第12話 新たな力
「う…うぅ…アスカ…様?」
「翔太君!目を覚ましたのね!」
目を覚ました?あぁ、そういえば僕気を失ったんだった。
「よかったわ。あなた今まで心肺停止だったのよ?」
心肺停止!?それって死んでるじゃん。僕今まで死んでたの?マジかぁ…。
それでこんな心配してくれてたんだ。
「すみません、心配かけちゃって」
「本当よ、あなたは私の唯一のーーー」
「アスカ様!持って来ました!…え?翔太?」
アスカ様の言葉を遮り影の中から現れたのは、焦りの顔が滲み出ているヒスイさんと、珍しく笑顔では無く無表情なヴァンさん。
ヒスイさんは僕を見ると焦りから一転、目が点になる。
そういえば僕が気を失ったときヒスイさん居たっけ。心肺停止って言ってたし、ヒスイさんにも迷惑かけちゃった。それにヴァンさんも。
僕が謝ろう謝罪の言葉を口にしかけた瞬間、今まで受けたことのない衝撃が腹部に走る。
身構えることもできなかった僕は、グエッと、だらしない声をあげて2メートルほど吹き飛んだ。
「イテテテ…。急に何するんですかヒスイ…さ…ん」
僕はタックルして来た張本人、ヒスイさんに文句を言おうとしたが、僕の腰にしがみつき、見上げる彼女の顔を見て思いとどまった。彼女は
「しょ…しょうたぁ…うぅ…よかった…よかったよぉ…。私ッ…死んじゃったかとぉ…思った…うわあァァァァァァ」
大粒の涙を流していた。
もちろん僕は生まれてからこれまで、女性に泣かれる事はおろか、一緒にいることなんて無かったからこんな時の対処法なんて知るはずも無い。
僕は今ここにいる2人に助けを求めようと目を向けるが、2人は優しい目を向けるだけで何の助言もくれない。
そんな視線はいらないから助言頂戴!
あの2人がダメだとわかった以上、もうあとは自分しかいない。えっと、彼女は僕が死んでたと思ったはず。じゃあ生きてるアピールをすればッ!
「ヒ、ヒスイさん?僕はほらっ!大丈夫ですから!だから泣き止んでくださ…えっ?何でさっきより泣くんです!?」
泣いてるヒスイさんを引き剥がし、僕は大きく手を広げ大丈夫アピールをしようとしたら、何故か大泣きに変わった。
もう僕はどうしたら良いんですかァ!ってそこの2人。何で僕をそんな冷たい視線で見てるんですか?……ッ!?溜め息つかれた!
もう、どうしろって言うんですかァァァァァァ!
「あの…もう大丈夫ですか?ヒスイさん」
あれから数分、結局ヒスイさんが自然に泣き止むのを待った。
その時に、アスカ様がどうやってこの部屋に入ったか聞いたら、最初の壁の入り口からって言ってた。
そういえば、アスカ様なら開けられるって言ってたっけ。納得。
あとは待ってる時、僕たちを見てた2人、アスカ様とヴァンさんがしきりにため息をついてきたのは、さすがにイラっときた。
そしてヒスイさんは
「な、何を言ってるんだ翔太!私は泣いてなんかなかったぞ!」
泣いてたことを必死に無かったことにしていた。
「あの…ヒスイさん?」
「クドイぞ。私は泣いて無かったとーーー」
「僕、もう大丈夫か?と聞いただけで、もう泣き止みましたか?とは聞いてませんよ?」
「ーーーッッッ!うううう、うるさいうるさいうるさァァァァァァイ!」
あ、拗ねて影の中に逃げた。ちょっとからかい過ぎたかな。
「フフフッ、仲がいいですね、2人とも。そうは思いませんかヴァン?」
「はい、微笑ましい限りです」
今度はニヤニヤした顔でこちらを見てくる2人。
ほんと、表情がコロコロ変わるなぁ。
「さて、ヒスイも泣き止んだことなので、翔太君。そろそろ何があったか説明してくれる?」
「はい」と答え、アスカ様とヴァンさんの方に向き直る。
その時、何処からか「泣いてません」と聞こえたのは気のせいだろう。
「うーん…何から話せばいいのか…。とりあえず、アスカ様の言う世界の真理はわかりました。そしてこの世界が何を望んでいるのかも。まずは真理からーーー」
「真理については他言してはダメよ。例え私でも。それより、理解したと言うことは会ったのね、世界そのものに」
「はい、会いました。ただ、望みを説明するには、どうしても真理を知ってもらわないと」
「じゃあ、その辺はいいわ。それは世界から貴方への依頼、ということにしておくから」
依頼かぁ。そんな楽なもんじゃないんだけど…。
「それより私が知りたいのは貴方のスキル。会ったということは進化してるのよね?」
「してます。ただやっぱり戦闘向きじゃありませんでした」
それを聞いたアスカ様ヴァンさん、そしていつの間にか影から出てきてたヒスイさんが一斉に笑顔に変わった。
「おめでたいですなぁ。それで翔太様、どのように変わったのですか?」
「えーと、まず『瞬間記憶能力』が『叡智の結晶』に、『読取り』が『観察眼』に変わりました」
「『観察眼』は何となくわかるが、『叡智の結晶』とは何だ?」
「『叡智の結晶』はこの世界の全ての知識と思考能力の加速です。例えば、魔法の詠唱を聞いた際、どんな魔法かが瞬時にわかる、と言った感じです」
「なるほど。しかし翔太様。幾ら思考能力が上がったからと言って、脳がついて行かないのでは?」
「そこは心配無いそうです。世界の真理に辿り着いたことで、脳も進化してるらしいです。普通の脳は約10パーセント程しか使われていないんですが、僕の脳は約50パーセント発揮できるって能力を進化した時言ってました」
