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異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
海賊吼ゆるサイゴク
13/79

アオと赤に輝く

 

 将門討死(まさかどうちじに)……その言葉の衝撃は日ノ本に(あまね)(とどろ)いていた。

 京では貴族達が胸を()で下ろし、民達はお祭り騒ぎとなる……一方、海賊働(かいぞくばた)らきをしていた藤原純友(ふじわらのすみとも)淡路国(あわじのくに)にいた。


「大漁じゃ大漁じゃ、笑いが止まらんの」


 にまにまと(きら)めく金銀財宝の山を見つめ酒を(あお)り、頬ずりする。

 そこにドタバタと足音を鳴らしながら男達が数人やってくる。


「なんじゃ文元(ふみもと)……良い報告と悪い報告か?」


 男たちは下品な笑い声を上げる。


「当たりです、どちらから報告しましょう」


 頬ずりを止め、文元(ふみもと)らの方へと向き直す。


「悪い報告からだ、何隻か沈められたか?」


 頭を横に振る、文元。――横では賭けをしていたのか銭のやり取りをしだす始末である。


「外れです、平将門(たいらのまさかど)が討たれました」


 その報告を聞いた純友(すみとも)は面白くなさそうに鼻を鳴らす。


「まぁええわい、どうせ将門が京を襲ってるとこを火事場泥棒しようと思っとただけじゃけぇ」


 純友は金の粒。――小指ほどの大きさのある金の粒を、くるくると手で回し遊ぶ。


「で……良い方は?」


 嘆息しながら、財宝の山に向かって金の粒を指で弾く。


「お宝を見つけましたぞ!」


 布が掛けられて取り出される球体。――布越しでも分かる、何か……そう何かを感じる。


「どれどれ――如何程(いかほど)のモノか」


 純友は布を乱暴に引き剥がす。

 そこには(あや)しく、(あお)く|輝く玉……その光に目を奪われる純友、(ひとみ)には(あお)が浮かぶ。




 朝霧(あさぎり)が立ち込める、筑前国(ちくぜんのくに)博多津(はかたつ)にて……船が幾船も並んでいた。

 視界が良くない中、船は出航の準備をしようと人々が走り回り、騒々(さいさい)としていた。


太宰権師(だざいのごんのそち) 公頼(きみより)様、ほぼ準備完了しました。(きり)が晴れれば出航できます」


 公頼(きみより)へと話しかける船乗り。が……当の公頼は(きり)で覆われている海をじっと見つめながら、一言も喋らずに何かを考えている。

 一寸立ち……目を見開き、急に振り向く。その表情たるや、焦りと怒気が浮かんでいた。


「急がせや! 風とともに何かが来るぞ!」


 公頼の言葉に、今一つ考えが及ばずに、木の(うろ)の様に口を開けたままの船乗り。


「は? 何が……」


 風が吹き、朝霧(あさぎり)に反射して赤くきらりきらりと光るモノが海からやって来る。

 それは赤く燃え盛る小舟――風に乗り、出航準備をしていた船に轟音(ごうおん)を上げ激突する。


太宰権師(だざいのごんのそち)! 火が……火の周りが早いです!」


狼狽(うろたえ)なや! はよ消せ!」


 一隻、又一隻と火が燃え移っていく。火を消そうと幾人も走り回る……しかし、海からの風により勢いを増していく。

 そんな喧騒(けんそう)の中、海より鬼火(おにび)の様にゆらりと揺れるモノが何十も重なるように飛来する。


「体に火が――助けて! 火を消してくあ」


「おい! 走り回るな! 火を消してや……俺の体にも火が」


 海より飛んできた鬼火。――水夫や防人(さきもり)にあたり、断末魔とともに彼方此方(あちらこちら)に火達磨になりながら走る。


 博多津に停まっていた船の火が集まり大火となっていく。

 霧が晴れはじめ、徐々に沖の状況が見えはじめる……そこには幾つもの船、船上には鬼火の正体である、火矢を構え放つものが何人も波に揺られていた。

 

