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異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
将門の過去 日輪の如くアヅマに輝く
32/79

キョウシュウ

 

 平國香(たいらのくにか)が居を構える、常陸国(ひたちのくに)真壁郡(まかべぐん)へと向かう平将門(たいらのまさかど)平良乃(たいらのよしの)の両名。


 二人は仲睦まじく、二頭の馬をゆっくりと歩かせ、揺られながら談笑する。

 

「時に良乃よ、飯母呂(いぼろ)の者から聞いたか?」

 

 唐突に話題を切り出す将門。

 その言葉に対して、談笑していた良乃の顔が曇り、声に張りがなくなる。

 

「聞いたよ。……将門の身体はすでに髄まで呪いに侵され、印旛沼(いんばぬま)の竜の加護は呪いを抑えるために、内へと向き、その鉄身は生身となり、今は(・・)回復は期待できないって」

 

 良乃は溜息をつきながら、馬を将門の横にさらに近づけ、将門の脇腹辺りを何度か小突く。

 

「今度は独りで、何でもかんでも解決しようとするんじゃないよ、頼りになる部下も兄弟も、隣にはあたしも……」

 

 良乃の言葉を聞き、小さく頷き微笑む。

 

「存分に頼りにさせてもらうぞ、良乃……その前に色々とやらねばならんことが山積みだがな」

 

 笑いながら二人は馬の脚を進める。

 しかし……少し走ると、その行く手を阻むように一つの影が見え始める。

 二人は警戒を怠らずに馬の脚を止める。

 

 「将門、今回は先に行けって言うのは無しだよ」


 「――わかっている」

 

 人相が分からないようにする為か、黒く(なび)くのが特徴的な手ぬぐいで顔を隠し、頭は白髪交じりの男。


 良乃は布を巻いた薙刀を持ちながら、馬から降り。

 将門は下馬しながら、眼光鋭く睨みつけながら男へと話しかける。

 

「そこな(おきな)よ。いったい何用で道を(ふさ)いでおる? もし我らを害しようと考えているなら止めておいたほうがよいぞ」

 

 言い切ると同時に将門は男へと向けて、殺気を飛ばす。

 男は将門の殺気に対してぶつけるように殺気を飛ばす。

 

 空気が凍り、刃を持って襲ってくる――

 そう錯覚するほどに冷たく、身を裂かれそうな殺気のぶつかり合い。

 良乃は殺気が自身に向けられていないと分かっていても、余波を受け細かく身震いする。

 

「これが、隣に立つということ……」

 

 小さく……将門に聞こえない声でぽつりと呟く。

 良乃は気合を入れる為に、薙刀を持っていない右手で、自らの頬を周囲に響くほどの強さで叩く。

 

「将門……準備は良いかい?」

 

 赤くなった右頬と引き換えに、良乃の震えは消え、その目と言葉には覚悟が宿る。

 

「無論よ」

 

 将門は短い言葉と共に目配せを良乃にする……

 言わんとする意図を察し、口角が上がる良乃。

 

 じりじりと間合いを詰め寄る二人。

 対して男は足を肩幅より少し狭いほどに開き、両腕は脱力させ、やや前傾姿勢をとる。

 

 風が吹く――

 

 瞬間に男の二つ目が見開き朱く輝く、身体は放たれた矢のように二人へと飛ぶように駆ける。

 良乃は手早く、薙刀に巻いていた布をはぎ取り、男の視界を奪うために投げ広げる。

 

 男の手ぬぐいに覆われた口から、(こぼ)れる威嚇(いかく)するような音――

 同時に地面を這うように体勢を落とし、滑るように布を(かわ)す。

 

「とった!」

 

 ――確信した声。

 良乃の薙刀が地を(えぐ)りながら、男の顔に吸いこまれる軌道で振られる。

 それと同時に男の胴体を寸断するように真横から振り下ろされる将門の白刃。

 

「ぬん!」

 

 気合と共に将門の振り下ろした刃は男の背骨を砕き、臓腑(ぞうふ)をも断ち切る剛力により、男の上半身と下半身を切り分ける。

 上半身の行き着く先、良乃が振るう薙刀の刃――

 男の喉元と(あご)を縦に叩き割り、赤い血が中空(ちゅうくう)を染めるように舞い、良乃の顔を濡らし、上半身は一回転しながら地に落ちる。

 

「ふう、将門これでしまいかい? あっけなかったね」

 

 良乃は顔にかかった血を(ぬぐ)いながら、将門の隣に移動し問いかける。

 当の将門は、周囲を警戒しながら問いに答える。

 

「分からん、殺気は本物であったが……何か――」


「違和感がありましょう?」

 

 将門が言いかけたときに不意に耳元から男の声が聞こえる。

 ――二人は同時にその場から左右に飛びのきざまに薙刀と刀を声がした方向に向かって振るう。

 

手遊(てすさ)び程度の他愛ない事でしたが、多少は気が晴れましたぞ……平将門殿」

 

 左右から振るわれた薙刀と刀の刃。

 それをたったの指先二本で挟むようにし、ピクリとも動かないようにしていた。

 

「この膂力(りょりょく)……人ではないな、何者だ」

 

 将門は冷静に人ならざる行為を成した男へと問いかける。

 

「ふふ……望月三郎諏方もちづきさぶろうよりかたと申す、ただの老いぼれでございます。今は害意はないので光り物は納めていただければ」

 

 勢いよく刃を放す望月三郎、その顔は笑みを絶やさずにいた。

 一方その名を聞き将門は、はたと思い当たり、指から離された刃を鞘へと納める。

 

「良乃、薙刀を納めよ……」


「将門、いいのかい? こんな怪しい奴の言い分を信じて」

 

 望月三郎の言い分を信じず乗り気ではない良乃を目で制す将門。

 良乃は口を(とが)らせながら渋々と薙刀の刃を天に向け地面に立てる。

 

「さて、望月千代(もちづきちよ)の……敵討ちに来たか?」


「いえいえ、娘が仕事で死んだのは(せん)なき事……恨みもつらみも……無きにしも(あら)ずですが先程の手遊びでお許しをば」

 

 望月三郎が襲撃してきた男の死体の方をちらりと見たのに合わせて二人も見やる。

 煙を立てながら、姿形が(またた)く間に胴体を切られた蛇の死骸へと変わっていく。

 

「ほう……実に面白い術だな」

「で、ありましょう……平将門殿、我らは貴方様の暗殺を請け負いましたが、この度に御役御免(おやくごめん)となり申したのでご安心なされよ」

 

 にこにこと笑みを浮かべながら、悪びれる様子もなく朗々と語る望月三郎。

 

「ここからが本題なのですが……約定(やくじょう)により、我らは将門殿に大っぴらに加勢などは出来ませぬ……が、一つだけお教えしようと思いまして」

 

 回りくどい言い方に良乃が怒りを溜め始めているのか、身を震えさせ始める。

 

「将門殿の(ずい)まで入った(しゅ)は変質し、我らにはどうしようもない代物となっております。将門殿の一切陰りのない太陽の様な魂と竜の加護が(くさび)となって抑えております、ゆめゆめお忘れなきように」

 

 じっくりと望月三郎の言葉に耳を傾け、熟考した将門。

 

「ふむ、望月三郎殿。ご忠告痛み入る。つまりは死ねば厄災を振りまく存在となるかもしれないということだな」

「ほほ……御明察。しかし、八岐(やまた)の呪とはいえ、小指の爪垢ほどもない呪ゆえに年月とともに薄れてゆくもの……十年もすればその時には大丈夫でしょう」

 

 嬉々として望月三郎は語る口が止まらない

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