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戦えない落ちこぼれは知力で成り上がる  作者: 加藤 成
第1章 異世界
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第4話 言葉の重さ

 はぁ、お腹空いたな。僕が馬小屋に来て、どのくらい時間が経ったんだろう。

 外見ると空はもうオオカミの時間だ。



「これからどうしよう」



 干し草の上で膝を抱えながら座り、僕は誰に聞くわけでもなく呟く。



「属性があればなぁ…」



 ふと、謁見の間での出来事を思い出す。

 クラスのみんなや騎士の人達、王様の僕を見る目。異物を見るような、ゴミを見るようなそんな目。騎士の人や王様はこの際どうでもいい。でもクラスのみんなは違う。これまで一緒に過ごして来たのに、みんな仲間だと思ってたのに。

 裏切られた。一瞬で。

 僕の中で、これまでの思い出が何もかもが砕け散った。

 辛くないかと聞かれれば、正直最初は凄く辛かった。

 けど、今は違う。何も感じない。

 結局人間、自分以外のやつなんてどうでもいいんだ。信用?信頼?そんなもの自分の身を守る為の虚言に過ぎない。いざ何かあった時、容赦無く切り捨てて知らぬ存ぜぬの一点張り。トカゲの尻尾と同じだ。

 そして僕がそのトカゲの尻尾だった。

 でもだからっていって割り切れることじゃない。もうあいつらなんて友達でもクラスメイトでも無い。

 不倶戴天の敵だ。



「絶対許さないッ!」



 自然と声に出してしまう。

 あいつらに復讐する。そのためにはこんな所で死んでたまるもんか!

 先ずは冷静になろう。そして状況整理。

 僕は今、城の中にある馬小屋の中。戦える術はない。あるのはスキルという〝瞬間記憶能力〟〝読取り〟の2つ。

 ここから今僕に出来ることは、情報収集のみ。幸か不幸か、ここはお城の中。多分書庫みたいなところがあるはず。そこで少しでも多く、この世界のことや戦い方の情報を集める。

 動くのは夜の方がいいだろう。それまでは空腹に耐え、時を待とう。



 やることが決まった僕はその場で横になり寝ることにした。

 夢と現実の狭間を行き来していると、遠くからこちらに向かって来る足音に気付く。



 誰だろう…。とりあえず今は寝たふりをしておこう。



「おや?眠っていらっしゃるのですか?この状況で寝れるとは、意外と肝の座った方ですね」



 聞いたことのない声。多分声からして40後半から50くらいの男性だと思う。

 そんな事より寝てるってことは多分僕に用があるんだよね?なんだろう。



「私としてもこの方が仕事が早くすみそうなので好都合です。ではサヨウナラ」



 ん?なんか鉄臭いような…。それにお腹が生温かく湿っていくような。

 湿った部分を触り顔の前に持っていく。そして眼を開けてーーー



「ヒッ!血!?うわああああああぁぁぁ!」



 ーーー慌てて起き上がると同時に首に何かが当たったと思った矢先、僕の意識は途切れた。



 ーーーーーーーーーー



「これは…なかなか酷いですね」



「久々だったもので、少々張りきってしまいました」



 私は今、翔太様の死体を見に馬小屋に来ています。隣でヴァンがやりきった感を出していますが、それは無視でいいでしょう。

 それより死体ですが、どうなっているかというと



「磔にする必要ありましたか?」



「趣味です」



 壁に、十字架のように磔にされています。両手首にか釘か何かで打ち付けられ、胸に剣が1刺し。身体中切り傷だらけといった状態です。顔は項垂れているので、よく見えませんね。



 私はヴァンの趣味という言葉を聞か無かったことにし、一緒について来させた彼らの方に目を向けます。

 其処には先ほど食べたであろう食事を、吐き出す生徒たちの姿。



 これ片付けるの大変ですね。

 お、でも黒髪の子は吐いてませんね。そういえば彼女だけ食事に手をつけていませんでしたね。



「なんで…すか…」



「はい?」



「なんでこんな酷いこと出来るんですかッ!」



 黒髪の子が目に涙を溜めて叫んできます。



 ん?今、なんでこんな酷いこと出来るんですか、と仰いました?

