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異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
将門の過去 日輪の如くアヅマに輝く
24/79

ヨシノとの出会い

 

 将門(まさかど)は盗賊達の死体を捨て置き、刀を血振(ちぶ)りし、納刀(のうとう)しながら、うつ伏せになったままピクリとも動かない女の元へと歩いていく。

 女の服は派手な刺繍(ししゅう)などは無く、伏せた拍子(ひょうし)(どろ)が跳ね汚れていたが……市井(しせい)の者では、おいそれと手が届きそうにない程に良く、見事に作られた服を着ていた。


「気でも失っておるのか……おい、女よ、起きろ」


 両腕で抱き抱えるように女の体を起こす。――その顔もやはり、野良仕事(のらしごと)をするような顔では無く、何処(どこ)かの箱入り娘であろうかと想像される。

 何度か()さぶる将門(まさかど)だが、女は(うめ)き声を上げるだけで、一向に眼を覚ます気配が無い。


「仕方ないか……力丸(りきまる)に乗せるか」


 将門(まさかど)指笛(ゆびぶえ)で、ピュイと甲高い音を鳴らす。

 すると、将門(まさかど)が飛び降りた後に、近くの水田の畦道(あぜみち)にて草を()んでいたのか、口を動かしながら力丸(りきまる)がやってくる。


力丸(りきまる)、すまんが道連れが増えたぞ」


 軽く(いなな)きを上げ、将門(まさかど)が抱き抱えている女の顔をペロリと舐め上げ、力丸(りきまる)は乗り易いように体勢を下げる。

 将門(まさかど)(くら)(またが)り、女を後ろに引き上げ、(おび)で落ちないように……しかし、引っ張れば直ぐに(ほど)けるように腰同士を結ぶ。


「さて、近くの村に寄るか……それまでに起きてくれれば良いが」


 チラリと後ろで将門(まさかど)に寄りかかる形になっている女を見ながら……血雨が降った場を後にする。


 将門(まさかど)が見えなくなった後に、捨て置かれた盗賊の死体が転がる、場に一つの影……馬に(またが)る、狩衣(かりぬい)の者。


「おおー! こいつは凄いね、やるじゃない平将門(たいらのまさかど)! これは益々(ますます)……期待よな」


 赤く燃えるような唇を、舌が()う。




 近くにある村を目指して、力丸(りきまる)将門(まさかど)と女を揺らしながら歩く。


「うん、ここ……は?」


 女は目を覚まし、寝惚(ねぼ)(まなこ)を手の甲で()る。


「起きたか、盗賊に襲われていたところを運良く助けたは良いが……気を失っておってな、近くの村まで送るところよ、馬に二人は窮屈(きゅうくつ)だが我慢せよ」


 将門(まさかど)は少し笑いながら、女に置かれている状況を説明する。


「貴方様が助けて下さったのですね、ありがとうございます。これは御縁(ごえん)でしょうね、私は平良兼(たいらのよしかね)の娘、良乃(よしの)と申します。貴方様(あなたさま)の御名前を教えて頂けませんか?」


 女は名を明かす……それを聞き、将門(まさかど)怪訝(けげん)な表情を浮かべながらも、口調には出さずに答える。


平将門(たいらのまさかど)よ、この様な所で会うなど奇妙な縁だな、従兄妹(いとこ)よ」


 将門の言葉を聞き、パッと顔を明るくする良乃。


貴方様(あなたさま)将門様(まさかどさま)だったのですね! 京から戻って来るとは聞き及んでいましたが……まさか私の窮地(きゅうち)を救ってくださるとは」


 良乃(よしの)将門(まさかど)の広い背に、自分の頭と右耳を押し付け、手を将門の体に回し抱き着く。


「もう少し離れよ、手綱捌(たづなさば)きが鈍る」


 将門は身を(よじ)り、少しだけ良乃から離れようとする。


将門(まさかど)様……もう少し、このまま」


 良乃(よしの)は口より、先が二股に分かれた長い舌を、ちろりちろりと数回出す。

 (へび)のように口を大きく開け、長い舌の先を喉奥(のどおく)へと進めていき……胃の奥底より、抜身(ぬきみ)の短刀の(つか)を舌で巻き付け、音も無く取り出す。

 蛇の如く、舌を(たく)みに動かし、将門(まさかど)の首すじ目掛けて横薙(よこな)ぎに短刀を振るう――刹那(せつな)


