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戦えない落ちこぼれは知力で成り上がる  作者: 加藤 成
第1章 異世界
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第7話 力を求めて 前編

「よし、朝食の完成だ」



 私は今お城の中にあるキッチンにいる。手に持っているのは今しがた完成した2人ぶんの朝食が乗ったトレー。

 私は持ってキッチンをあとにし、とある場所へと向かう。



 私の朝は早い。いつも夜明け前には起き小1時間ほどで準備をし、残りの時間は女王陛下を影から護衛する。それが女王陛下直属護衛部隊隊長である私、ヒスイの休みの時の仕事だ。なぜ休みの時だけかというと、実は私はまだ学生なのだ。いつもは護衛は部下に任せている。だが今は長期休み中。こういう時にしかできる時間がないので、休みの間は護衛をさせていただいている。と言ってもあと1週間弱しかないがな。まぁそれは置いといて、先ほど女王陛下の護衛と言ったが、2日前からは違う者の護衛に付いている。

 私は彼の部屋へと静かに入る。

 そこは窓が一切無く、灯りは天井にあるシャンデリアのみ。内装もシンプルで大きな1メートル四方も机が1つと、イスが2つ。あとはベットと奥に行く為のドアと壁に掛かった時計、異常に大きい本棚くらいだ。

 彼は静かにイスに座っていた。



 下を向いているから本を読んでいるのか、寝てるのかわからないな。

 とりあえず声を掛けるか。



「翔太、起きているか?」



「うおっ!?もう!びっくりさせないで下さいよヒスイさん」



 瀬戸翔太。彼が今の護衛対象であり、女王陛下が最も期待している人物。

 驚いた翔太がイスから転げ落ちそうになる。



 驚かせるつもりはなかったんだがな。

 どうやら起きていたみたいだ。



「すまない、そんなつもりはなかったんだ。ただ朝食ができたのでな、持ってきた」



 謝りながら机の空いたスペースへとトレーを置き、私のもう1つもイスに腰掛ける。



「あ、もうそんな時間ですか。いつもありがとうございます」



 時間も忘れて本を読んでいたのだろう。壁に掛かった時計へと目をやると7時半を指していた。

 翔太は私にお礼を言うとトレーから自分のぶんの朝食を取り、また同じ席へと戻った。



「フレンチトーストですか」



「あぁ。嫌いか?」



 翔太は「いいえ、大好きです」と笑顔で返事をし、ナイフとフォークで上手く切り分け「いただきます」と手を合わせ食事を始めた。

 私も彼を見習い「いただきます」といいフレンチトーストを口に運ぶ。



「すごく美味しいです」



「それは良かった。作った甲斐があったよ」



 やはり美味しいと言って貰えるのは嬉しい。自然と顔が綻ぶ。



「ところで翔太、君は何時から起きていたんだ?」



 お互いフレンチトーストを半分ほど食べたところで私は、気になっていた事を翔太に質問する。



「1時には起きてたと思いますよ。一応2時間ぐらいは寝たので問題ないです」



 2時間だけで本当に大丈夫なのだろうか。でもあまり世話を焼きすぎるのも良くないか。

 私は「無理はするなよ」と言って最後の一口を食べる。



「じゃあ私はそろそろ行くとしよう。あまり長く居ても、邪魔をしてしまうだけだからな。紅茶はここに置いていくから好きに飲んでくれ」



「ありがとうございます」という翔太の声に対し背を向けてまま手で返事を返し、私は本棚の横の暗い影へと向かう。

 その影が全て私を隠しきったタイミングで踵を返す。それと同時にどんどん目線が低くなっていく。



「ホント便利ですね、ヒスイさんの〝影属性〟は」



「魔力の消費が悪いから戦闘では使えないけどな」



 〝影属性〟…私が持つ特殊属性。私はこの〝影属性〟以外に普通の自然属性を2つ、計3つも属性を持っている。世間では3属性持ちは珍しく、数万人に1人と言われている。

 まぁ今言ったように、魔力の消費が悪いから戦闘向きではない。



「また昼に来るから。勉強頑張るんだぞ」



「はい。前にみたいに、影の中からこっそりと覗くのはやめて下さいね」



「それに気付けるのはお前くらいだ」



 その言葉を最後に私の視界は、世界の色が逆転した。

 逆転したと言っても影の中は白と黒しかない。外の世界で光が射す場所は黒、逆に影になっている場所が白。それは生き物の変わらない。

 私は影の中を移動しながら、次はいつ覗くかを考えていた。覗くといっても彼の安否を確認するため影の中から見守るだけなのだが、翔太に私が影の中から見ていたことを気付かれた。なぜわかったのか聞くとい曰く「なんかそこの影だけ変な雰囲気を醸し出していた」だそうだ。


 さすがにこれには驚かされた。生まれてきてから1度も見抜かれたことの無い〝影移動〟を、たった1日で見抜かれたのだから。

 ただそれも完璧に分かるわけではないらしい。さっきにみたいに気付かないときもある。だからこれは私にとってもいい訓練になっている。彼にバレずにいられるかの訓練に。

 そんな楽しみを考えている間に、先ほどのキッチンに着く。しかし私が調理していたときとは違い、この城の専属シェフがいそいそ朝食の片付けと昼の準備をしていた。

 バレるの面倒なので、シンクの影からそっと食器とトレーを流しに置いた。



 あとはここのシェフが勝手にやるだろう。



 私は文字通り姿を消した。

 影の中で私は思案する。



 さて今からどうするか。…そういえば今日から異界の者たちの実技訓練をやるような事を耳にしたな。丁度いいし少し見に行くとするか。



 そうと決まれば即行動。私は影の中を移動し、この城にある唯一の訓練場へと足を運んだ。

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