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不思議なマッチ  作者: 山本若沖
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夢の国ファンタージェンランド

千尋がやってきた世界は夢の国でした。

千尋がやってきたのは、不思議な不思議な森の中―どこからか不思議な音色が聞こえてきました。辺りをよく見ると、水色の髪をした少年が笛を吹いています。その少年の服も大きな目も水色です。

「君は誰だい?」と少年が尋ねると、千尋は「私千尋、十二歳よ」とこたえました。

「ぼくはサファイア、十歳」とその少年が言うと、私の方が二歳おねぇさんよ」と千尋が言いました。

「二歳年が上だからって偉いとは限らないさ。君はこんな事できるかい?」サファイアの体がゆっくりと宙に浮きました。座って笛を吹いているままの格好で宙に浮いたのだから、不思議でとても凄いと千尋は思いました。少年は宙に浮いたまま、宙返りをしたり、クロールみたいに空中を泳いだりしています。

「ぼく、凄いんだね。年下だからといってバカにしてごめんなさい」

「君は千尋といったね。千尋、やってみて。簡単だよ。ただ飛びたいって心の中で強く念じれば簡単さ」

こんな年下の男の子に呼び捨てにされて、タメ口で話されて千尋は少しイラッとしました。

「あんたにできて私にできないわけがないわ」と千尋は心の中で強く飛びたいと念じました。するとどうでしょう。千尋の体は宙高くふんわり浮きあがったではありませんか。

「凄い、マジ飛べた!」強く強く念じると、千尋の体は更に高く高く上昇し、下の景色を眺めるくらいになりました。

「まあキレイ!」上空から眺める景色は最高です。新緑の森はどこまでも続き、はるか彼方には水墨画のような山々が連なっています。

「ほらね、簡単だろ」とサファイアが腕を組んだまま宙に浮いています。

「ここでは心で思った事が何でも思い通りになるんだよ」

千尋はサファイアという不思議な少年と、しばらく空の旅を楽しみました。

千尋が早く飛びたいと念じれば、飛行機よりも速くなり、もっと高く飛びたいと思えば、雲の上を飛行する事もできるのです。千尋が上を見ると、澄んだ青色の空がどこまでも続き、下を眺めると、雲の切れ間から茶色の山脈がうねのように連なっています。山脈を過ぎると黄緑のじゅうたんのような平原。馬やパッファロー等の動物達が走り回っているのが見えます。白い鳥達の群れが千尋と競うかのように近付いてきました。遠くに水晶の建物のようなモノが見えます。ダイヤモンドのようにキラキラ輝いていて、芸術作品のようです。千尋はまっすぐにそこに向かいました。風は心地よく、まるで春のような暖かさです。

水晶の建物は、すぐ目の前まで迫っています。千尋はスピードを緩めると、建物の玄関らしき扉の前にゆっくりと降り立ちました。扉は千尋を待っていたかのように開きました。千尋は建物の中に入ると、思わず目を見開きました。階段もテーブルも椅子も全て水晶でできているのです。どこからか美しくて高雅な音色が聞こえてきます。どうやら人魚が竪琴を奏でている音のようです。人魚の両側には、金のライオンと銀のグリフィンが座っています。人魚の長い髪は、透き通るような黄緑色、澄んだ瞳も同じ色です。

「ゴールド、シルバー、グリーン、友達を連れてきたよ」とサファイアが叫ぶと、金のライオンと銀もグリフィンは、少年の姿に変わりました。

「君は誰? ぼくはゴールド」

「ぼくはシルバー」

「私はグリーンよ」と人魚が竪琴を奏でながら言いました。

「私は千尋」と千尋が自己紹介をすると、ゴールドとシルバーが駆け寄ってきました。

「僕たちと友達になろう」

「みんな、どうしたの?」と綺麗な紫色の髪をした少女がやってきました。

「千尋ちゃんっていうんだ。今日から僕たちの友達だよ」

「千尋ちゃんね。私はルビー」ルビーのドレスも瞳もキレイな紫色です。

「千尋ちゃん、水晶の宮殿にようこそ。千尋ちゃん、私達と友達になりたいなら、この宮殿にふさわしい格好があるんじゃないの」

「いっけなーい!」千尋の服はぼろぼろの服です。そうだ、心念じれば何でも叶うんだ。千尋は高級な美しいドレス姿の自分を想像しました。すると千尋のぼろ服は、たちまち美しい純白のドレスに変わりました。

