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異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
将門の過去 日輪の如くアヅマに輝く
25/79

娶る将門

 

平良乃(たいらのよしの)、あんたの嫁になる女さ!」


 (まばゆ)いほどの笑顔、そして大胆な発言に将門(まさかど)呆気(あっけ)に取られる。

 将門は、はたと気を取り直し、警戒をする。

 蛇のような術を使った良乃(よしの)を斬り飛ばし、薙刀(なぎなた)(たずさ)え、狩衣(かりぬい)を着込んだ、もう一人の……自称良乃(よしの)へと問う。


平良乃(たいらのよしの)よ。二つ三つ程だが、問いたい事がある……よい――」


「ああ、勿論だとも! 何でも聞いておくれ!」


 将門(まさかど)の言葉を食い気味に答える良乃(よしの)。――薙刀(なぎなた)を持っていない、左手で握り拳を作り、ドンと胸を叩く。


「そうか……良乃(よしの)が斬り飛ばした女だが。――其奴(そやつ)不可思議(ふかしぎ)な事に、平良乃(たいらのよしの)を自称していたが、面識はあるか?」


 良乃(よしの)は首を(かし)げながら、半分に斬り飛ばした女の顔を見る。――何とか判別できるほどには限界を留めている。


「あん? 知らない顔さね。ただの推測、憶測の話だけど、國香(くにか)伯父の雇った刺客の一人だろうね。将門、あんたは――上に下に人気者(・・・)だよ」


 冗談を言いながら、カラッと笑う、良乃(よしの)。――不意に、笑いを止め真剣な顔をする。


「……人の名を(かた)るなんて、不埒(ふらち)な奴だね、斬り飛ばして正解だよ」


 良乃(よしの)は手に持つ薙刀を数度、振るう。――眼を見張るほどの、速さと力強さで、空が(うな)る。


「次だな、何故そのような格好をしてい――」


「動きやすいからに決まってるじゃない! ヒラヒラとした服よりも、こっちの方が着慣れてるし、薙刀(なぎなた)も扱い易いしねぇ」


 またもや、将門の問いに、食い気味に答える良乃(よしの)

 その答えに耐えきれず、将門(まさかど)から笑いが(こぼ)れる。


「武を(たしな)み、しかも狩衣(かりぬい)が動きやすいとな。とんだじゃじゃ馬姫よ……だが、気に入ったぞ! 最後だ、嫁になるのは良兼(よしかね)伯父上からの命令故にか?」


 最後の問いに良乃(よしの)は笑いのツボに(はま)ったのか、腹を抱えて大笑いをし、目に浮かぶ涙を指で()ねる。


「いやー笑った、そうかい気に入られたかい……将門(まさかど)、あんたの言う通りさね、嫁になれと命令されたのさ」


 薙刀(なぎなた)()を、手で(いじ)りながら続ける良乃よしの。――それを腕組みし、仁王像のようにじっと動かずに聞く将(まさかど)


「隙があれば殺してしまえとも言われたねぇ……だけどね、そんな命令を聞く気もなかった。何より将門(まさかど)……父上や伯父達が危険視していた、あんたが気になってねぇ」


 良乃(よしの)は馬に(くく)り付けてある布を手に取り、薙刀を包む。


「それであんたの事を少し()けていたのさ。分かったことは人を(たら)し込む魅力、不正を許さない正義の心、実に男らしく、そして何より強い! もうあんたに(くび)()さね!」


 清々しく言い切る、その顔は熱に浮かされ、目が(うる)み、頬に朱が差す。

 将門まさかどはズカズカと足音を立てながら良乃へと近づく。


益々(ますます)気に入った! ならば、これより我らは夫婦(めおと)よ!」


 将門(まさかど)は有無も言わさず、強引に、将門よりも、頭一つ小さい良乃の膝裏辺りを左腕で、背辺りを右腕で支えながら、ひょいと持ち上げる。


「ほひゃ、こんな格好、恥ずかしいじゃないか!」


 驚きの声を上げ、満更でもない顔をしながら口では抗議する良乃(よしの)