「ぐぬぬぬ……純友の海賊に先手を取られたか! 防人よ、迎え撃てや!」


 公頼は怒声を発しながら、防衛の指示を出していく。

 その怒声に浮足立っていた防人の男たちは落ち着きはじめ、各々が気合の声を出し、矢を放ち応戦しはじめる。

 陸から放たれ続けられる矢の雨によって、接岸上陸を長い時間許さなかった。


「よしよし、このまま防戦すれば逃げていくや……なんぞ変な声? 唄か?」


 純友の海賊船が浮かぶ海から、唄うような声が公頼の耳に届く。

 一番奥に見える船の船首に立つ男。その手には蒼く光る玉を持ち、陸にいる者たちを挑発るように舞い踊る。


「おい! 誰ぞ、あの船首に立っとる阿保に矢をあてや!」


 公頼は怒りにより顔を夕焼けのように、真っ赤にしながら……指差し、怒号を飛ばす。


「あれが藤原純友でしょうか?  我らの弓であたるでしょうか」


 矢を射る手を止め、公頼に疑問を呈する男。――その頭を小突く公頼。


「いいから放てや!」


 詳しい事を話さずに、公頼の怒声が鳴り響き、防人達は船首の男に向かって矢を一斉に放つ――矢は船首の男に向かって、驟雨(しゅうう)のように襲いかかる。


「どんどん放てや! 矢の残量は気にするな!」


 船の近くから飛沫を上げ、矢の驟雨(しゅうう)から船を守るように出てくるモノ。

 それは光に照らされて、ぬらぬらと輝き、途轍とてつもない大きさ……それが何本も海から出て矢を弾く。


「あれはまずい――船の近くにおる奴ら! 逃げえ!」


 ぬらぬらと輝き、海から柱の様にそそり立つ吸盤が付いた八本、燃せ盛る船の間近に叩きつけられる――

 叩きつけられた勢いにより、海が競り上がり、火のついた船が宙を舞い、港に落ちていく。


「一人でも多く、救助しろ! 早くしろ!」


 防人達からも怒声が飛び交う、必死になって下敷きになった男たちを救助していく。

 救助に奔走(ほんそう)している男たちの足に巻きつく、小ぶりの吸盤が付いたモノ……


「た、(たこ)の足だ!」


「引きずりこまれる! たすけ――」


 男たちの足に絡みつき、岸へと凄まじい力で引っ張っていき――そして海の底へと屈強な男達が消えていく。

 その光景を公頼は見ながら、怒りで顔に青筋を立てながら震えていた。


業腹(ごうはら)やが退けい! 全員、太宰府まで退けい!」


 怒声を飛ばす、公頼の背後から小ぶりの蛸足(たこあし)が迫る。


「公頼様! 危ない!」


 防人の一人は公頼の背後から迫っていた小ぶりの蛸足。――それを刀で上から突き刺す。


「そこの馬にお乗りになって下さい! 私は足止めします!」


 びちびちと音を立てながら、蛸足が暴れているのを必死に押さえ込む男……


「ぐ……すまぬ! その命しかと貰ったぞ!」


 馬に飛び乗り、公頼は博多津から退却していく。


「ぬおお! 化け蛸が! 死にさらせよ!」


 ぎちぎちと音を立てながら蛸足を断ち切ろうとする……刹那、青い血が舞う。


「やってやったぞ! 俺でも出来――」


 男の手足と首をがっちりと蛸の足が掴む。


「抜かった、放せ!」


 逃れようと手足をばたつかせるが、徐々に引き伸ばされていく。


「ああ、公頼様……母上、死にたくな――」


 蛸の足に引きちぎられ四肢と首が落ちる。

 海にそそり立っていた、吸盤の付いた大柱が陸に倒れ暴れまわる……それを尻目に人々と兵士が逃げ惑う。


「上陸だ! 野郎ども! 一切合切奪って行くぞ!」


 純友の(ごう)で海賊船から男達が上陸していく、ぎらぎらと脂ぎった笑みを浮かべ、海の男達は陸を蹂躙(じゅうりん)していく。

 防人は海に浮かび、文字通り。その血により血の海が出来上がっていく。

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