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異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
将門の過去 日輪の如くアヅマに輝く
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幕間:追儺の裏


 冷然院(れいぜんいん)。――大内裏の東に隣接し、広大な敷地を擁し、多くの殿舎を備えた寝殿造の後院である。

 冷然院に住まうのは陽成院(ようぜいいん)。――第五十七代目の帝であった人物であった。


 戸が開け放たれた母屋の真ん中で外を見ながら座る陽成院。

 目を瞑り、追儺(ついな)の音をじっくりと聞く。

 頭の毛は無かった。が、齢七十手前であるというのに、その顔は若く瑞々しさを保っていた。


「今年の追儺は昼か。……経基(つねもと)よ、陰陽師の指示か?」


 振り向く事なく陽成院は背後に侍っていた源経基に問う。――その声質は若者のようであった。


「ええ、賀茂忠行様が占い、そうせよと仰ったようですね。何か――」


「裏があると。――まあよい、あの陰陽師のする事だ、朝廷の利になる事しかしまいよ」


 くつりくつりと静かに笑う。


「しかし、今上(きんじょう)帝は素晴らしい程に才覚溢れておるな。経基よ、お前も見たであろう? まだ断片的な力しか継いでいないのに、大祓詞で色々と払いおったぞ」


 陽成院は陽射しが入り込み、ほんのりと暖かくなった板間を手でなぞる。


「ええ、年が明けてからの元服の義が楽しみですね。しかし、耐えうるのでしょうか?」


 経基が憂慮(ゆうりょ)(ゆが)んだ暗鬱(あんうつ)な顔をする。

 陽成院は経基の方へと向き直り、両指で経基の両頬を掴み上げ、少々無理矢理に笑顔を作らせる。


「きっと大丈夫だと朕達(・・)は信じておる。嫡流ではないとはいえ、朕達(・・)の力をその身に納め、確と継ぐと信じておる」


 陽成院は経基の両頬を離し、先程と同じように外を見るために向き直る。


「ええ、そう仰るのなら大丈夫なのでしょう」


「心配しすぎなのだ。――基経(もとつね)もそうであったし、その息子の忠平(ただひら)もそうだ」


 雀が鳴きながら母屋の中に入ってきたのを陽成院は()でる。





 時は少し戻り。――大内裏(だいだいり)朱雀門(すざくもん)の反対側に位置する、大蔵が幾つも立つ場に(みなもとの)満仲(みつなか)安倍(あべの)晴明(はるあきら)の二人は居た。


 満仲は符を身体中に貼り付けられ、(ほこ)で盾を叩きながら晴明の合図を待っている。


「今です、前方宙返り」


 晴明の声に合わせ、その場で跳び上がり空中でくるりと宙返りをし猫のように着地する。


「うむ! 帝から天才と聞いてはいたが。確かに天才的発想だ、方相氏(ほうそうし)に人の動きを符で直接伝え操り、曲芸をするとはな」


 盾を叩き鳴らしながら満仲は感心する。


「満仲殿、褒めても何も出ませんよ。次は後方宙返りしてから、(ほこ)を二度ほど縦横に振って下さい」


「ほっ! よっ! こうでいいか?」


 晴明に言われた通りの動きをする満仲。


「良いですね、完璧です。そういえば満仲殿は(たいらの)将門(まさかど)という男の事を知っておられますか?」


 ふと晴明は武人である満仲を見て、都で話題の男であり、坂東の地で師匠である賀茂忠行と親しげであった男の事を思い出したのか満仲に問う。


「平将門? 噂の男だな。だが生憎、面識は無いぞ。何か気になる事でもあったのか?」


 満仲は問いに答えながらも、演舞をするように戈を振るう。


「お師匠様が珍しく、やる気を出して、平将門の本拠に本気で結界を張ったのが気になりまして」


 晴明は溜息を吐きながら、空を飛び大内裏を見回す目となっていた、式を操り手元に戻し始める。


「晴明のお師匠様に直接。……と思ったが年末年始の行事で忙しいだろうな、その内に折を見て聞いたら良いだろう」


 寒空の下で激しく運動した為か満仲の身体から湯気が出始める。


「よし晴明。これが終わったら(いのしし)を狩ってくるから、一緒に猪鍋にして食べよう」


「猪鍋! ほぼ終わりなので早く狩りに行ってください! 他の食材は用意してお待ちしておりますので」


 溜息を吐き憂鬱な表情は何処かに吹き飛び、小躍りしそうな程に喜ぶ晴明。

 その姿を見ながら、満仲は微笑む。

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