夫婦(めおと)ならこれぐらい普通よ」


 良乃(よしの)が連れていた馬に軽々と持ち上げた良乃を(またが)らせ、その後ろに将門(まさかど)(またが)り、手綱(たづな)を握る。


「さて、良乃(よしの)よ、この少し先に馬の力丸(りきまる)が死んでおる……荷物を回収して(とむら)ってやってから、何処(どこ)かの小川で血と汗に砂を落とそうと思うが、如何(いかが)か?」


 良乃は未だに、気恥ずかしい思いから立ち直れておらず、ほわりとした面持ちのままに、こくりと頷く。


「そうだ、将門(まさかど)……道すがら京の話とか、聞かせておくれよ。あんたのことがもっと知りたいんだ。」


「お安い御用よ、行け!」


 馬の腹を蹴り進ませる。

 二人は楽しそうに笑いながら、口々にお互いをさらに理解するために話をし、下総国(しもうさのくに)を進んでいく。




 ――下総国豊田郡しもうさのくにとよたぐん――

 将門(まさかど)良乃(よしの)は馬に二人跨り、和気藹々(わきあいあい)としながら、馬をゆるりと歩かせている。


「ここまで来れば、もう少しだ」


 将門は後ろに乗る、良乃を気にかけながら声をかける。


「早いこと将門(まさかど)の家族とも顔を合わせたいものだねぇ」


 そんな折に、二人の話を(さえぎ)るように、怒声に悲鳴、馬の(いなな)きが遠くない所から聞こえてくる。


良乃(よしの)よ! しっかりと掴まっていろ!」


「全速力で大丈夫さね、助けに行くんだろう?」


 馬の後ろに跨る良乃(よしの)将門(まさかど)微笑(ほほえ)みながら、発破をかけるように、将門の大きい背を平手で数度叩く。――その微笑みと気合を入れてくれた、良乃をチラリと見ながら、将門(まさかど)手綱(たづな)を握る手に力を込め、馬を全速力で駆けさせる。



 逃げ惑う民達を追いかけ回す、薄汚れた男達……その手には質の良さそうな刀を持つ。


「助けて! 命だけは! やめ――」


 逃げる男の背を斬りつけ、血花が咲き、前のめりに倒れる。


「助けるわけないだろ、一番楽しい事なんだからな!」


 下卑(げび)た笑いが襲撃に合った村に響く。

 掠奪(りゃくだつ)(いそ)しむ真っ最中に、見張りをしていた男から大声が飛ぶ。


「あにぃ! 一騎だけ全速力で走ってきます!」


 血に濡れた刀で指し示しながら、ワタワタとする男。


「あん? 救援が一騎……とはいえ、早過ぎるな……見廻りか?」


 集団の頭目らしき男は考え事をしながら、ブツブツと独り()つ。


「まあいい……ぶち殺して、成果を持って帰るぞ!」


「あいさ!」


 十人の男達が馬目掛けて走って行く、誰もが簡単な仕事だと思って……



将門(まさかど)! あいつら気がついて、こっちに向かってきているよ!」


 良乃(よしの)の言葉を聞き、将門(まさかど)はニヤリと笑い、馬に括り付けてある薙刀(なぎなた)を手に持つ。


「全員が向かってくるとは、手間(・・)が省けたな! あいつらの前で飛び降りる、良乃は馬を右に方向転換させ、そのまま駆け抜けて民達の所に行け!」


「また無茶な事をする気だね……その話、乗ったよ!」


 将門(まさかど)から手綱(たづな)を手渡された良乃(よしの)は、さらに加速させ……十人の男達との距離が迫ると右に方向転換する。


「何だぁ、あいつ恐れて逃げよったぞ!」


「玉無し野郎じゃな!」


 口々に物言う、盗賊の二人。――その目の前に高く高く、跳ね上がっていた、二人にとっての死が落ちてくる。

 獰猛(どうもう)に笑う将門(まさかど)、左手に薙刀(なぎなた)を持ちつつ、右手で刀を抜きーー(またた)く間に正面で笑う男の首二つが刎ね飛び、馬を見ていた後ろの男達に血が吹きかかる。


「さて……お前ら、閻魔(えんま)が呼んでいるぞ。覚悟は出来ておろうな」

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