78 吉報と
「カズヒロ様……!」
アヴィの声が聞こえた。ここにいるはずがないのに。一応声の方向へ向くとそこにはアヴィがいた。幻聴ではない……ようだ。
それに俺が選ばれたというのに実感がわかない。今まで散々だったからか、いざ当事者となると分からないものだ。
この剣は初めて手にするはずなのに、力がみなぎって使い方が手に取るようにわかる。試しに振ってみれば、今まで振った剣とは比べ物にもならない軽さ。
だが岩山をも切り刻めそうなほどの強さを感じる。早くこの剣を試したい。
「まずは獣人の隊長に報告をしましょう」
俺の心を読んだかのように、アヴィが諭す。新しいおもちゃを試している場合ではないでしょう。そう言っているようだ。確かに正論。頼まれたことを終えたのだから、先方の不安を払拭せねば。
俺はアヴィの身体を魔法で浮かすと、そのままパブリ達のいる中腹へと降りていく。俺達と俺の持っている剣を見て、みなは喜んでいた。
「選ばれたのですか!」
「やったね、カーくん……!!」
「めでたいな」
口々に自分のことのように喜んでくれる仲間。それを見て更に嬉しくなる。
これでやっとティアフォールドへ復讐が出来る。遺物はあの馬鹿共の手に渡ることなく、全て俺の仲間の手にある。これで少しは有利に立てよう。
意気揚々と下山すると俺は異変に気づいた。空へ高く登る一本の煙。あれは――狼煙だ。
方向からして関所の辺りだろう。まさか人間に襲われている? そんな馬鹿な。
「試し切りされては?」
アヴィが狼煙を見ている俺にそういった。いい提案だ。俺は微笑むとみなに合図をして、狼煙の元へと走り出した。
まもなく関所というところで、あの獣人の隊長に出くわした。それだけじゃない。あの関所にいたであろう亜人達が集まって――避難していた。
隊長はひどく深手を追っていて、部下がその治療をしている最中だった。部下も見た様子じゃ相当疲弊している。魔力も残っていないのか、治癒魔法が途切れ途切れに施されている。
この様子だと治療をするより先に、隊長の命を蝕むほうが勝るだろう。
俺が指示するより先にパブリが駆け寄った。部下の小さな制止をよそに治療をしていく。他にも何人か部下はいたが、それを黙ってみているだけ。パブリの行動を咎めようとする力すらないのだろう。
であれば俺が質問なりしても何も言うまい。、
「何があった」
「……勇者を自称する人間が襲ってきた」
「…………あのクソが……」
おおかた国にそそのかされて利用されているのだろう。目障りな亜人の国を滅ぼすには、無知な馬鹿どもはいい利用対象だ。実践訓練だとでも言えばホイホイ了承するだろう。
亜人はどれだけ悪い連中なのか、だから奴隷なんだと嘘を並べて。結局悪いのは人間様だというのに。
「他に怪我をしている人は? 治すから来るのです」
隊長が完治すると、パブリは他の者達の治療を始めた。逆らうことなく彼女の元へと行っているあたり、多少は俺達を信用してくれているのだろう。
まあ街は俺達を信じてくれなかったがな。
俺は関所の方を見やった。まだ爆発音がして炎が上がっている。まだあの場に誰かがいる可能性がある。それは捕らえられた兵士や逃げ遅れた亜人という意味でもあるが、勇者が滞在しているという事も含めてだ。
他国の関所を襲うということは全員が集合しているはず。あの連中が単体若しくは全員揃わぬうちに、強襲なんて出来る力があるとは思えない。
アクト相手にビビって腰抜かした勇者様だぞ?