「千尋ちゃん、キレイ! 妬けちゃう」とルビー。

「千尋ちゃん、王女様みたい」と男の子達。

「千尋ちゃんね。このファンタージェンランドで思う存分楽しんでね」無数の宝石を散りばめたようなシャンデリアから、ダイヤモンドのような光を全身から放つ少女が現れました。

「私は永遠の少女、メアリー。もう何千年も生きてるの。この国の女王で、この国そのものでもあるわ」

「もしかして不老不死とかですか?」と千尋はメアリーに尋ねました。

「不老不死とは違うわ。ここでは永遠が永遠なのよ。少女のままでいたいと思えば、未来永劫少女でいられるわ。時間というモノが存在しないの。思った事が何でも叶う世界だから」

「メアリー、じょ、女王様! 千尋も年をとらないでずっとここで暮らす事ができますか?」

「メアリーでいいわ」とメアリーは優しく微笑んだ。

建物の回りには色とりどりの花が咲き乱れ、小鳥や蝶々達が飛び回っています。

「ここには大人はいないのさ。好きなだけ遊んでいられる子供だけの国だよ。千尋、あれに乗ってみない?」とサファイアは、大きなガラス玉のような乗り物を指差しました。

「大きなガラス玉ね。何かしら?」と千尋が言うと「面白い乗り物だよ。千尋も乗ってみなよ」サファイアは千尋と一緒に、この乗り物に乗りました。二人を乗せたガラス玉のような乗り物は、まるで水面を滑るようにゆっくりと進んで行きます。二人を乗せたガラス玉は、ウサギやリス、山猫などの小動物達がいる森の中を過ぎると、小さな川のせせらぎの前で止まりました。ガラス玉はやがて川の流れにのりながら流されて行きます。

「流されてるよ。このガラス玉割れないの?」と心配になった千尋が尋ねると「大丈夫だよ。このガラスは絶対に割れないのさ。大きな岩が落ちてきても割れないのだよ。それに流されてるわけじゃないから安心していいんだよ」とサファイアが言いました。突然。見たこともないような魚が数匹跳ねました。ガラス玉はジャングルのような暗い森の中に入って行きます。木にまきついた大きなニシキヘビが二人の方に首を向けました。

