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6 ハードトレーニング

 街に行ったあの日から、何故か師匠が与えてくる訓練(どちらかと言うと試練)の難易度のが、格段に上がった。

今までやっとの思いでついて行って、怪我をしなくなっていたというのに。

しかし今は、致命傷まではいかないが、骨折脱臼その他諸々、ギリギリの大怪我が多発。

しかも師匠は俺に回復魔法を掛けてくれず、自分で治せと言うようになってきた。


「骨折までは無詠唱で治せるようになれ」


 んな無茶な。

俺が今無詠唱で治せるのは、せいぜい突き指程度。今までは師匠が毎度毎度回復魔法を掛けてくれたから、攻撃魔法や剣術を重視して、回復魔法が疎かになっていたせいだ。

今まで甘やかされてサボっていたからってのは分かるけど、行き成りハードすぎないか?


 ゆえに魔力消費が激しい。

師匠は躊躇うことなく俺の腕や足を折るので、取得している回復魔法の中でも一番上位の魔法を唱える。

 10分も消費してやっと足一本を治した。しかし痛みが伴っているまま。

無痛無詠唱はどれほど上級な魔法なのかを、よく思い知らされた。


 フラフラと治したばかりの足で立ち上がると、遠くにいる師匠は間髪を容れずに攻撃を繰り出す。

 あーあ、治したばかりの足がまた折れた。

もちろんそんな足で立っていられる訳もなく、俺は再び地面へと倒れ込んだ。


「何してんだい、早く立ちな!」


 痛い、めちゃくちゃ痛い。さっきの痛みがまだ収まってないのに、また折られたんだから。

めちゃくちゃスパルタで酷い修行だと思うだろう。

でも俺はそんなこと思わない。むしろ、なんて優しいんだろうと改めて実感する。


 震えながら叫ぶその声には、厳しさという愛情が詰まっているんだから。


 それに遠方から攻撃を仕掛けているのは、涙とか顔を見られたくないからだろう。

もっとも時折聞こえる、鼻をすするような音のせいでバレバレなんだが。


 どうせ、裏切った元仲間を見て、俺が一人で何か起きても対処できるようにしたいんだろう。

言ってくれればいいのに、不器用な人だ。

もしここで勘違いでも起きて逃げ出したりしたら、どうするつもりだったんだろう。

 ……いや、俺は、俺だからそんな事はない。

そう踏んで、信じてくれたんだろうか。


「……信じてくれるなら、応えてやらないとな」


 集中だ、集中。

魔力を手のひらにだけ集めるように、イメージを強める。

無詠唱はまだ無理だから、出来るだけ短く。

痛みは――無痛には今はまだ出来ない。だから、少しでも軽減出来るように。


 暖かな光が収束して、消えて散った。

治療完了。時間にして――六分程。

さっきの10分に比べれば、結構縮められた。大成長では無かろうか。

 喜びを隠しつつ、師匠の顔を伺うと、俺以上に顔を綻ばせていた。

目が合うとハッとして真顔に戻ったがもう遅い。俺は見たからな。


「……ゴホン、たかが数分縮められた程度で喜ぶんじゃないよ! 骨が折れた程度、秒単位で治せなきゃこの先は生きてけないね!」


 一番喜んでいたのは貴女でしょうが!

