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異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
将門の過去 日輪の如くアヅマに輝く
26/79

屍山血河と

 

 将門(まさかど)の大声と()れながら倒れた男二人に気がつき、顔にかかった血を(ぬぐ)いながら全員が刀を構え、戦闘体勢となる。


「俺らのお楽しみを邪魔するとは……余程の死にたがりだな! お前ら、やっちまえ!」


 頭目(とうもく)の号令により、まず先に三人が将門(まさかど)に迫る。


「しねぇ!」


「ひゃは!」


「ぬあ!」


 三人ともが気合いや奇声を上げながら、寸分(すんぶん)の狂いもなく全くの同時に、中央の男が将門(まさかど)の頭へ、左右の男達がそれぞれ右肩、左肩に向けて振り下ろす――


「ふむ、成る程な」


 金床(かなとこ)に鉄を打ち付けたような音を鳴らしながら、三つの火花が散る。――将門(まさかど)は右手に持つ刀を水平に保ちながら、刀一本で三つの斬撃を防いでいた。


「な――ぐっ! 動かない!」


「どうなってんだコイツ!」


「片腕で、三人を――」


 三人が驚愕(きょうがく)の顔に染まりながらも両足と両腕に力を込め、振り下ろした刀を将門(まさかど)に届かせようと懸命(けんめい)に押す。

 が……将門(まさかど)の腕と刀は、まさに樹齢が古い大木(たいぼく)の如く、寸分(すんぶん)の揺らぎもせずに留まり続ける。


「防がれたなら、二の(げき)、三の(げき)の用意せよ! ぬぁ!」


 将門(まさかど)より、助言というべきか、(あと)のない男達への手向(たむ)けの言葉か……三本の刀を弾き返す。


 三人が一様に衝撃によって、刀を持った両手(もろて)は空中に上げられ、胴体が、がら空きとなる。


 ――千載一遇の好機を逃すほど将門は甘くなく、三人の胴体へと右手に持った刀と、左手に持った薙刀(なぎなた)で、左右より交差させる様に、胴体(どうたい)一尺(いっしゃく)程の幅をとりながら、滑らす様に振るう。


 将門(まさかど)は、返す薙刀の柄の先ほど。――石突(いしづき)で三人の胴体を横薙ぎに殴り飛ばすと、断末魔も無く、絶命した三人の胴体が達磨(だるま)落としのように飛び、一尺ほど背丈が縮む。


「かは! 次よ!」


 勢いそのままに将門(まさかど)の左側面より迫っていた男二人に襲いかかる。


「かかって来いや!」


「まぐれがそう何度も――」


「――(いな)! まぐれに(あら)ず!」


 まぐれ、という言葉に対して、(しゃく)(さわ)ったのか、将門(まさかど)咆哮(ほうこう)する。


「鍛えられた肉体と――練りあげた武による一撃よ!」


 将門(まさかど)は右腕を振りかぶり、(むち)のようにしならせ、刀を全力で投擲(とうてき)する。

 刀は強弓(きょうきゅう)で放たれたように一直線に、『まぐれと言った男』の隣にいた男の腹へと向かい――臓物を撒き散らせながら、骨を砕く、白い骨と赤黒い血を(まと)わせ、刀は背へ抜けてゆく。


「お前には刃を使うまでも無いわ!」


 薙刀(なぎなた)石突(いしづき)を前に出し、挑発しながら駆け寄る。


「舐めたこと言いやがって!」


 挑発に乗り、上段に刀を構える……それは将門(まさかど)を迎撃する為、最速で刀を振り下ろす為の構え。

 薄汚れているが、やはり素人ではなく一定の訓練をしていることが(うかが)える。

 将門(まさかど)は体勢を低く保ち、刀の間合いへと入る。


「とったぁ!」


 将門(まさかど)へ目掛けて、全力で振り下ろされる白刃。

 男が振り下ろす、刀の(つば)への正確無比な石突による突き。ーーその白刃は届かず、血に染まることも無く、手から離れ中天(ちゅうてん)を舞う。

 即座に将門(まさかど)の右拳が男の左頬(ひだりほほ)を捉え、打ち抜く。ーー幾つか飛ぶ歯と骨が折れる音。


「嘘……だろ?」


 目を疑う光景、将門(まさかど)以外の全員がそう言っても、おかしく無い言葉を最後に、殴られた男は首が背の方を向き、目を白黒させ横に倒れる。



()れは不味い……実に不味いじゃねぇか、おい、本隊を呼んでこい」


「良いんですかい? 計画が台無しに」


「この際、そんな事を気にしていられるか! さっさと行け!」


 語気を荒げながら頭目(とうもく)が手下二人に指令を出し、手下は北へと一目散に駆けて行く。

 駆けていく部下を見ながら、将門(まさかど)と対峙する頭目(とうもく)


