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青春片思い編

陰陽師と言う職業はいつからできたのだろうか?そもそも、陰陽師と言う職業はあるのだろうか?そんなことを考えても仕方がない。だって、そんなことを考えたところで何も物語は始まらない。こんなことを考えること自体が無粋。今はそんな事どうでも良い。今、考えなければならないことは・・・・・この現状。僕は喪服にも似た真っ黒な和服を着せられている。傍から見たら何か神聖な儀式でもやっているのだろうと思われるんだろうけど、実はそんな立派なものじゃない。ただ単に当主を引き継ぐ儀式。昔はとっても大切で神聖な事だったらしいけど、この時代には時代錯誤な儀式だったりする。僕の親でさえ今日は普通に仕事に行っている。代々、僕の家系は昔から悪霊を退治する陰陽師を家業として成り立っていたらしい。僕も聞いただけだから良く分かっていない。そもそも、今の時代そんな古臭くて宗教的なものに誰も頼ろうとはしない。頼るにしたって凄腕で有名な陰陽師に頼むんじゃないかな。こんな今にも廃れてしまいそうな陰陽師に何を期待しろって言うのだろう。街中で急に『あなたには悪霊が憑いている!今から家に来てお祓いをしてあげましょう』なんて言われたらどうだろうか?まさしく言った本人がこの世間からお祓いされてしまいそう。とまあ、そんなことを街中でやってしまった二十一代目、神在出雲(かみありいずも)は変質者として警察に捕まってしまった。自慢じゃないけど捕まったのは僕の爺ちゃんだ。本当に自慢できない。身内それも爺ちゃんが若い女性に声をかけて捕まったとか友達に言えない。寧ろ言ってしまったら、バレてしまったら、僕はこの近辺を歩けない。自宅警備する羽目になってしまう。

『これ、聞いておるのか雪』

『ちゃんと聞いています』

雪と言う名前は僕の名前。本名は立花雪(たちばな ゆき)。小学校の頃は『男の癖に女らしい名前』だってよくいじめられていた。でも、僕は昔からこの名前は好きだった。名前でいじめられていたのに不思議と嫌いにならなかった。僕の親が一生懸命付けてくれた名前。誰が嫌いになるものか。なんて、建前はそんなことを偉そうに、言っているけど、単純に雪が好きだから。真っ白で何色にも染まりそうで染まらない純白の色。雪と言うより白色が好きなのかもしれない。今目の前には堅物そうな軽犯罪者・・・・改、神在出雲が目の前に凛とした表情で僕を見つめている。

『じーちゃん。質問いいでしょうか?』

『ふむ。なんだ?』

『そもそも、何で、僕がこんなことになってんの?それに急じゃない?普通は父さんとかになるもんじゃないの?順番的にさ』

単純かつ直球な質問をすると、

『なんでって、そりゃあ、ワシが警察に捕まってしまったからじゃろうな!ワッハッハ!それに、アイツはダメだ。仕事、仕事って陰陽師をなんだと思っとるんだ!まったく!』

先程の凛とした表情はどこのその。真っ白な長い顎鬚を触りながら大爆笑をしていたと思いきや次はブツブツと自分の息子の悪口を言い出す。

警察に連行されたお爺ちゃんは理由(しんじつ)を話しても分かってくれる人はいる訳もなく大分、警察の方々には迷惑をかけたらしい。しかし、警察署内で暴れていた爺ちゃんを一瞬にして大人しくさせたのが隣でジッと黙り静かに目をつぶっている女性。僕の婆ちゃんで爺ちゃんの奥さん。以前、爺ちゃんが言っていたけど、この世で一番恐ろしいのは鬼と婆ちゃんと年金制度。それを幼かった僕は婆ちゃんにチクると爺ちゃんは一ヶ月ぐらい頭に包帯を巻いていた。今になって考えるとどんなことをされたんだろうって気になる。そんな怖い婆ちゃんが爺ちゃんが捕まり暴れていた警察署に出向いたんだからあとの事は言わなくても分かるだろう。・・・そう、爺ちゃんは救急車に運ばれて家に帰ってきた。正直、最初は意味が分からなかった。呼んでもいない救急車が家の前に停止して気難しそうな表情をした婆ちゃんと気を失いタンカーで運ばれてきた爺ちゃんを見た時は流石に何事かと思った。だけど、婆ちゃんが笑いながら