「キャア、蛇よ!」

「大丈夫だよ。この国の動物達は蛇も熊もバッファローも、みんなおとなしいから安心しなよ」

無数の金色の光が暗闇の中に光りました。その金色の光は、二人の方に近付いてきます。

「森の妖精達だよ」

「これが妖精、まぁキレイ! カワイイ!」と千尋は手にのってきた妖精を眺めました。姿は十センチくらいの少女で、背中に羽が生えています。

やがてガラス玉は暗い森を抜けると、滝の手前に差しかかりました。

「見て、滝よ!」

「滝なんかへっちゃらだよ。まぁ見てなって」

ガラス玉は、滝を勢いよく下って行きました。下るというより、垂直に落ちていくという感じです。滝の真下の水面が、目の前に迫ってきています。

「キャア!」と千尋が悲鳴を上げた瞬間、ガラス玉はふんわりと水面に落ちました。

「まぁキレイ!」と千尋は目を見張りました。流れ落ちる滝の回りを、七色の虹が帯のように覆っているのです。

「千尋」とサファイアは千尋の目をじっと見つめました。

「何よ!」と千尋も見つめ返します。少年の大きな瞳は、空のように澄んだ青色です。少年の顔が千尋のすぐ間近まで近付きました。

「千尋」とサファイアは千尋の首にキレイな首飾りをかけました。

「まぁキレイでカワイイ首飾りだわ。ありがとう」と千尋はその首飾りを眺めました。まばゆい光を放つ、宝石のような木の実でできた首飾りです。

ガラス玉は、やがて宙に浮かび始めました。どこまでもどこまでも上昇を続けて、上がって行きます。千尋が下を見ると、水晶の建物がまるでオモチャのようです。

ガラス玉は雲を突き抜け、青色の空に向かって上がり続けます。

「どこまで上がって行くのかしら?」

「心配いらないよ。ここでは全てが想像で創られるのだから。千尋にもっともっと美しい景色を見せてあげるよ」

どこまでも上昇を続けていたガラス玉は、とうとう宇宙空間にさしかかりました。宝石のような無数の星達が、すぐ目の前で瞬いています。

「まさか宇宙に…」

「そのまさかだよ」

ガラス玉は宇宙空間を全速力で飛び回り、月が間近に見える所までさしかかりました。すぐ真下を見ると、サファイアのような青色の地球が見えます。月を過ぎると火星です。木星、土星とどんな宇宙船よりも速く飛んでいるようです。火星は茶色い玉で、木星は奇妙な模様をあしらったような巨大な球体です。

「土星ってこんなにキレイなんだ」千尋は銀色の輪に囲まれた惑星をうっとりと眺めました。それは宇宙空間に漂う色彩模様の芸術作品のようです。

「千尋、土星から地球まではあっという間だよ」

二人を乗せたガラス玉は、金色の帯を描きながら宇宙空間を光速のスピードで進んで行きます。土星を出発して木星、火星、月と光の超特急銀河鉄道です。大気圏を突っ切り、大きな青色の球体の地球がすぐ目の前です。雲を通り過ぎ、森や平原が眼前に迫り、キラキラと輝く水晶の宮殿が見えてきました。

千尋はサファイアや子供達と毎日毎日、楽しく遊びました。何日経過したのか、何年過ごしたのか全然分かりません。なにしろこの世界では時間というモノが存在しないのだから。夜はなく、寝る事もありません。いくら遊んでも疲れる事がないのです。食べ物は心で念じるだけで、美味しい物が目の前に現れます。特にこの世界で素晴らしいのは、アトラクション系の乗り物です。人工的に造られたモノではありません。子供達の創造によって自然にできたモノです。この世界には、たくさんの人達が暮らしています。みんな千尋よりも年下か少し上の子供達ばかりです。千尋は毎日子供達とアトラクションの乗り物に乗ったり、空を飛び回ったりして遊びました。アトラクションの乗り物は一生かかっても遊びきれないほどの色々な種類がありました。サファイアと乗ったガラス玉の乗り物は、そのひとつにすぎません。

千尋はある日、サファイアと一緒にメリーゴーランドに乗りました。そのメリーゴーランドの周りでは美しい妖精達が飛び回り、景色を新緑の春に変えました。春の次は夏、真っ赤な夕日と紅葉が栄える秋、真っ白な雪景色に囲まれた冬に変わり、最後は雪どけ水が流れる春となります。

「千尋、これはおすすめだよ。ゴーストの館さ」とサファイアはある日、千尋をお化け屋敷みたいなアトラクションに誘いました。

「お化け屋敷でしょ、怖いわ」

「全然怖くないよ。全部で千体のゴーストが住む館だけど、みんないい子達ばかりで、暖かく迎えてくれるよ」サファイアの言葉に安心した千尋は、古い洋館の中にあるカートに乗りました。二人を乗せたカートは、真っ暗な闇の中をゆっくりと進んで行きます。どこからか子供の歌声が聞こえてきました。大勢で歌っている英語の歌です。カートがある大広間みたいな場所にたどり着くと、大勢の子供達が二人を出迎えました。子供達は全員体全体が青白く透き通っています。体が透き通った子供達は、美しい声で英語の歌を歌っています。大広間を過ぎると、カートはトンネルのようなモノの中に入りました。

「キャハハハハハー!」と甲高い笑い声をあげながら何人かの透き通った子供達が、カートの上に乗ってきました。

「みんなボクたちを歓迎してくれているのさ」とサファイアはとても楽しそうです。トンネルを抜けると、カートは書斎のような部屋に入りました。大きな本棚には、無数の本がぎっしりと詰め込まれています。何人かの透き通った子供達が椅子に座って本を読んでいます。子供の一人が顔を上げました。その子供には目はなくて、二つの空洞が空いています。体が朽ちて骨だけになっている子もいます。千尋は怖くなってサファイアの腕にしがみつきました。

