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戦えない落ちこぼれは知力で成り上がる  作者: 加藤 成
第1章 異世界
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第6話 真実…そして

「ご馳走様でした」



 僕はつい今しがた、ヴァンさんが作って来てくれたサンドウィッチを、ものの数分で平らげた。

 正直いえばもっとガッツリとした物が食べたかったけど、夜も遅いし何より作って来てくれたヴァンさんに申し訳ない。



「私の半分食べますか?」



 そう言ってアスカ様が、皿に残ったサンドウィッチを差し出してくる。

 ちなみに何故、王妃様でなくアスカ様と呼んでいるのかというと彼女曰く、『夫に名前で呼ばれるのが嫌、鳥肌が立つ。あの人以外なら名前で呼んでくれたほうがいい』と言われたからである。

 じゃあなんで結婚したんです?と聞いたら、親同士が勝手に決めた政略結婚と言っていた。

 そんな事、本当にあるんだなぁ。


 まぁそれはそれとして、なんでまだ食べ足りないってわかったんだろう…?



「なんで、まだ食べ足りないのかがわかったのって顔してるわね。フフッ、顔の書いてあるわよ?」



 アスカ様が口に手をやり上品に笑う。



「かっ、からかわないで下さいよっ!確かに思いましたけど…」



 うぅ…恥ずかしい。顔が赤いのが自分でもわかる。

 僕は赤くなった顔を隠すように俯きながら、サンドウィッチを齧っていく。



「さて、そろそろ本題に戻りましょうか。あ、食べながらでいいわよ。さっき話してたのが、あなたのスキル。〝瞬間記憶能力〟と〝読み取り〟の詳しい説明。〝瞬間記憶能力〟は文字通り、見たものを一瞬で記憶する。そして〝読み取り〟は、その記憶したものの重要な部分だけを洗い出す、というスキル。ここまでがさっき話してた事で大丈夫?」



 口の中に物が入ってて喋れない僕は、頷いて答える。

 ただ1つ疑問がある。さっきは聞きそびれたけど…なんでスキルについて詳しいんだろう?

 言いたいことを察してくれたのか、質問をする前にアスカ様が答えてくれた。



「なんでスキルに詳しいのかって思うけど、それはこれから貴方にやってもらう事を進めていけば、自ずとわかるから省かせてもらうわ」



 最後のサンドウィッチを食べ終え、アスカ様の言葉を、おうむ返しに聞く。


「やってもらうこと?」



「えぇ、率直に言うわ。貴方にはこれから、スキルを進化してもらうわ。方法は簡単よ」



 アスカ様が徐ろに椅子から立ち上がる。そして唯一灯りのついてない壁付けブラケット握り、下へ引っ張る。すると壁に魔法陣が現れ、ブロックが幻だったように1つずつ小さな煙を上げ消えていく。

 これが魔法…。ん、幻?



 僕はとっさにヴァンさんを見る。目が合うと首を左右の振った。

 見た感じ驚いてるって事は、ヴァンさんのこんな仕掛け知らなかったんだろう。



 ヴァンさんの魔法は幻属性、人を欺く魔法。

 因みに、僕の死体もヴァンさんが作った偽物だったりする。ただヴァンさんの魔法は視覚を誤魔化すだけで、他の五感は誤魔化せない。僕が血と驚いたアレは、その日に解体した獣の血だった。勘のいい人は死体から、血独特の鉄臭い匂いがしないことに気づき偽物だとバレる可能性があったから、その可能性を無くす為に獣の血をまいたんだって。そして僕は気絶してヴァンさんにこの今いるアスカ様専用の書斎に連れて来られたって、さっきヴァンさんが教えてくれた。



「……君、翔太君!」



「っ!は、はい!」



「…私の話聞いてた?」



 うっ…すごいジト目。



「え、あの…その…すみません、聞いてませんでした…」



「じゃあ、も一度説明するわね。貴方はこれから私が産まれてからこれまでで纏めた文献で、この世界の真理に辿り着いてもらうわ」



 そう言いアスカ様は、背にある隠し扉の中を指差す。

 僕はアスカ様の近くに行き、覗き込むようにして中を覗いた。其処には高さ2メートル以上横幅5メートル以上の本棚があり、その中にびっしりと本が詰まっていた。



 ちょっと待って、これ全部読むの?というかよく見たらベットもある。それに1人用も机と椅子、天井にはまさかのシャンデリア。この中で…暮らせる?まさか…



「もしかして僕って、これからこの中で生活するんですか?」



「あれ?私がこれだけの本を書いたって事に、ツッコんでくれないのね…、まぁいいわ。えぇそうよ、これから貴方にはスキルが進化するまでこの中で生活してもらうわ。見ての通りベットはあるし、トイレやシャワーも奥の部屋にあるわ。この壁は1度閉じたら事を成すか、私が魔法で開けるしかない」



「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい!本気で言ってるんですか!?」



「もちろん本気よ」



 そんな満面の笑みで言われても。



「でも…」



 瞬間、アスカ様の顔から表情が消える。

 そも目は真剣で、その瞳の奥には怒りすら感じる。



「このままでいいの?みんなを見返したくないの?」



 その言葉で今日あった出来事が蘇る。

 このままでのか?そんなのいいわけない…。悔しいに決まってる。見返したいに決まってるじゃないか!

 そうだ、迷う必要なんて無かった、迷ってる暇なんて無かった!



「やります!やらせて下さい!」



 今の僕に選ぶ権利なんてない。なんだって利用するんだ。それがたとえ王妃様でも!



