘はつけない

「莉子ちゃんには感謝してるんだ。だから会って話したかったんだよね。」

「感謝…?」


私は逃げたくて逃げたくて仕方なかったが、二回も逃げるわけにもいかず、留まって倫太郎と一緒に帰ることにした。

緊張感が拭えず冷静になろうと必死で心ここにあらずだったが、彼は私に想定外のことを言った。


「新太に紗奈ちゃん紹介してくれたでしょ?俺さ、新太とは仲が悪かったんだけど。新太は紗奈ちゃんと付き合ってから丸くなってさ、俺ともよく話してくれるようになったんだよね。」


私は呆気にとられ、記憶を呼び起こした。

そうそう、本来新太と倫太郎の兄弟は仲が悪かった。

確か理由は、新太が親から長男として可愛がられて優遇される兄に嫉妬して敵意を持っていたからだった。


「感謝されるのは私じゃなくて、紗奈ですよ先輩。」

「…そうかな?」


私が指摘すると、倫太郎は照れくさそうに笑った。

その笑顔は子犬のように愛らしくて、私が一番彼の大好きだったものだった。

でも私はこの笑顔を外からでしか見たことがなかった。


「俺は新太から梨子ちゃんのことをよく聞いていたけど…梨子ちゃんの明るさが2人を変えたのかなって思ってたよ。」

「そ…そんなことないです!」


私はつい顔が真っ赤になり、胸が高鳴った。

過去に戻ってやり直しても、心はどうにもならないようだった。

私は過去から戻って再会した倫太郎に、一目惚れして恋に落ちてしまった。

だからあれからずっと苦しくて苦しくて仕方ないーもう認めざるを得ない事実だった。


ーでも、この気持ちを押し殺して何も私が行動しなければいい。そうしたら何も起こらないのだから。私はただの弟の友人で終わる。


私はそう自分に言い聞かせ、平然を装いながら、倫太郎とありふれた世間話をした。

彼は意外ととてもお喋りで、話はよく弾んで楽しかった。


そして一緒に電車に乗り、倫太郎が降りる駅に電車は到着しようとしていた。

今度こそこれきりだとー私は笑顔で彼を送り出そうと思っていたが、彼は自分の携帯を取り出して私に言った。


「梨子ちゃん、連絡先…教えて?」

「え…?」

「俺も新太みたいに、もっと梨子ちゃんとこうやって話したりしたいし。」


ーどうなってるんだ!!!!この展開はおかしい。っていうか倫太郎はこんなに話をするような人じゃなかったし、もちろん積極的じゃないし。なんで私の連絡先を…。


「…新太に聞いてみてください。」


私は心臓が激しく動き出てきそうになり胸を抑えながら、作り笑いをして誘惑から逃げた。

きっと倫太郎の気まぐれ?気遣い?の可能性を信じ、家に帰って目が覚めてくれることを期待した。


「分かった。じゃあ気をつけて帰ってね。」


電車は間も無く到着し、爽やかな笑顔で手を振り倫太郎は去って行った。

私は電車が発車してから大きくため息をつき、座席の背もたれに項垂れた。


ーどうすればいいんだろう…。過去とは違う出会い方、倫太郎の態度。なんかもう回避できないし。気持ちが言うことを聞きそうもない。


そしてやはりなぜか放心状態の時に現れる救世主は、私の未来の旦那だった。

地元の駅に着き電車から降りると哲平に後ろから声をかけられ、げっそりした私を見て言った。


「おい、やっぱり病院行った方がいいんじゃないか?」

「大丈夫、体重は減ってないから。」

「いや違くて。咲良とか絢斗も言ってたけど…頭の方!」

「…そんなこと心配するくらいなら…」


ー私と早く恋愛して、付き合ってくれ!旦那よ!


と心の中で呟き、私は何も悪くない哲平を睨むのであった。



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