第2話 差別
んっ…もう開けても大丈夫かな?
僕はゆっくり少しづつ目を開くていく。そして視界がクリアになった先はーーー
「スゲー!これが魔力か!」
「ねぇねぇ、聞いて聞いて!私、風属性だって!」
「私は水属性だった!」
「俺なんか炎と土の2属性だぜ!」
「「「すごーい!」」」
ーーー魔法のことを興奮気味に話すクラスのみんながいた。
え、属性?何言ってるのみんな?
訳が分からず僕は隣にいた同じクラスの、柳翔琉君に聞くと「頭の中に流れてきただろ?」と言うだけで、直ぐにみんなの輪の中に戻っていく。
確かに柳君の言う通り流れてきた、流れてきたけど…。
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魔力 360
スキル 瞬間記憶能力
読取り
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何処にも属性なんて無いよ?
「どうやら成功した様だな」
「「「「「「はい」」」」」」
いやいや、成功してないよ国王様?僕、属性がないよ?でも、どのタイミングで言えば…。
「そうかそうか。では1人づつ魔力と属性を教えてくれ」
その一言でみんな、我先にと言わんばかりに一斉に国王様を目指して駆け出す。
どうしようどうしようどうしよう。ここは嘘でも適当に属性を…いやでも魔法の訓練とかあったら、すぐバレちゃうし。でも素直に言うのも…。うぅ、どうしたら?!
聞いてる感じ魔力もみんな僕より10倍近く多いみたいだし。
どんどん順番は進んでいき、何もまとまらず無情にも僕の番が来た。
「さぁお主で最後だ。お主の魔力と属性を教えてくれ」
「………」
「どうした?早く言いなさい」
何も言わなず俯いている僕を不審に思ったのか、国王様が顔を覗き込む様にし催促する。
その様子にクラスのみんなや王妃様も、どうした?と言う様な目で僕を見ているのが振り向かなくてもわかる。
…もう素直に言おう。
「……魔力は360。属性は…ありません」
「は?」
「「「「え?」」」」
あーあ、言っちゃった。でも仕方ないよね、本当のことだし。
僕は恐る恐る顔を上げる。そこにはーーー
「ッ!ーーーッッ!!」
ーーーこれでもかというほど、怒りで顔を歪めた国王様がいた。
「ッ!?」
その顔を見た僕は怖くなり1歩後ずさる。
「まさかこんなクズが紛れ込んどるとはッ!」
「で、でも聞いてください!僕にはスキルがーーー」
「黙れぃクズが!もう良い、さっさと下がれぇ!」
あまりの剣幕に僕は「ヒィ!?」という変な奇声をあげ、逃げる様にして下がる。
みんなのところに戻ると掛けてくれる言葉は「おかえり」でも「お疲れ」でも無かった。
「こっち来んじゃねぇよ、クズ」
「ちょっと近寄らないでよ無能」
貶す言葉、言われたのはそれだった。言わない人もいるけど、その人達は僕をゴミを見る様な目で僕を見てくる。先生もその1人だった。
もう何も聞きたくない!見たくない!
僕はしゃがみこみ、目をぎゅっと閉じ耳を手で塞いだ。
なんでこんな目に合わなきゃいけないの?
僕だって好きでこの世界にきた訳じゃないのに。
みんなとちょっと違うだけなのに、なんでこんな酷いこと言われなくちゃいけないの…?
ただ平凡に生きたかっただけなのに。
もうやだよ…。家に帰りたい…。
これからどうすればいいだよ…。
もう何もわからない…。頼れる人もいない…。
「ーーーし」
わからないわからないわからない…。
「もし、ーーもしーー」
「えっ?う、眩しっ」
誰かに呼ばれた様な気がして咄嗟に振り返ったけど、そう言えば僕、目閉じてたんだった。
やがて目が慣れてきた頃もう一度、今度はしっかりと聞き取ることができた。
「もし、異界の方。大丈夫ですか?」
声をかけられた方を向くと、そこには今まで喋ることのなかった王妃様が、心配そうな顔をして立っていた。
「大丈夫ですか?他の方はもうこれから過ごす部屋を見に行きましたよ?」
その言葉に驚き、辺りを見回して見るとクラスのみんなは誰1人としていなかった。いるのは僕と王妃様、それと騎士の人が1人だけだった。
みんなにとっては、僕はもう邪魔者なのかな…。
「異界の方。お名前はなんと仰られるのですか?」
「え?…あ、瀬戸翔太です」
まさか名前を聞かれるなんて思ってなかった。一瞬聞き間違いかと思っちゃった。
あれ王妃様、今目見開いてた?でも今は普通でし気のせいだったのかな?
「そうですか、いい名前ですね。私はアスカ・フォン・ラースと言います、よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
「実は私、あなたとお話したかったのです」
「僕とですか?」
「はい」と言って、にっこりと笑い頷く。
「先ほどの夫との話の時、何か言いかけませんでしたか?」
言いかけたこと?それって
「えーと、もしかしてスキルのこと…ですか?」
「えぇ!それですそれ!」
あまりの食いつきに僕は少したじろぐ。
それを見た王妃様が慌てて「すみません」と謝ってくる。僕かそれに「大丈夫です」と答え、スキルについて話を戻す。
「僕にもよくわからないんですが、僕のスキルは〝瞬間記憶能力〟と〝読取り〟らしいです」
でも、よく考えたらこの2つも全然戦闘向きじゃないよね。
「とても素晴らしいスキルですね」
また落ち込みかけるのを見越してか、王妃様が僕の力に対し褒めてくれる。
嘘でも嬉しい。
「さぁ、私から声をかけておいてなんですが、そろそろ他の皆様方を追った方がいいでしょう」
あ、そう言えば僕、みんなに置いて行かれたんだった。
「皆様方は、これから寝泊まりする寝室へと向かわれました。場所はこの謁見の間を出て、左へずっと行けばあります。少し急げばまだ間に合うでしょう。さ、お行きなさい」
「はい、教えてくれてありがとうございます」
王妃様にお辞儀をし、早足で扉に向かう。流石に謁見の間で走るわけにはいかない。
「こちらこそありがとう。とてもいい話が聞けました」
その言葉に再度振り返りお辞儀し、すぐ踵を返す。
「おい、貴様待て」
扉まであと数歩というところで、謁見の間に残っていた騎士さんが僕を呼び止めた。
「お前は私についてこい」
言うが否や騎士さんは僕の返事も聞かず、謁見の間を出ると、右へ歩き出した。
「あれ?みんなは左へ行ったって王妃様が…」
「………」
無視…。
あ、もしかしたら今からならこっちの方が早いのかも。
そう思い僕は騎士さんの後を黙ってついて行った。
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「ここがこれから過ごす場所だ」
騎士さんに言われた場所は、木で出来た建物。中は獣臭く、角に藁の山がある。
そうそこはーーー
「ーーー馬小屋…」
「無能のお前にはピッタリだろ」
そう言い残し、嗤いながら騎士は来た道を戻って行った。