表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
将門の過去 日輪の如くアヅマに輝く
54/79

幕間:坂東調査


 平将門(たいらのまさかど)殿の本拠。豊田を調査、(いた)(そうろう)

 目に付く鍛冶場では活気多く。鍛治師は鑠金(しゃっきん)の中、玉雫を額に浮かせながらも、懸命に(つち)を振り降ろし候。

 刃の磨き具合たるや、筆舌(ひつぜつ)に尽くしがたき候。斬れ味も、又脅威なり。

 切っ先が曲がりたる刀は優れて候。我も一つ欲しけり。


 戦さ続きなれども、市井(しせい)の民の笑顔、多き事に驚き候。

 平将門殿の善政を()く事が、(うかが)え知れ候。

 皆が明るく、兎角、世話好き、誠に住み心地良しであり候。


 税を収むる事も遅れず。(しか)と納めて候。

 平将門殿の善政、周辺諸国に知れ渡り。各々の国司(こくじ)郡司(ぐんじ)との関係も良好なり。


 野本(のもと)の件にて、現場に居た(わらべ)に話を聞けり。

 (いわ)く、将門殿は神馬に乗りて、火の手から童を救い候。

 神馬は眉唾(まゆつば)であり候。なれども、竜馬をこの目で見れば、頷くしかなし。

 野本に火を放ちし、下手人は源護(みなもとのまもる)が子息、源扶(みなもとのたすく)本人であったと証言があり候。誠に遺憾であり候。


 将門殿を噂を耳にすれば、讃える声、多し。

 無辜(むこ)の民に優しく、悪人、悪漢、盗賊の輩には厳しく候。

 所感であるが、大変興味深し。



 そこまで竹簡(ちくかん)に記しかけたところで、筆をとる手が止まる年若い男。

 藤原忠平(ふじわらのただひら)から調査を依頼された、望月(もちづき)三郎(さぶろう)諏方(よりかた)より送り込まれた男で、名は望月(もちづき)千寿郎(せんじゅろう)という。


「うん? うーむ? 戦さ支度か? 違うな、訓練だな。春先だというのに、ご苦労な事だ。が……これが将門殿の強さの秘訣の一つやも」


 木の曲がりくねった太い枝の先に器用に座りながら、(あわ)ただしい将門の居を覗き、一人()つ千寿郎。


「そうだな」


 不意に横合いから掛けられた声に驚き、男は体制を崩し、下へと真っ逆さまに落ち――ずに、その足首をしっかりと掴まれ、宙吊りの形となる。

 木から落ちるところを救ったのは飯母呂(いぼろ)小太郎(こたろう)であった。


「大丈夫か? 此度が初の任か?」


 小太郎は無表情のままに、宙吊り状態の千寿郎を心配する。


「はて? 何のことでしょうか? ただ木の上で涼んでいただけで御座います」


 冷や汗を垂らしながらも、しらを切る宙吊りの千寿郎。


「……将門様が望月三郎諏方殿より、既に聞き及んでいる。将門様は調査の手伝いや案内をしてやれ、と仰られた」


 ただそれだけを言って押し黙る小太郎。

 思索(しさく)(ふけ)る千寿郎。

 ややあって答えが出たのか口を開く。


「では、案内等々お頼み申す。望月千寿郎と申します」


「飯母呂小太郎。……先ずは筑波(つくば)山の飯母呂の里に案内致す。そこを調査の拠点とすれば良い」


 願っても無い申し出を、ありがたく受ける千寿郎であった。

 飯母呂の里にて。……小太郎の嫁とは知らずに年若い女に求婚し、小太郎に殺されかけたのは、また別の話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