なんて突っ込んだら、ガチモードの遠距離攻撃の嵐を受ける事だろう。俺には分かる、だから言わなかった。


 それに、師匠の言う事は間違っていない。

万が一何かしらの戦闘に巻き込まれた場合、相手の目的はどうであれ、敵対していたら十中八九殺す気で来るはずだ。

今の訓練中は、師匠が攻撃の手を止め、俺に回復する隙を与えてくれている。

だが、完全に殺す気の相手がそんな事を許すはずがない。

だから時間が惜しい。瞬時に回復し、その場を切り抜ける必要があるのだ。


 ましてや詠唱をする事で、居場所が割れる場合がある。

声に出しているのだからどこで魔法を使っているのか、分かってしまうのは当然だ。


 素早く物陰に隠れて、一瞬の内に回復し、その状況を突破する。

彼女が俺に求めているのはそれだろう。

そして、彼女の中でその求めていることは、最低限の行いだという事。

出来て当然、出来なければ魔術師など名乗る資格などない。


「はあ……。今日はもう日が暮れ始めた。痛みが治まったら夕飯を用意しな」

「……わかった」


 食事の用意。最近はそれも俺にとっては、修行の一環である。

ティー師匠に甘えていた頃は、自宅にある素材を自由に使って良かったが、今は違う。

()()()調()()()()始めなければならない。


 これの為に、まずは探知魔法をマスターした。

生きているものはもちろん、薬草やら錬金素材でも世話になる。

 それと、武器屋で怒鳴られた事をきっかけに、他人・物のステータスを見る魔法にも磨きをかけた。

この魔法の能力向上により、毒キノコを選り分けたり、素材の効果をいち早く知れたりと、物凄く役に立っているのだ。


「……さて、炭水化物(パン)と野菜はまだまだあるから、あとは――タンパク質。そうだな……、昨日は魚だったし、今日は肉だな」


 肉――元の世界のように、加工済みの生肉が並んでいるわけではない。

仕留める所から始まり、血抜きやら何やらが必須。

それに牛や鶏、豚などかそうゴロゴロいる訳では無い。森の中ではせいぜい兎、猪……熊程度。

はてさて遭遇できればいいんだが……。


 俺は必要な道具を空間魔法で収納し、小屋の結界から出た。

後ろを振り返るとそこにあった庭や小屋は消え、ただの木々が立ち並ぶ。

 結界内に再び入るには、結界を作成した人間が定めた《鍵魔法》が必要で、詠唱・無詠唱関わらず使用しなければ入れない。

使用していない人間は踏み入れた瞬間ワープし、小屋を飛ばした先の空間へ行くという。


 ――自力での食べ物調達。

それもハードになった修行の一つで、もし万が一師匠が不在になってしまった時、生きていく為に必要な技術と知識だ。

大抵の獲物なら、《生命感知魔法》を使い場所を特定、後は消し炭とかになって食べ物ではなくならないように調整して攻撃魔法をぶつけて倒すだけだ。

 が、それだけでは成長には繋がらない。

たまには手法を変えて、剣術だけで挑んでみたり、はたまた食べかけの木の実だとか糞から場所を割り出したりと、様々な方法で行っている。


 臨機応変とは、あちらの世界にいた頃からよく言われていること。仕事のみならず生死の関わるこの状況でその時々に合わせて行動するのは、とても重要なのだ。


 伝奇でしか見たことはないが、相手の魔法を吸収する魔法があると聞く。

師匠が魔術師なだけあり、俺は戦士や剣士よりも、魔術師型で成長をしている。

そんな俺が、魔力吸収の相手と出会った時、魔法でしか対処できませんだなんてなったらもうそこで終わりである。

それこそ本職の人達には到底及ばずとも、最低限自分の身を守れる程度は習得しておくのが、生き永らえる為の一つの手段なのだ。


 さてそれじゃあ、今日の食材集めにうつるか。

まずは獲物の場所特定。日も暮れ始めたし、さっさと終わらせたいものだ。


 地面に手をついて、目を閉じる。

手のひらに魔力を集中させて、その魔力を地面へと移していく。


 師匠から学んだ生命感知魔法は、自分の魔力と技術に応じた範囲に存在する《生きているモノ》をマークするもの。

広範囲に薄く広げた魔力を《触覚》《視覚》の代用にする、という原理だったと思うが、魔力を直接広げる為、バレるリスクも高い。それに、相当な魔力量を保有していない限り、範囲が狭い。

屋内などの狭い範囲での隠密行動時などは役に立つんだが……。


 だからこういう森では、俺が独自に考案した《振動感知》を使う。

ただこれは《生きるモノ》ではなく《動くモノ》なので、相当使い勝手が悪い。それに作って日も浅い魔法なので、効果も曖昧で、かつ視覚化されないのでとても分かりづらい。

 感知方法は振動――つまり、音である。

現在は試作段階だからまだまだだが、いずれは音の反射を利用して、立体視も可能にしたいと思っている。


 ただまぁ、どれだけ癖のあるアイテムや魔法でも、使い続ければそれなりに慣れてくるもので。

振動だけで「あぁ、これはクマだな」「こんなところに人間?」とか、何となく掴めてきてはいた。


 にしても、この反応は何だ――?

やけに振動が多い。人数が多いのも分かるが、これは……車輪?多分馬車か何かだろう。蹄のカツカツという振動が響いている。

 音が大きくはないので、現在位置よりは近くはないはずだが、如何せん正確な位置が分からない。下手に森の中に飛び込んで出会ってしまえばアウトだ。


 それに結界が張られているとは言え、この集団に魔術師がいないとは限らない。ましてや不気味がられ、近隣住民は基本的に寄り付かないこの森だ。入ってくるのは冒険者など、力に自信がある者のみ。

………師匠に警告しておくか。


2日に1話投稿、1日1話ストック作成……を目標にしていたのですが、

旅行なり仕事なりで出来なくなりつつあり、

ストックが減ってきています。

おやすみ5万年ほしい。

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