2 交流と現実
朝食を終えた俺達は、玉座の間に呼び出されていた。
聞けばこれからやるはずの事の準備が滞っているようだ。まずそれの詫びから入った。
そして今日のやる内容は、右も左も分からない俺達を連れ、城の案内に出るという。
稽古をつけたりこの世界のことを学ぶ為に、しばらくは世話になるので、しっかり知っておいた方がいいだろう。
「ここは食堂。鍛錬が始まる前は、君達の部屋に直接食事を届けるが、始まったら兵士と共に食事と鍛錬をしてもらう。」
つまり、現役兵士と同じメニューでのトレーニングが行われる可能性が……。
ついていけるのか? 俺は運動という運動を、ここ数年やってないぞ。
最悪、1番最後の運動と言えるモノをやったのは、高校の時かもしれない。
通勤や店での品出しで動くといえばそうだ。当然その程度では、戦えるような筋肉の付き方をしていない。
俺はチラリと案内人を見る。
金属製の鎧を着た男性。最初の自己紹介では、王国軍のトップに君臨する人間だと言っていた。
素人目だが、まともに相手はできないとヒシヒシと伝わる。
紅一点の社会人の朝日 美結が案内人の説明を聞いて青ざめていた。そりゃそうだろう、いきなり呼ばれて世界を救えだなんて無理難題だ。
彼女はずっと不安がっており、起きてからぐすぐす泣いていたのしか見ていない。平沢に慰められていた事から、既にいい感じの雰囲気になっていたのが少し腹が立った。
俺には関係ないことだけど。
唯一の女性なのが可哀想だ。
そしてまた社会人の仲町 庄次郎。
死因が自殺らしく、まだ生きていることに絶望していたのを覚えている。
勇者と聞いて少し楽しそうにしていたのは幸いだろう。案内人の話もワクワクしながら聞いている。きっと内容を聞いて吐くんだろうが。
そんな説明を聞きながら向かった先にあった部屋は、鑑定部屋だった。
この世界には適性というものがあり、各々に適した属性や武器を用いることで、戦闘を優位にしやすくするのだ。
ただし、鑑定は相当に金がかかるらしく、上級冒険者の給料ぐらいじゃないとできないらしい。
扉をくぐり部屋に入る。
円を描く高い天井、天窓のステンドグラスから差し込む光。光の先には、不気味に光る大きな宝玉が設置されていた。
心なしか、宝玉は浮いているように感じる。
「皆様、召喚の儀お疲れ様で御座いました。こちらは先程申し上げました通り、鑑定の間になります。ささ、順番にあの宝玉にお触れくださいませ」
案内人――国家専属魔術師が話す。
あれに触れるとステータス欄に適性が表示されるらしい。
まず先陣を切ったのは、平沢だった。
余裕笑みを浮かべて、ズカズカと宝玉へ歩み進める。そして躊躇いもなく触れた。
触れた瞬間、ステータスが目の前に現れる。あんな感じなのか、本当にオンラインゲームのようだ。
ええと、表示されている文字は――剣士。そして、赤と茶色、黄色の適性…と書いてあるが…。
「適性で見れるのは、剣士のようにクラスともう一つ――、炎や氷などの属性です。」
国家専属魔術師が話す。
彼が言うには、平沢の属性は炎と土、そして雷。普通は適性色は一属性なのだが、三つも適性があるだけやはり勇者に間違いないそうだ。
次は中島が触れた。
若いってのは怖いもの知らずなのか、躊躇いもなく宝玉へと歩み寄った。
出たステータスは、暗殺者。
暗殺者なんてやべーよ! と思ったが、説明によると、隠密や短剣に長ける戦士らしい。スピード重視の戦士だとか。
色は……、水色と紫。氷や水系と、闇系だ。
男の子が憧れそうなクールなタイプだな……。
次にブラックが嫌で自殺したらしい仲町が触れた。
先の二人とは違い、緑の木属性のみだったが、職業適性が二つあり、盾兵と錬金術師と表れていた。
やはり勇者として召喚されだけあって、単純ではないようだ。
俺は一体、何になるんだろう。
「な、長塚さん、先にどうぞ……」
「え? 俺は最後でも……」
唯一の女性、朝日さんが話しかけてくる。
さっきまで泣いていたから、目が赤い。
心配性というか、怖がりらしく、適性を知るのが怖いんだろう。
それに死んだと思ったらいきなり世界の命運を任されたのだ。女の子だし、怖いのは仕方がない。
「いいじゃないすか、美結さ〜ん! ささ、もうコレは勢いっすよ!」
俺から引き剥がすように割り込む平沢。
さっきは仲良くなれそうなんて思ったが、前言撤回だ。段々この女好き野郎にイライラしてきた。
「う、うん……」
おずおずと宝玉へと触れる。現れるステータス。今までの三人と比べると、全体的にステータスが低いと感じた。
ただ、魔力の値が半端ない。
多分、彼女は後衛の魔術師だな。
「色は……、白ですね。光属性です。回復魔法や浄化魔法が得意のようです。職業も魔法使いですし、いい後衛になるでしょう。」
微笑みながら専属魔術師が言う。
どうやら予想は当たったようだ。前衛でバリバリに戦うっていうタイプじゃなさそうだし、ピッタリだろう。
なんて考えていると、皆がじっと俺を見ている。
ああ、そっか、あと残されたのは俺だけか。さっさとしろってことだな。
「ナガツカ様、さあ」
急かされなくてもやるさ。これからの運命を決めるのだから、何だかワクワクしてきたじゃないか。
そっと宝玉に触れる。
ザワリと全身が震える。底に秘めている何かが呼び起こされる感覚がする。
目の前にステータスが表示された。
書いてあるのは――
「これは……っ!」
真っ先に声を上げた、王国専属魔術師。
どうなんだ?と顔を伺うと、その顔はなんというか……絶望、そして嫌悪に満ちていた。
なんだ、そんなに強いのか?
《異世界チート》も夢じゃないって――
「衛兵! 早くこいつをつまみだせ!」
………え?