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戦えない落ちこぼれは知力で成り上がる  作者: 加藤 成
第4章 武闘会&学園祭篇
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第89話 ヤーデの過去

クロナ達は茶化す場面ではない静聴に徹する。



「当時私は父は王国の騎士、母は主婦というなんの変哲も無い普通の家で育った。

裕福ではなかったが楽しい毎日だった。私の人生が変わったのは九歳の誕生日の日だ。

父が帰ってきたら誕生日パーティーをしようと話していた日の夜、帰ってきたのは父ではなかった。代わりに大勢の騎士団が家に入り込んできた。私と母は事情もわからないまま国王と謁見させられた。そこで国王はこういったのだ「彼奴は我に刃を向けてきた。極刑だ!」と。私と母は何かの見間違いだと言っても聞く耳を持ってくれなかった」



ヤーデは乾いた唇をペロリと舐めると言葉を続ける。



「そこからは地獄の始まりだった。私達は別々の牢獄に入れられ拷問の日々が続いた。どのくらいか経った日、国王が私に会いにきて言ったんだ「王妃を殺せばお前達を解放してやる」。心身ともに限界を迎えていた私は、その話を呑み……アスカ様を…殺そうとしてしまった……ッ!」



ヤーデの握る手からは血が流れ、身体は微かに震えていた。

それを見かねたアスカは



「そこまでで大丈夫です、よく頑張りましたね」



椅子から立ち上がり優しく抱き締めた。



「後は私が話しましょう。事情を聞いた私は直ぐに彼女のお母様の元に向かいました。しかし彼女のお母様はすでに舌を噛み自殺し亡くなっていました。私はこの子だけでも生きて欲しいと私が親代わりで彼女を育てたんです。

ここでクロナ、貴女の質問の答えに答えましょう。私は私の周りで、人のせいで人生を壊されるのを見て放っておくほどクズにはなりたくないんです。自己満足といえばそれまでかもしれません。ですがその自己満足で貴女達が、楽しい人生に変わるなら本望です。まぁ本当はここから復讐まで持っていくのが私なのですが、それまたの機会に。これが私の答えです、満足してくれましたか?」



話し疲れたアスカはヴァンに水を要求する。ヴァンはそれを読んでいたようで既に用意していた水をアスカと頭を垂れているヤーデに渡した。



「え、あ、はい。ありがとう…ございましたです…。あのヤーデさん…そのすみません」



翔太とクロナはアスカの話を聞いて悟った。

ヤーデもグラナートもヴァイスもローザも、誰かのせいで人生を一度壊されたんだと。



「謝らなくていい…大丈夫だ、少し思い出してしまっただけだ。同情や慰めはやめてくれ…」



ヤーデはそういったものの空気は重いままだ。

それを破ったのは翔太だ。



「まぁ、ヤーデさんの過去なんて正直どうでもいいです」



その言葉にヤーデは言葉を失う。

この話を聞いた人はみんな同情か慰めの言葉をかけてきた。今までの無い返しだった。

そんな言葉にクロナは顔を顰め、アスカ、ローザ、ヴァイスは翔太を咎めるように睨みつける。



「翔太、今の酷すぎとちゃうか!?」



翔太にヴァイスが噛みつく。



「じゃあヴァイス、僕はヤーデさんの過去を知ってどうすれば良かったの?」



「せやからそこは優しい言葉とかをやなぁ…」



「それを同情って言うんじゃないの?ヤーデさんが言ったんだよ、同情や慰めはいらないって。嫌って言ってる人に同情や慰めをする方が失礼だよ。どうなのヤーデさん、本当は同情して欲しいの?それとも慰めればいいの?」