「なんか…微妙だな」
他の2人もそう思ったのだろう、曖昧な顔をしている。
確かに僕も最初はそうだった。
「今以上を発揮するには条件がいるらしく、50パーセントが限界らしいです。で、50パーセント発揮する脳は何が違うかというと、まず五感の制御、遮断が可能。身体能力の向上。そしてエネルギー、この世界なら魔力の流れを感じ、視覚で捉えることができます」
ここまで聞いても、みんなあまりすごいと感じてない。まぁこれじゃあ、常に魔力探知してるって言ってるだけのようだもんね。
でも本番はここから。
「ヒスイさん、何か攻撃魔法を僕に向けて撃ってください」
「な、何を言ってるんだ!初級でも当たりどこが悪ければ死ぬんだぞ?死ぬ気か君は!?」
「必要な事なんです」
「ッ!?…」
「やりなさいヒスイ。大丈夫、何かあった場合、私が全力で彼を助けますから」
「アスカ様…。わかりました。行くぞ翔太ッ!雷属性初級魔法、雷鳳扇ッ!」
雷鳳扇。鳥の形をした雷が複数現れ、扇のように囲み襲ってくる初級の中の上の魔法。普通なら発動してから1匹ずつ避けるのがセオリーだけど、僕はそんな事しない。
僕は足元に落ちてる本を3冊拾い、ヒスイさんの方に投げる。正確にはヒスイさんの前、3つの魔力が集合している場所に向けて。
魔力の集合体と本がぶつかった瞬間、魔力が霧散する。
それに気付いたヒスイさんは驚愕の顔を浮かべ、見ていた2人は何が起きたのか分からず、しどろもどろする。
「魔法が…消えた…?」
「消えた…。うーん、当たらずとも遠からずと言った感じですね」
瞬間、僕の肩を掴み、剣幕な顔で詰め寄ってくる。
「どういう事だ翔太!君は一体何をしたんだ!?」
「おおお、落ち、着いて、くださいぃぃぃ!今から、説明、します、から。ちょ!?ゆ、揺らさ、ないで、落ち着いてェェェ!」
「む?すまない、つい興奮してしまった」
解放された僕は話を続ける。吐かないように口に手を当てながら。
「うっぷ…。まず僕がやった事ですが、今やったのは魔法の強制キャンセルです」
「でも翔太君がやったことといえば、本を3冊投げたくらいじゃない?」
「はい、その本が魔法をキャンセルさせたんです。1から説明すると、さっき僕は脳が50パーセント発揮できるようになって魔力の流れを感じ、視覚で捉えることができるっていいましたよね?それはつまり魔法が放たれる前に、魔法が何処に現れるのは視えるんです。そして今度は視えたものを『観察眼』で魔法の〝核〟を見つけます。いくら魔法といっても、核が形成されなければ魔法は発動しません。だから僕は本を投げ、意図的に核の生成を邪魔し、強制的にキャンセルをさせたということです」
うわぁ…みんな呆然としてる。これもう一回説明コースかな…。
「…ハッ!す、凄いじゃない!それって翔太君には魔法が効かないっていってるようなもんよ?」
あ、帰ってきた。この様子だと説明は良さそうだ。
「ホホホッ、その通りですな。私の幻も効くかどうか。とても素晴らしい力です」
「ありがとうございます。でもこれ、今は欠点があるんですよ」
「ちょちょちょ!?ちょっと待て!本で魔法の核を消す?魔法に核があることは、私も聞いたことがあったからまだ理解できる。しかし本で消すなんてありえないし、そんなこと聞いたことがない」
「そんなこと、少し考えればわかることですよヒスイ。それは誰もそんなことした人がいないんです。もっと言うと、これは魔法の核が見えて初めて出来ること。つまり翔太君以外出来ない。ですね翔太君?」
僕は首肯で答える。
僕のセリフを取られちゃったけど楽できたし、まぁいいか。ヒスイさんも納得したみたいだし。
「それで翔太様、さっき言いかけた欠点とは?聞き間違いでなければ〝今は〟と仰っておりましたが」
「あ、はい。脳の進化に身体能力の向上ってあったじゃないですか?あれ文字通り身体能力が上がるだけで、肉体自体は何の変化も起きないんです。なので…」
「身体能力を上げても肉体がついてこない、ということですな」
「なるほど。魔法の身体強化とはまた別物だな。あれは身体能力と共に、肉体も強化してくれるからな。これ地道に魔力を無しで鍛えるしかないな」
「それは世界そのもの…面倒いので世界主にしますか。世界主もヒスイさんと同じことを言ってました。ただそれに加え世界主は、魔力無しで鍛えれば、身体強化も比例して上昇するって言ったましたけど」
「ッ!なるほど、それで翔太以外の異界者たちは、初めからある程度の強さを…。こうしちゃいられないな。翔太!私たちも今から鍛えるぞッ!」
「ちょ、ちょっと待ってヒスイさ………ッ!」
ヒスイさんが何かに納得し、僕の手を掴んで部屋の外へ連れて行こうとする。が、それは叶わなかった。虫の音が鳴いた。僕のお腹の虫が。
「ふふふ。ヒスイ、可愛い翔太君を早く強くして上げたい気持ちはわかるけど、特訓はお昼を食べてからにしなさい。翔太君も疲れてるだろうしね。ヴァン、昼食の準備を」
「かしこまりましたアスカ様」
「じゃあ私たちも、そろそろここを出ましょうか。昼食は隣の私の書斎で食べましょう」
そうして僕は最後の最後で恥ずかしい思いをし、1週間過ごしたこの部屋を後にした。