それに腐った根性を叩き直してやるにはいい機会じゃないか。俺の新武器のテストも兼ねて、やってやろうじゃないか。
「関所には?」
「……まだいる。部下も、敵も」
「わかった。ここで休んでいろ。……悪いが、パブリは連れて行く」
「構わん。後はこちらの治癒師にやってもらう。…………存分に暴れてくれ」
「あぁ」
俺達は関所へ向かって飛び出した。
今思えばキヨヒト達はバトルロイヤルの時点で、既にそれなりの力があったのだろう。でなければ貴重な人材をあんな猛獣の巣に送り込むはずがない。
ただ奴には決意と根性が無かった。自分が敵と戦って命のやり取りをするという気持ちが足りなかったのだ。そして相手が知性を持った生き物であることも分かっていなかったのだろう。
「……ねえカーくん」
「なんだ」
「ユウシャって、人を助ける人のことでしょ?」
震える声で聞いてくるマルンを横目で見れば、その表情は怒りそのものだった。彼女の住むスイ国は戦を好まない。だから必然的にそこに住んでいる民も、こういったことが嫌いだろう。
マルンは俺と一緒に行動してきて、世界がどれだけ汚いか垣間見たことだろう。勇者と言っている割にはやっていることが卑劣で、まるで悪だから。
騙されていたとしてもそんな単純な話を信じ込んでしまうという間抜けさ。自分で少しは考えたり調べたりするという事もできない馬鹿さ加減。
そんな人間にこの世界の未来を託そうとしているのだから、なおさら馬鹿馬鹿しい。
「あぁ、本来な」
「カズヒロのほうがよっぽどユウシャサマだよなぁ~? マルン」
「そうだよ!」
マルンは強く同意していたが、ジースの言い方は完全に俺を馬鹿にしているような感じだった。今が緊急時じゃなかったら殴ってるぞ……。どうせ避けれられるんだろうけど。
なんて談笑している間に俺達は関所に辿り着いた。俺が山に行っている短い間に、綺麗とは言えないがしっかりしていた関所は荒れ果て、ところどころで炎が上がっている。
地面には血が滲んでいて、武器や破けた布――衣類が転がる。少し陣地を歩けば亜人の死体も転がっていた。
「ひどいです……」
惨状を見てアヴィが嘆いた。そしてこちらが悲しむ時間を与えぬまま、話し声が耳に届いた。あの腹立たしい声色は小さな声だとしてもわかる。キヨヒトのものだ。
物陰から覗いてみれば、案の定四人全員揃っていた。装備品から武器から何から、バトルロイヤルでみた時とは随分と違う。
時間を掛けて武器を集めるのがやっとだった俺達とは違って、バックに国が付いているだけある。何でも金で解決していそうだ。
キヨヒト達はちょうど捕まえた亜人質を尋問に掛けているところであった。既に死にかけている獣人と、恐らくあれはドワーフだ。頑なに口を割らないことを苛立っているようで、今にも手が出そうだった。
俺が到着したからには、これ以上無駄に命を落とさせてなるものか。
そう思った矢先、ついに怒りが頂点に達したのか、キヨヒトは己が武器を振りかざしていた。
だがその攻撃は、ドワーフに直撃することはなかった。
「な……!?」
キヨヒトの剣戟は防がれていた。それは縛り上げられているドワーフによって、ではなく。ジースによって。
俺の意図をくんだジースは、キヨヒトが武器を振り上げた瞬間に飛び出た。流石の俺も目視できないスピードだった。
ジースは攻撃を防いだ短剣でそのまま剣を弾くと、キヨヒト達と捕虜の間に立った。くるくると短剣で遊びながら、のんびり奴らの前に姿を現していく俺達を待った。
キヨヒトはさほど馬鹿ではないようで、バトルロイヤルの時に出会ったジースを覚えていたのだろう。顔には「どうしてこいつがここに」と書かれているくらいわかりやすい。
つまるところパーティを組んでいる俺を含めた人間が出てくるのも想定済みだろう。
「……何故止めた、冒険者」
「何もしてない亜人を殺す異常者から救っただけだ」
「俺が異常者だとでも!?」
国王に色々と言われたのだろうか。俺がちょっと煽っただけで切れ始める。横にいるミユはキヨヒトが怒鳴るとあからさまに怯えだした。パーティ内での横暴も見られそうだ。
漫画描いたりゲームしたりしてました(正直)
そろそろ完結したい……。
前のような頻度にはならないですが更新するつもりです。