第5話 これから
何もできなかった。
私は彼に昔、救われたというのに。
彼が困って、助けを求めてる時に私は、ただ見てるだけしか出来なかった。
「うぅ…うっ…うっく……!」
今も私は布団に包まり、泣くことしか出来ない。
情けなくて、悔しくて、こんな自分が大っ嫌いになる。
思い返す、私が戻る前に背中越しに言われた王妃様の言葉。
『私が憎いのならば強くなりなさい!自分が憎いなら守れるだけの力をつけなさい!』
私の気持ちを見透かしたように言われた。
あの時確かに王妃様が憎かった。でもそれ以上に自分自信が憎かった。
あの人の言ったことは正しい。この世界は私達の知る世界とは違う、文字通り命がけの世界。
「…強く…ならなきゃ…ッ!」
泣いてちゃダメだ。もう涙は要らない…。求めるのは守れるだけの力。
私の力は、みんなの怪我を治す治癒属性。
みんなの前に立って守ることはできないけど、私が強くなればもう、大切な人たちを失わずに済む。
「私…頑張るから。……翔太くん」
私はこの覚悟を今、心に刻む。
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とある一室
其処には、大きな机を挟んで座る2人の男女。
男の方は若く、まだ成人にも満たない。かたや女性の方は、美人で大人の雰囲気を醸し出している。
「今日は1日で色々な事がありましたねぇ」
女性が頬に手をやり、しみじみと語り出す。
「ホントに、もうこうこんなのうんざりですよ…」
今日の出来事を思い返し、大きな溜息をつく男性。その顔には疲れが見えていた。
その時突然、ぐぅぅぅ…と男性の方から聞こえる。
「あらあら、文字通りお腹の虫が鳴いたわね」
女性がクスクスと笑うと、男性は顔を赤くし俯く。
「仕方ないじゃないですか…今日は昼から何も食べてないんですから」
「そういえば私も食べてなかったわ。今、食事を運ばせるわね」
そう言うと机の上にある、小さな呼び鈴を2回ほど鳴らす。
するとドア越しから「失礼します」と挨拶をし、男性が1人入って来た。
「夜食を2人分お願いね」
「かしこまりました、少々お待ち下しい」
女性の言葉を聞くや否や、入って来た男性は直ぐに踵を返し厨房へと向かった。
女性は「さて」と仕切直し、向かい側に座る男性へと向き直る。
「じゃあこれからの事についてお話ししましょうか。ねぇ…
翔太様」
「はい。あと様はやめて下さいって言ってるじゃないですか」
歯車はまだ、回り出したばかり。
読んで下さっている方々、ありがとうございます。
投稿が遅くて申し訳ございません。できるだけ早く投稿していく予定なので、ゆっくりで良ければ皆様お付き合い下さい。