「その言葉を待ってたわ。この方法は貴方のスキルが最も役立つ。そのスキルを最大限に生かし、何としてもスキルを強化して」



「はい!」



 僕はこれまでにないほど力強く返事をし、隠れ部屋に足を踏み入れた。

 それとほぼ同時にヴァンさんが「1つ質問が…」とゆっくり言いながら手をあげる。



「翔太君は食事はどうなさるのですか?」



 まぁ、よっぽど自炊だろう。それなら問題ないかな。料理は人並みにできるし、お菓子もそれなりに出来る。僕に趣味お菓子作りだし。



「………」



 あれ、返事が何も帰ってこないぞ?

 歩みを止め、アスカ様の方に顔だけ向けると其処には、顔から大量の汗を流していた。



「何も考えてなかったんかい!」



 いつもより砕けた口調になってしまったけど、今はそんな事どうでもいい。食事が出来ないなんて死活問題だよ!

 ヴァンさんなんか呆れて大きなため息ついちゃってるよ。



「ちゃ、ちゃんと考えてたわよ?」



「なんで疑問系なんですか!」



「あの…そのね…」



 言葉が詰まる時点で何の考えてなかった守るわかりじゃん、めっちゃ目が泳いでるし。



「そっそう!ヒスイ!近くにいるでしょう?出て来なさい」



 うわっ、閃いた時に拳と掌でポンッと叩く人初めて見た。てか急に天井に向かって叫びだしたよ。それにヒスイって誰?



「はい」



 この部屋に僕達以外の声が響く。ヒスイと呼ばれた人物は顔だけをひょっこりと現れる。

 自然と3人の視線が声の出どころへと向く。



「…色々聞きたいことがあるのだけどまず、こちらに来なさい」



 アスカ様に手招きされ、ヒスイと呼ばれた人物はゆっくりと立ち上がる。

 立ち上がったおかげで彼?彼女?の風貌が明らかになる。

 見た目は何というか…忍?

 顔は目以外は頭巾で隠れ、服は袴…というより丈が膝上までしか無い着物みたいなものを着ている。ということはこの人は女性かな。

 うっ、睨まれた。つり上がってるから結構怖い。


「こら、翔太君を睨むにはやめなさい。ところで何故、私の机の引き出しから現れるのかしら?というかどうやって引き出しの中から現れるの?」



 確かに、まさか異世界に来て某猫型ロボットみたいな登場する人がいるとは思わなかった。



「こういうのはインパクトが大切だと思ったので。こんな事もあろうかと引き出しに穴を開けておき、机の下から顔だけその穴から出し、あたかも机から現れたように見せる細工をしておいたのです」



「なるほど、わかりました。とりあえず、その机の弁償は給料から引いておきます。しかしその細工に2年以上気付かなかった私にも多少に非があるでしょう。なので5割は免除しますね」



 ヒスイさんがこれでもかと目を見開き驚いている。まぁでも自業自得だと思う。



「お久しぶりですね、ヒスイ様」



「お久しぶりです、それと様はやめて下さいと言ってるじゃないですかヴァンさん」



 あれ、ヴァンさんも知り合いなの?もしかしてこれって僕だけはぶられた感じ?



「さて、時間が欲しいので積る話はまた今度にしましょう。翔太君、彼女は私を影から護衛をしているヒスイです」



「どうも初めまして。女王陛下直属護衛隠密部隊隊長をしています、ヒスイです」



 こちらに向き直りお辞儀をし挨拶をして来た。

 この人隊長なんだ…。

 僕は隊長という言葉に若干緊張しながら、挨拶を返す。



「あ、初めまして。今日この世界に来たーーー」



「瀬戸翔太君…ですね」



「ーーーえ、は、はい。でもなんで」



「私は今日朝からずっと女王陛下の護衛しています。なのでずっと君のことも見ていました。辛かったですね」



 同情。さっきまでの僕なら嬉しかったかもしれない、でも今の僕に同情なんか要らない。



「同情は…やめて下さい。僕が今欲しいのは同情じゃない、あいつらを見返す力です。図々しいのは分かっています…それでも!お願いします!僕が少しでも強くなるために、皆さん力をかして下さい!」



 突然土下座をした僕を見て、驚いの声を上げる3人。



「と、とりあえず顔を上げて下さい。…わかりました、いやわかった。この私でよければ全力で君に力を貸そう」



 2人も笑顔で頷いてくれる。



「………」



「ん?どうした急に黙って」



「あ、いえ、ありがとうございます!ただ口調が急に変わったんで驚いただけです」



「あぁその事か、こっちが私の素の喋り方だ。そうだな、この喋り方に変えた以上この頭巾も要らないな」



 頭巾を取った彼女はとても美しかった。澄んだ川のような青いロングの髪と、同じ色の瞳。鼻は高く絶世の美女と言ってもおかしくない。



「ふふっ、見惚れるのも分かるわよ翔太君。でも今はさっきも言ったように時間が惜しいの。だから早速始めようと思うわ。ヒスイ、聞いてたと思うけど貴女には翔太君の食事をお願いするわ。さっきも言ったけど、この壁は1度閉めたら事を成すか私が魔法で開けるしか方法はない。けど、貴女の特殊属性なら行き来が可能なはず。あと邪魔にならない程度に彼を見ていて、何かあったら私に直ぐ報告して。翔太君は…さっき説明したわね」



 僕とヒスイさんの返事が重なる。



「じゃあ始めましょう。翔太君頑張って、君なら必ず世界の真理に辿り着けるはずよ」



「翔太様、頑張って下さい。次会えるのを楽しみにしています」



「翔太君、いや翔太。私は常に君の側で見守っている。何かあれば直ぐ言ってくれ」



「はい!頑張ります!皆さん行ってきます!」



「「「行ってらっしゃい」」」



 僕は3人に見送られながら、隠し部屋へと姿を消した。

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