『雪。気にしなくてもいいんだよ。お爺さん。頭を少しコツっと叩いたら気を失っただけ。いつもの事だからね』

と、さもかもいつもの出来事だと言うものだから『そっか。いつものことか』なんて納得してしまった。爺ちゃんは少しして気を取り戻し婆ちゃんにこってりと怒られ『もういい加減歳なんだから当主の座を明け渡せ』と捨て台詞のように言い放たれたらしい。勿論、爺ちゃんは『昔から継いできた神在出雲の名をすぐさま若い奴らに渡せるか!!』なんて言うと思いだろうけどそうじゃない。爺ちゃんもこれ幸いと『そうじゃな!ワシはもう引退じゃ。これからは街中で若い女子たちと・・・』なんてフットワークが軽い感じで僕に押し付けてきた。と、言うのが事の顛末。だから、急遽この行事は始まったと言ってもいい。二十一代続いているって結構な年月。だから、もう少しちゃんとした決め方をするものだと思っていたけど、予想以上に軽く決まっているように思えて仕方がない。本当に軽い感じで決まった。初代のご先祖様は嘸や虚しい気持ちでいっぱいだろうと思う。神在出雲と言う名前が泣いているようにも見えなくはない。

『まあ、長い間続いているといっても今は形だけじゃ。雪もそこまで気張らんでいい。名だけ受け継いでくれればの!ワッハッハ』

『でもさ、でもさ。本当に名だけでいいの?僕、将来陰陽師になるつもりは本当にないよ?』

『ふむ。このご時世、陰陽師(これ)でおまんまを食べていける人は数少ない。ワシらみたいな小さい家系ではそうも行くまい。別に、神通力があるわけでもないんじゃからな。ワッハッハ!名だけじゃ、名だけ』

本当に名が泣いているということはこのことだろうか。きっと先代の神在出雲達は相当落胆しているんだろうと思う。するとずっと黙っていた婆ちゃんが静かに口を開く。

『雪や。名と言うのはただ名乗ればいいってものじゃないんだよ。名前には魂が込もっている。だから、この神在出雲と言う名前を受け継ぐんだったら少しはちゃんとした自覚をもってこの名を使うんだよ』

優しいけど厳しい言葉を婆ちゃんは温かい微笑みと共に投げかけてくる。

『・・・・・・いや。だから、僕はそもそも名前を継ぐ気なんて本当はないんだけど』

なんてなことを言えるはずもなく静かに頷く。その頷きを見ると満足したのか婆ちゃんはニコリと微笑み立ち上がり家の方へ戻っていく。

『婆さんがあんな優しい顔をしたのは何十年ぶりだろうかの。ふむ。感無量じゃな。ワッハッハ!よし!ワシは今から駅前でじょしこーせーを見物に行ってこようかの』

『・・・・・・・』

今回は流石に断ってもいいんじゃないか?と思うぐらい高校入りたての僕には荷が重い。多分、父親に言えばすぐさま解決するんだろうけど、それじゃあ、何となく爺ちゃんが可愛そうな気がする。一応、今のところはこのままでもいいかなって思えてきた。案外早く割り切ることが出来たので僕は一先ず自分の家に戻る事にした。旧家にお邪魔していた為、台所にいた婆ちゃんに挨拶を済ませると僕は家に向かい歩き出す。婆ちゃんが『車で送ろうか?』と申し出てくれたけどやんわりと断る。何故なら外は晴天で散歩日よりだったから。季節は春。ポカポカ陽気でココロも何となく穏やかになっていく気がする。鼻から外の空気を吸ってみる。まだ少し冷たいけどどこか暖かく春の匂いがした。まだ、昼の一時過ぎ。学校のテスト期間が終わり早く帰れたためこんな時間にも関わらずお気楽気分で歩けている。

『こんにちは!おばあちゃん!』

旧家に行ったときにはよく行く、駄菓子屋。奥からゆったりとシワシワのお婆ちゃんがニコニコ笑いながら出てくる。

『よく来たね~。雪ちゃん。今日は立花さん家に行ったのかい?』

『うん。なんか、なし崩し的に僕が神在出雲の名を受け継ぐことになっちゃった』

『あら。そりゃ~おめでたいね~。雪ちゃんが当主さんになるんかい』

まるで自分の事のように喜んでくれるおばあちゃん。少し照れくさくなりながらもどこか後ろめたい気持ちもあった。正直、僕はまだ、名だけは一応受け継ぐ事にしたけど心構えまでは受け継いだ気持ちはない。言葉にはしないけど、僕の気持ちが分かったのかお婆ちゃんはシワシワの顔を一段とシワシワにして

