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プロローグ

 ――それは今まで俺が見た中で一番と言っても過言ではない、美しく綺麗な笑顔だった。

師匠はそのまま、


「行きな」


 そう言った。

言い終えるとあの笑顔は消え去り、真面目な顔で俺を見つめた。

 外からは、師匠が張った結界が割れはじめる音がする。裂け目から外の王国騎士達の声が漏れ、こちらに聞こえてくる。

 ――ああ、やって来た。


 俺達を殺しに。


 今に至るまではそれほど長い期間ではなかった。《こちらの世界》に来て厄災側の人間だと追放にあい、恩師である彼女に助けられる。俺の短い人生の中ではとても濃い時間だった。

 何もかもが初めてで、かつ良質な学びの場に充ちていた。

やっと信頼できる人間に出会えた。

裏切りを忘れ、人を信じる心を手に入れられた。

そう思ったのにこのザマだ。


 この森の最奥にある小屋は、ある程度の結界が張られていて、師匠が俺のことをバレないようにしてくれているものだと思っていた。

でも実際は、俺と同じく国に貶められた魔女の隠れ家だったようで、賞金のかかる大悪党にされたと知ったのは、別に新しい記憶でもない。


 いきなり異世界に来たと思えば、仲間と王国に悪と決め付けられて追放、逃亡生活を余儀なくされた俺に手を差し伸べてくれた師匠。

お互いに《王国に恨みがある》という点で直ぐに意気投合し、俺は彼女の身の回りの世話(という名の家事)をやり、彼女は俺にこの世界のこと、そして生きる術――魔術と戦術を教えてくれた。


 しばらくは平穏に暮らしていた俺達だったがそれも短い期間だった。


 姿を消した《厄災の勇者》。

野垂れ死にしたとか、死体が発見されたという噂を聞かないせいで疑われ、実は生きているのでは、という話が上がったようだ。

まあ、実際こうして生きているのだが。

そしてそんな話があがったタイミングで、俺はミスを犯した。そのせいで居場所が割れて、自分の首を絞めることになってしまった。


 そしていつの間にやら懸賞金がかけられ、膨れ上がり、多数の騎士兵士、冒険者が集まった。

現に、こうして追い詰められている。


「駄目だ! 師匠……、死ぬなら俺も……!」


 あんたが死んだら俺はどうしたらいい?

まだ学びたい事はまだ山ほどあるんだ、あんたみたいな魔術師がこんな所で、こんな形で死んでいいはずがない。

次第に目頭が熱くなる。


 師匠は柔らかく微笑み、俺の頬へ触れた。

指先が冷たく、微かに震えている。

そして確約された《死》に、怯えている。


「アタシの可愛い弟子。今まで不甲斐ない師匠だったろ、ここぐらいカッコイイとこ見せさせておくれよ」


 震えた親指が、俺の頬をするりと撫でる。

優しい手つきだ。愛弟子の言葉に相応しい、愛した弟子へ触れる指だ。

堪えきれずに涙が一つ二つと流れる。


 師匠は、彼女は。

恩師というよりも、母だ。

弟子というよりも、息子の俺を――命を賭して守らんとしている。


 結界への衝撃音が増していくのが聞こえる。

この感じだともって数分。すぐに騎士や冒険者がここに入り込んでくるだろう。


「さ、早く。地下室の隠し通路を抜ければ村が見えてくる。少しは助けになるだろうさ」


 普段入るなと言っていた地下道は、そういう目的のものだったのか。

いや、今はそんなこと考えている暇はない。

師匠が作ってくれた《生きる道》を、しっかりと有難く頂戴しなければ。


「……ありがとう、師匠。俺にとってあんたは母親みたいなモンだったよ。」


 涙を拭って地下へと走る。

外の音があまりにも大きくなっていたが、振り返ってはいけないと感じた。


「――母か、アタシには勿体ないほどの息子だったよ。」


 地下道をくぐると、後ろで結界が全て割れる音がした。

筆が死ぬほど遅いので不定期ですが、続けるようがんばります。

よろしくお願いします。

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