「大丈夫だよ。可哀想な子も中にはいるって事だから」サファイアは全く平気な顔で言いました。

子供達の中には、大人の姿になったり子供に戻ったりを繰り返している子もいます。一人の子供が、おじいさんの顔になって、低いしわがれた笑い声を発しました。顔はおじいさんだけど、体は子供のままというのが不気味です。その子供の身長が伸びて大人の体になると、顔はあどけない幼児に戻ります。

「ただのイタズラだから気にしないで」とサファイアは、怖さで震えている千尋に言いました。

書斎を抜けてパーティー会場のような所にたどり着きました。テーブルには、豪華な料理が並べられています。何百人もの透き通った子供達が、見事なハーモニーの大合唱を繰り広げています。その奥のステージでは、透き通った男の子と女の子が抱き合って、口付けをかわしています。

「どうやら結婚式のようだね」

「二人共、お幸せに」

ゴーストの館が終わると、サファイアと千尋は観覧車に乗りました。二人を乗せた観覧車は速度が速く、あっという間に雲の上にたどり着きました。雲の上から更に上昇すると、辺りは暗くなりました。キラキラと輝く星達が、観覧車の中から見えます。

「宇宙にきちゃったね」サファイアと千尋はキレイな銀河を眺めました。

「あれ、見て! ほら花火!」

真っ暗な宇宙空間に瞬く無数の七色の花火―まるで光の世界に迷いこんだようです。サファイアは観覧車のドアを開けました。

「何するの? 危ないわ!」

「まぁ見てなって、男の子はこうでなくっちゃ」とサファイアは無数の花火が瞬く宇宙空間に飛び出しました。

「サファイア! もう、サファイアったら」と言って千尋も宇宙に身を投げ出します。二人は花火がきらめく宇宙を飛び回りました。

「キャホー!」と歓声のあげながらサファイアはとても楽しそうです。

「待ってよ、サファイア」と千尋はサファイアを追って光の矢のように飛び回りました。

千尋は毎日が楽しくて楽しくて、この幸せがいつまでも続くように祈りました。千尋がそう祈ると、幸せがずっと続きました。何年か何十年かの時を過ごしたか分からないくらいに永遠と思えるような時間でした。アトラクションや乗り物は何十年、いや何百年かかっても遊び尽くせないくらいの色々な種類があります。千尋とサファイアは潜水艦で深海を探険して、珍しい深海魚や何十メートルもあるような生物を観察したりしました。

タイムマシンもあり、二人は太古の恐竜や戦国時代の合戦等も見物しました。楽しい時間が未来永劫続くかと思っていたある日の事、サファイアと他の子供達は、悲しそうな目で千尋をじっと見つめました。女王のメアリーも凄く悲しそうです。

「千尋、お別れの時がやってきました」

「メアリー女王、これはいったい?」と千尋はきょとんとしています。なぜならこの生活がいつまでも永遠に続くと信じて疑わなかったからです。

「千尋、行かないで!」と子供達は涙を流しています。

「千尋、行くな!」とサファイアは千尋の手を引っ張りました。

「ぼくが千尋を行かせるものか。千尋はぼくの大切な宝だ」少年の手は力強くて暖かい。

「千尋、よく聞きなさい」メアリー女王は悲しそうな顔で優しく言いました。

「この世界では全ての願いは叶います。永遠にこの世界にいたいと思えばいる事もできます。でもひとつだけ例外があるのです。あの力で、この世界にやってきた場合は…」メアリーの言葉が途切れ、ダイヤモンドのようにキラキラ輝く姿がモノクロになりました。大勢の子供達も、芸術作品のような水晶の建物の内部もモノクロになり、やがて手を強く握っているサファイアの姿も灰色になり、全てが消えてしまいました。


千尋は廃屋の屋根の下にいました。服もボロに戻っています。千尋は宝石のような輝きをずっと放っていた首飾りを見ました。ただの色あせた木の実をつなぎあわせた物にすぎません。千尋はその首飾りを手に取って「サファイア、ありがとう」と呟きました。寒さはますます厳しくなり、雪が降り始めました。寒さに耐えきれなくなった千尋は、三本目のマッチをすりました。

三本目のマッチをすった千尋が、次に行く世界はいったい?

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