『雪ちゃん。雪ちゃんのやりたいようにすればいいんよ。立花さんだってちゃんと分かっとるよ。だから、そこまで今は考えんでもええ』

『えっ!?』

お婆ちゃんはニコニコと僕に微笑むと紙袋にいっぱいのお菓子をプレゼントしてくれた。もちろん、お勘定をしようとしたけど『今日はええよ。おうちに帰ってしげくんと一緒におあんがなさい』と言い僕の胸に押し付けてきた。僕は有り難く頂く。しかし、流石にもらうだけじゃあ悪いと思い近くにあったキャベツ太郎を手に取り買おうとすると、それも紙袋に入れられプレゼントしてもらった。なんか、余計に気を使わせてしまった気がしてどこか申し訳なかった。少し、話をして僕は家路に改めて出る。それと、しげくんって言うのは僕の父親の名前。駄菓子屋を出ると袋いっぱいに入れられたお菓子たち。今から友達の家でパーティーでも開催するのかって言うぐらい詰めてもらっていた。僕はその上に乗っかっていたキャラメルの封を開け口に放り投げる。少し硬くだけど噛んでいるうちに口の中が甘い香りに包まれる。僕は家に向かい歩いていると左側のポケットから振動が体全体を襲って来る。僕はポケットに手を突っ込み携帯を取り出す。着信。とりあえず取ると電話越しから何やら荒い息遣いが聞こえてくる。

『雪ちゃん!今どこにいるの?私、雪ちゃんの家の前にいるんだけど鍵がかかっていてはいれないんだけど!何かあったん!?』

どうしてそこまで動揺しているのか分からないが、いつもの事であるため、雪も気にしなく話を続ける。

『んや。今日、旧家の方へ用事があったから行っていた。ってか、どうしてそんなに息が荒いん?』

『へ?な~んだ。そうだったんだ!じゃあ、玄関で待っているね』

そう言うとプツリと電話が切れる。

『いや、いや。心配してくれていたのはありがとうだけど、僕の質問を答えてから切ってくれても良かったのに・・・・』

なんて虚しい独り言をもう聞こえるはずはない先程の電話してきた相手に向かって言ってみる。僕は急ぐ訳でもなくだけどゆっくり歩くわけでもなくいつも通りのスピードで家に向かいだす。徐々に家が見えてくる。家の玄関の前で何やらもぞもぞと動いている物体が嫌でも目に入ってくる。多分、絶対に僕に荒い息をしながら電話してきた人物だろう。学校ではもう少し落ち着いた女性なんだけど、どうも学校を出ると共同が不審になってしまう所がある。

『あ!雪ちゃん、おかえりなさい』

『ただいま。どうしたの?今日はなんか用事?』

『やっぱり忘れていたんだ~』

少しムスっとした表情も全然怖くない。寧ろ癒されてしまうぐらい癒し効果が彼女にはある。だからと言って調子に乗って怒らせすぎてもいけない。以前、どうなるか試してみたところ・・・・背中に悪寒が走る。それ以上は怖くて言えない。一先ず、手に負えないことが起きたのでやっぱりやりすぎはいけないってこと。ものには限度があるってこと。

『黙っているってことは本当に忘れちゃった?』

『ごめん!なんだったけ?』

『だから、私が雪ちゃんの試験勉強を見てあげたから今日は雪ちゃんの奢りで試験終了の小打ち上げしようって言ってくれたじゃん!?その袋だって今日のために買ってきてくれたんだとばかり思っていたよ~』

『ん?これは駄菓子屋のお婆ちゃんに・・・』

『分かっているよ。雪ちゃん本当に好きだもんね~』

『まあね。それより丁度よくお菓子もいっぱいあるし、家で打ち上げするってことでいい?』

『うん。そのつもりで私もジュース買ってきたよ!なんか、新発売だって』

『・・・・・』

僕の幼馴染で日御碕(ひのみさき) 瑞穂(みずほ)。とっても穏やかな性格で異性、同性から好かれている。頭脳明晰で黒髪ロングで身長は168センチときた。僕と五センチしか変わらない。なんとか五センチ優位に立っているけどそれは数字だけ。実際はもう、同じ身長と言っても過言ではない。流石に言いすぎかもしれないけど結構身長は女性にしたら高い方。昔は全然僕の方が高かったんだけどいつの間にか追いつかれそうになってしまった女性(おさななじみ)