「そ、それは…」



今までにない経験にヤーデはどう返せばいいかわからなかった。

そんな中、翔太は慰めでも同情でもない別の答えを導き出していた。



「正直僕は同情や慰めなんて本人が望んでないものしないよ?上っ面の同情なんてどうせすぐ忘れるし、なんか気持ち悪い」



「………なかなか、キツイことを言うな君は…」



「同情よりいいでしょ?でも過去を忘れて克服しろなんて無責任なこと言う気もない。

まぁつまり何が言いたいかというと

ヤーデさんは悪くない。ドーンッ無い胸張って前向いて歩いてればいい、何かあれば僕達が全力で助けるし、受け入れるってこと」



「……ぷっ…ふふふっ、臭いセリフだな」



「うん、言ってて思った。でも斬新でしょ?」



安っぽい言葉だ。だがヤーデの心は不思議と晴れ、震えはいつの間にか治り、笑顔が戻っていた。

アスカ達も心配無用だったことに肩の力が抜ける。



「なかなか男らしいところもあるんだねぇ翔太君。お姉さんちょっと感心しちゃった!口調も敬語じゃなかったし。まぁ一つアドバイスするなら“僕達が”じゃなくて“僕が”の方がもっとカッコよかったかな」



「アドバイスどうも!…すみませんヤーデさん、年上なのに」



「いや、いい。…その、なんだ…なんならこれからも敬語じゃなくていいぞ…?

べ、別に私がそうして欲しいわけじゃないんだからな!」



ヤーデの中でいろいろな感情が混ざり混ざってキャラが崩壊した。



「あらら、ヤーデにもこんな可愛らしいところが見れるなんて。じゃあ私もこれを機に翔太君のこと翔ちゃんって呼ぼうかな」



「ヤーデさんの方OK。でも姉さんの方はちょっと…」



「いいじゃない。ね、翔ちゃん」



アスカのなかで翔ちゃんが定着した。



「…ヤーちゃん……顔…真っ赤…」



「髪が青で顔は赤て真逆やないか」



「正確には赤の逆は緑です」



「クロナ……ナイス…ツッコミ…!」



「こここ、これは…その…そうだ!少し風邪をひいててゴホッゴホッ。熱が出てきたのかもしれん!

けっ、決して照れてるわけでも嬉しかったわけでもないぞ!うんうん、そうだそうに違いない!」



「「「「ふぅ〜ん」」」」



アスカ、ローザ、ヴァイス、クロナはニヤニヤしながらそういうことにしておいた。

唯一翔太は先ほどの臭いセリフが、今になって恥ずかしくなり今すぐにでも此処を逃げ出したいということしか考えていなかった。



「ささ、ヤーデのデレも見れたことだけど、とりあえず今日決めることだけ決めちゃいましょうか。

クロナ、貴女にも直属護衛部隊の一人として仕事してもらうからそのつもりで。内容はみんなに聞いて。で、仕事上の名前だけど何も染まっていない、故に何色にも染まれる“シロ”という名を授けましょう。シロは心理上、スタートやリセット、浄化というのを思わせるそうです。貴女も今日を機に新しい人生をスタートさせるといいでしょう。そしてこのシロを貴女好みの色に彩ってみなさい」



「ありがたき幸せ…です」



クロナは女王陛下の前まで行くと彼女の前で跪いた。



「はい、今日の本題は終了です」



瞬間、翔太は扉に向かって猛ダッシュした。あの恥ずかしさを忘れるためにも一刻も早くこの空間を出て一人になりたかったのだ。

しかしそれは叶わなかった。誰かにか肩を掴まれたせいで動くことができない。翔太は文句を言おうと振り返るとそこには…般若がいた。



「あ、そうそうジルっちから“フラン皇女の護衛よろしく”って言われて………聞いてる?」



アスカがさらっと面倒ごとを言ったが既に二人ほど聞いていない。



「なぁ翔太…そういえばさっきはよくも“無い胸”なんて言ってくれたな〜?少しお話しようかァ…」



「あ、いや、あれは言葉のあやというか…見たまんまというか」



ヤーデの額の筋が増えた。

アスカ達はそれを聞いた瞬間思った。こいつ墓穴掘りやがった、と。



「ああああ、えええっと、今のままでもヤーデさん十分美人だと思うよ?

…あれ?ちょっ、誰か…誰か助けてぇぇぇぇぇええええ!」



去り際、翔太以外は確かに見た。



「………バカ」と顔を赤くし小さな声で呟いたヤーデを。



アスカ達はニヤニヤしながら翔太達を見送った。

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