「やはり、お前らは盗賊に(ふん)した常陸国(ひたちのくに)の……いや、平國香(たいらのくにか)源護(みなもとのまもる)のところの私兵だな」


 将門(まさかど)(げん)に対して、痛いところを突かれたのか……頭目(とうもく)は、にが苦しい顔をする。


「だからどうしたって言うんだ――よ!」


 先に口火を切ったのは頭目(とうもく)……将門(まさかど)の喉を狙った突きを放つ。

 ーーしかし、難なくと薙刀で弾かれる。


「お前らが村を襲い掠奪(りゃくだつ)! 近くにいる本隊に合流し、掠奪品(りゃくだつひん)を受け渡す!」


 将門(まさかど)は推察をしながら、一切の疲れを見せずに、頭目(とうもく)が放つ斬撃を次々に弾きながら続ける。


「本隊はその掠奪品(りゃくだつひん)を襲撃した村に持ち帰り、『我らが盗賊を討ち滅ぼした、安心されよ』とでも言って人心掌握(じんしんしょうあく)!」


 幾つもの斬撃を放つが(ことごと)くを将門(まさかど)に防がれ、滝のような汗をかきながら疲労困憊(ひろうこんぱい)で、息も絶え絶えな頭目(とうもく)


「そ……それが、ど……うした」


 力なく振るわれた刀、それを手から弾き飛ばし、薙刀(なぎなた)の刃を頭目(とうもく)の首筋に押し当てる。


「何、単純にこんな下衆(げす)で、下手(へた)絵図(えず)画策(かくさく)した(やから)を斬らねばという決心をしたまでよ……誰であろうとな」


 頭目(とうもく)の首を押し切り、鮮血(せんけつ)が散る、将門は大量の返り血を浴びながらも、死体から刀を集める。

 少したち馬の(いなな)きと大量の足音を耳にする。


「うむ、此奴(こやつ)らの本隊が来たか……予想より、随分と早かったな」


 薄汚れたなりをした男二人に呼ばれのか、やって来たるは、三十人ほどの戦支度を整えた歩兵と三騎の騎馬。


「お前ら! 誰の私兵(しへい)だ!」


 大気が震える……天と地に(あまね)く様な大声で叫ぶ。

 気圧(けお)されながらも、騎馬に(またが)り、大鎧を着た男は大声を返す。


「我ら、平國香(たいらのくにか)様を私君(しくん)(あお)ぐ者なり! 近隣を荒らし回る盗賊の成敗(せいばい)に来た!」


 一歩、また一歩と集団に近づく将門(まさかど)、その足は地響きを起こすかの様に進み……一歩進む事に陽が隠れる様に雲翳(うんえい)となり始める。


「そうか……ならば根切(ねき)りにして問題ないな!」


 将門(まさかど)の足の筋肉が脈動し、雷鳴(らいめい)の如く、一足で集団に迫る。

 まさかの行動に呆気(あっけ)に取られ――その瞬間には薙刀(なぎなた)の一振りで二つの首が飛ぶ。

 もう一振りすれば、更に二つの首が飛ぶ。

 私兵は恐慌状態に陥る。


「ぬあぁあ!」


 獣の如き咆哮(ほうこう)――


 ――薙刀が折れれば、刀を持ち。


 ――刀が折れれば、小刀を投げつけ。


 ――投げる物が尽きれば、腕で首を折り、敵の得物(えもの)を奪う。


 繰り返し進み、繰り返し進む。

 屍山(しざん)を積み上げ、血の大河を渡る。


「まじん……魔人だぁ!」


 誰が言ったか、今の将門を形容した言葉……魔人の笑いが屍山(しざん)に木霊する。

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