『ん?どうかしたの?』

『ん?いや。別に。瑞穂は身長が高いなって思って』

『だからそれ言わないでよ。私、結構気にしているんだから』

『ごめん。悪気はなかった』

『・・・ふふっ。分かっているって!雪ちゃんは人に嫌味を言えるほど心は荒んでないもんね』

『そ、そんな事はないよ』

『ふふっ』

『・・・・』

どうしてか、瑞穂が笑う顔がどこか僕をバカにしているような表情だったので急に恥ずかしくなり俯きかげんで玄関の鍵を開ける。

『ただいま』

『おかえりなさい。と、おじゃましま~す』

ニコッと後ろから瑞穂がそう言いながら玄関へと入って来る。僕は瑞穂のスリッパを出し先に僕の部屋へ行くように言い僕はリビングに行きコップなどをお盆に置き準備をする。するとリビングのソファー当たりから何者かの視線を感じる。視線がある方向へ目をやるとそこには透き通る程の真っ碧な瞳をした黒猫が僕の行動をジッと見つめていた。僕はフト視線を逸らし改めて瑞穂が待つ部屋へと向かう。すると瑞穂はジッと靴を脱ぎ僕を待っていたのか僕を見るなりハニカミながら笑っていた。つられて僕までにやけてしまう。

『部屋で待っていてくれても良かったんだよ?』

『あ・・あははは』

『?』

瑞穂は本当に誤魔化し方が下手くそだ。本当は僕の言われた通り部屋で待っているつもりだったんだろうけど何かの理由によってここで待つしかなった?改めて瑞穂に聞いてみても『ハハッ。やっぱり雪ちゃんも男の子だね。ゴメンね・・・』と気まずそうに苦笑いをしながら僕に謝罪をしてくるだけ。僕の部屋で何があったんだろうか?答えが導き出せないまま僕と瑞穂は僕の部屋に向かう。瑞穂はあれ以降顔を赤面して何も言葉を発しないし一体何が起こったんだろう?僕の頭の中はラビリンス状態だった・・・・が、僕の部屋に着くとついつい声を発してしまった。

『あ・・・なるほど・・・』

そこには綺麗に整頓されている男性用雑誌が堂々と部屋の真ん中に置いてあった。これは僕の名誉のために言わせてもらうけど全部爺ちゃんが勝手に買ってきた(もの)。と言っても、男性用雑誌と言ってもグラビアの写真集とか。『高校生なら多少は女子の体には興味があるだろう!だが、雪は恥ずかしくて買えないだろうと思ってわしが買ってきたぞ・・・早速開けていいかの?』と自分が見たいがために僕を理由にして買ってきた書物。僕は一回も見たことはない。嘘。数回は見たことあるけど恥ずかしくなって最後まで見たことはない。それもよりも問題は僕の部屋の真ん中に不自然に整頓されている写真集たち。

『ふむ』

と考えていると後ろから声が聞こえてくる。

『私が部屋に入ったときは散らばっていて。だから、一応は整頓したんだけどなんか恥ずかしくなってきちゃって・・・・だから、何となく雪ちゃんが来るまで下で待っていたんだ・・・アハハ・・・』

僕は謝罪を済ませ部屋に入っていく。瑞穂も『雪ちゃんは全然悪くないよ。それに動揺した私が悪かったんだし。ゴメンね・・アハハ・・・』

と、お互いが謝罪しあいついつい顔を見合わせるとお互いが笑ってしまった。その笑いのおかげかいつもの瑞穂に戻っていた。ちょこんと床に座り新発売と言うジュースを僕が持ってきたコップに注ぎだす。