 いや、もしかしたら私の聞き間違いだったのかもしれません。



「黒髪のお嬢さん…聞き間違いだと思うのですが今、なんでこんな酷いこと出来るんですかと、仰いましたか?」



 彼女は私を睨みながら頷きます。



 …何を言ってるのでしょうか彼女は。

 自然と彼女を見る目が鋭くなるのが、自分でもわかります。



「何被害者ぶってるのですか貴女は、貴方達は。翔太様がこうなったのは、貴女達のせいでもあるんですよ?」



「!?けど私達は」



「事実、先ほど誰かが仰ってたではありませんか、早く死ねばいいのにと。ただそれが現実になっただけ、それだけの事です」



 その言葉が’トドメになったのでしょう、彼女は泣き崩れました。

 そんな彼女にミーアとイチャついていた男子生徒が駆け寄り、「大丈夫大丈夫」と声をかけます。そしてキッと私を睨んできます。



「貴女は最低だ!人の命をなんだと思ってる!」



「そうです!酷すぎますお母様!」



 どこから現れたのでしょう、ミーアまできました。



「最低?酷い?それは貴方達も同じだと言ったでしょう」



「違う!僕達はっ!」



「…違わないわ…私達が瀬戸君を殺したのよ…」



「えっ?なっ何ってるんだ八城さん!」



 黒髪の彼女、八城って言うんですね。名前を聞きそびれたのでちょうど良かったです。

 まぁ今は黙って様子を見ましょうか。



「だってそうでしょ!私達誰も瀬戸君の味方もせず、彼を除け者にした。私達が殺したも当然じゃない!」



「そ、それは彼が何もできないから。それにミーアに酷い事しようとしたんだよ?」



 それまだ信じていたんですね。アホですね。



「瀬戸君はそんな人じゃないッ!」



「ッ!?」



 なんか飽きてきましたね、そろそろ締めますか。



「兎に角わかったでしょう。私はやると言ったらやります、私の持つ権力を駆使して。ではこの死体の処理もあるので、今日はもう部屋に戻って構いません。いいえ、戻りなさい」



 生徒達ゆっくりと立ち上がり、ノロノロと部屋へ戻っていきます。時々、翔太様の死体に手を合わせてから帰るものが数名。そしてまだこの場で言い争う3名。八城という女の子、ミーアと先ほどの男子生徒。それもミーアが男子生徒を宥め、直ぐ終わりました。



 そういえば、ミーアはもう16でしたね。ついでですし言っておきますか。



「ミーア!ちょっと待ちなさい」



「なんですか、お母様」



 また睨まれました。今日は睨まれてばかりです。

 まぁどうでもいいですが。



「いい機会なので伝えておきます。貴女は、私のことをお母様と呼びますが、私は貴女の母親じゃありませんよ」



「……え」



「後のことはあの人に聞くといいでしょう。あっ、あの人は貴女の本当の父親ご心配なく」



「……嘘です」



「嘘じゃありませんよ。だからあの人に聞けばわかりますって」



「…私は嘘だと信じております!」



 それだけ言い残し、走って姿を消しました。

 嘘じゃなって言ってるんですけどねぇ。



 はー、スッキリしました。いつ言おうか迷ってたんですよね。さて、男子生徒はミーアを追って行きましたから、今ここにいるのは八城という女の子と私だけです。



「あなた、名前はなんですか。八城と先ほどの男子生徒が言っていたので、ファミリーネームが八城と言うのはわかりますが」



「…人に名前を聞くときは、自分から名乗るもんじゃないんですか」



 この状況でそうきますか。でも確かに彼女が言っていることは正しいですね。



「これは失礼しました。私はアスカ・フォン・ラース、この国の女王陛下です」



「…八城美嘉です」



「では八城美嘉さん、貴女に1つ忠告です。先ほど貴女達のクラスが言った『クラスのみんなの為に』という言葉。あれ、よく考えて使うことです。理由は…言わないでおきましょう」



 自分で気付かなければ、意味がありませんから。



「なぜそれを私だけに言うんです…?他のみんなにも教えてあげればいいのに。それに私はッ!」



「彼を殺した貴女を許さない。とでも言うんでしょう」



 彼女の瞳が大きく揺れます。

 あからさまな動揺、図星ですね。



「別に許さなくて結構です。そんな事より、何故貴女だけに教えるのか…でしたね。それは他の方々は恐らく、また同じ過ちを繰り返すと、そう思ったからです。ですが貴女は違う、今回のコトの大きさを十分理解している貴女なら、私の言った言葉を正しく理解してくれる。そう思ったからです」



「……部屋に戻ります」



 予想以上にショックを受けてますね。それにあの涙は、恐らくーーー



「私が憎いのならば強くなりなさい!自分が憎いなら守れるだけの力をつけなさい!」



 ーーー何もできなかった自分が、憎くて憎くてたまらないのでしょう。その想いを糧に、強くなってみせなさい。



 彼女の姿が見えなくなり、周りに誰もいないことを確認する頃には外は真っ暗になっていました。

 私はそんな薄暗い中、執事であるヴァンを呼びます。



「ヴァン、ありがとうございました。悪いのだけど後片付けお願いできますか?」



「お任せ下さい」



「お願いします」とヴァンに後を任せ、私は自分の部屋へと戻りました。

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