「臭い芝居で、この将門(まさかど)(たばか)ったつもりか?」


 将門(まさかど)には背後にも目があるかのように、頭を下げ、体勢を下げ、横薙(よこな)ぎ一閃を避け切り――良乃(よしの)の舌を右手で掴む。


「甘いわ、阿呆(あほう)が!」


 手綱(たづな)を離し、左手を使い結びつけていた帯を即座に離しながら、良乃(よしの)力丸(りきまる)の前方へと投げ飛ばす。


力丸(りきまる)! 力の限り踏め!」


 (したた)かに身体を打ち付け、体勢を崩した良乃(よしの)へ目掛けて、(いなな)きと共に力丸(りきまる)(ひづめ)が迫る。


 が……しかし、良乃(よしの)は蛇のように地をスルリと()い、(ひづめ)を避け、力丸(りきまる)の腹下に潜り込む。

 またもや、舌を巧みに使い、短刀で力丸(りきまる)の腹を、勢いよく突く。

 力丸(りきまる)臓腑(ぞうふ)蹂躙(じゅうりん)しながら、短刀は背に乗る将門(まさかど)を目指して突き進み、(つい)(くら)を突き破る。

 ――が、そこには既に将門(まさかど)は無く、力丸(りきまる)の頭の上に立っていた。


「ずぁ!」


 気合い、力丸(りきまる)の背から出てきた舌を刀で細かく寸断(すんだん)する。

 舞う血と肉片、耳を(つんざ)良乃(よしの)の悲鳴。

 将門(まさかど)は弱く(いなな)きながら、力尽き横に倒れこむ力丸(りきまる)。――力丸に挟まれないように距離を取り着地する。


力丸(りきまる)……御苦労であった」


 辺り一面が血で染まっていく様を見ながら将門(まさかど)()つ。

 すると、血だらけになりながら来た道へと走り逃げ出す良乃(よしの)


「まだ息があったか! (のが)さん!」


 将門(まさかど)は逃げ出した良乃(よしの)を追いかける。

 少し走ったところで馬を引きながら、狩衣(かりぬい)の者が逃げる良乃(よしの)の前に立ち会う。


「しょの馬を寄越しぇ!」


 将門(まさかど)に舌を切られ、回らなくなった舌で叫びながら、狩衣(かりぬい)の者へと襲いかかる。


其処(そこ)の者よ! 逃げろ!」


 追いかけていた、将門(まさかど)より警告が飛ぶ。

 狩衣(かりぬい)の者は馬に括り付けていた布を被った棒を両手で持つと、飛びかかってきた良乃(よしの)の胴体を薙ぎ払うように棒を振るう――

 布が切れ、良乃(よしの)の胴が真っ二つに割れ、臓腑(ぞうふ)が散らばりながら勢いよく飛んで行く。


「ほう……素晴らしい腕前だな!」


 感嘆(かんたん)の声を漏らしながら、将門(まさかど)狩衣(かりぬい)の者へと近づく。


「あんたが平将門(たいらのまさかど)だね! そろそら近くで顔を見たいと思ってたところさね」


 棒の布がはらりと落ち、二尺(にしゃく)ほどの反りのある刃身の付いた棒。――血がついた薙刀(なぎなた)が布の下から現れる。


「いかにも平将門(たいらのまさかど)である。――しかし、素晴らしき薙刀捌(なぎなたさば)きであった、名はなんと申す?」


 狩衣(かりぬい)の者は(ひげ)が無く、浅黒く日焼けし、健康的な顔をしていた。


「あたしの名かい? 平良兼(たいらのよしかね)の娘、平良乃(たいらのよしの)だよ、あんたの嫁になる女さ!」


 将門(まさかど)を指差し、満面の笑みを浮かべる良乃(よしの)

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