『な、何その色!?』

『え?これはね~アンクザーソーダって言う飲み物だよ』

『炭酸だろうと言うのは気泡で分かるけど色だよ!色が明らかに人間が好んで飲もうとする色じゃない!!青色ってなんだよ!?青色って!?』

『そう?案外綺麗じゃない?私、青色って好き。なんか見ているだけで癒されるっていうかほんわかしちゃうよ・・・綺麗だな~』

と微笑みながら僕のコップに注ぎ終わり自分のコップにも注ぎ始める。むー。明らかに青色のジュースって美味しそうに見えない。確か口にするものは五感で味わうものって誰かが言っていたけど確かにそうかも。五感のひとつである、視覚ではあのジュースに負けている。あとは味覚と嗅覚に頼るしかない。だけど中々コップに手が出ない。確かに観賞用の水とかだったらとても綺麗だと思うけど、これは炭酸飲料水。瑞穂はコップに注がれたアンクザーソーダをうっとりとした目で楽しんでいる。瑞穂の視覚はあの飲み物に勝っている。今更だけど、飲み物に勝ち負けなんてあるのかな?僕は勇気を振り絞りコップを持つ。ひんやりと冷たい感触が伝わってくる。意を決して口に運ぶ。・・・・予想を遥かに越し、ただ単純に美味しかった。外見では本当の真実(こと)は分からいと言うこと。瑞穂にも感想を伝えると瑞穂は誇らしげに『どうだ!』と言わんばかりに胸を張って満足そうに笑う。買ってきた当人は口に入れた瞬間笑顔で気を失ってしまった。後で聞くと、この世とは思えないぐらい不味かったらしい。その感想を聞いた瞬間僕は爆笑してしまう。やっぱり味覚も人それぞれなんだと思わされた。

『そう言えば、雪ちゃんはどうして今日、お爺さんの所に行っていたの?』

『ん?ああ。別に大したことじゃないよ』

『ふ~ん。そっか!なら良かった』

瑞穂は深く色々と詮索してこない。それがとても心地よい。瑞穂は一言えば十理解してくれる。トンデモ少女。そんなことを言ったらまたスネそうだから言わないけど。瑞穂と夕方五時過ぎまで僕の部屋で何気ない日常の会話をしたりテレビを見たりしていた。春になったとは言えまだまだ日は短い。段々と外は薄暗くなってくる。

『じゃあ、私、そろそろ帰るね』

『あ、うん。じゃあ、送って行くよ』

『ありがと』

満面の笑顔でド直球に感謝されるのでついつい小っ恥ずかしくなってしまった僕は顔を逸らしてしまう。外は思ったより暖かく春だと思わせる陽気だった。

『夕方なのに暖かいね~』

『なー。今年は確か、夏が一ヶ月近く早く到来するらしいよ』

『そうなんだ!じゃあ、またみんなで海水浴行こうね』

『だね~』

たわいもない会話をすること数十分、日御碕宅に到着。僕は瑞穂と別れの挨拶を済ませ歩いてきた道を戻る。僕の中では一つだけどうしても気になっていることがある。それは、本棚の奥の方に入れていた写真集が瑞穂曰く部屋に散乱していたということだ。ひとつ言えることは誰かが僕の部屋に入り意図的に第三者に見つかりやすい場所に置いたということ。ひとつ、そんなことをして何の得があるかと言うこと。僕が瑞穂に嫌われるようにしたということ?だけど、どうしてそんなことをする必要がある?とこんなことを真剣に考えているけど、誰がやったか大体予想はついている。だけど、瑞穂の前では到底問いただせない理由(わけ)があった。けど、本当に分からない。どうしてそんな無駄なことをしたんだろう?アイツはあんな風に無駄なこと、必要のない事をすることが一番嫌いなはずなんだけど。先ずは家に帰らないと始まらない。この事件・・って程の事ではないけど家に戻らないと解決しないので一心不乱に家へと向かう。鍵を開け家の中に入る。僕はリビングに入り名前を呼ぶ。多分、物音が玄関を入って聞こえたので家にいるんだろう。

『蒼。どこにいる?』

僕はリビングに入り姿を探す。いつもは椅子に座っているのだけど今日に限っていない。多分、僕に色々と聞かれるのが面倒くさくなってどこかに隠れているのだろう。僕は一先ず手当たり次第探すことにした。案外早く見つかる。僕の部屋で凛とした姿で座っていた。

『蒼。お前だろ?僕の部屋に勝手に入って雑誌を所々に置いたの』

ため息をしながら僕は椅子に座り蒼の返答を待つ。凛とした姿とは正反対にお気楽な声で僕の問いに応えてくる。

『ニャハハ。流石、雪だにゃ』

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