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鏡の館で

作者: 木彫りの熊

「・・・んんっ・・・。」

目を覚ます。日差しが差し込み目がくらむ。横になっていた上体を起こすと蝉の音と汗ばんだシャツで蒸し暑さを実感する。

スマートフォンを手に取り、時計を見ると7月30日、8時14分であった。

「そろそろ起きるか。」

ポケットにスマートフォンを入れ立ち上がる。そうして瀬川の一日は始まった。


階段を下り、洗面所へ入る。蛇口をひねり、冷水を手にすくって顔にぶつけた。濡れた顔を上げ鏡を見る。

「・・・・・。」

しばらく無言になる。タオルで顔を拭き、居間で深々とPCチェアに座るとスマホをいじる。すると友人の田中武弘がラインで肝試しの誘いをしてきた。俺は三年前の肝試しをしみじみと思い出した・・・。



~三年前~


「おーい、瀬川!」

「なんだよ、武弘たけひろ。でかい声で呼ぶな。」

「ちょっと来てくれ!」

「お前が来いよ・・・。」

そう言って俺のただ一人の友人もとい腐れ縁の武弘は高校の廊下で俺を呼びつけ、一歩も動かず俺を待った。一緒に歩いているとなんの前置きもなく切り出した。

「なあ、お前肝試し行かない?」

「え。」

「いやだから肝試しだよ。」

言われたことを反芻はんすうし、少し考える。あと二日で夏休みに入り、夏期講習以外予定がないのでOKしよう。

「・・・行くのは構わんが、場所は?それと俺ら二人だけか?」

「場所は廃園になった遊園地。それと・・・女の子二人誘うことにしましたああっ!」

相変わらずだ・・・遊ぶことになるとお調子者になる。溜息をして次の質問をする。

「で、日程は?」

「まだ決めてないよ。決まったら連絡する。」

軽く言い放つと武弘たけひろは別れの合図を送り、立ち去る。

(廃遊園地か・・・、あそこ立ち入り禁止じゃなかったか?)

気づいたもののもう遅く、次の授業をする教室に向かった。



肝試しをする、友人の提案から二日後、終業式を終えて武弘とともに帰りの電車の中にいた。電車内には同校の生徒が多数いる。正午前に終了したため、俺含めほとんどのやつが嬉しそうだ。

武弘としばらく談笑していると思い出したように言った。

「あっ、そうそう肝試しの日程だけどな、明日の8時ごろ遊園地入り口に集合な!」

決行日を明日と告げられたため驚く。

「明日!?もうちょっと後だと思っていたんだが・・・。」

武弘は首を傾げて返す。

「ん?都合が悪いのか?ダメなら別の日に・・・。」

「いやっ、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。すぐやるんだなと思って。」

「まっ、こういうことは早いほうがいいだろ。」

武弘は手に持っていた炭酸飲料を一口飲むとまた別の話題に切り替えて話をつづけた。数十分後、俺と武弘は同じ駅で降りてそこから別れた。昼食をとっていないため空腹だ。早く飯が食べたい・・・。



翌日、起床して学校の夏期講習という現実に頭を抱えながら登校の準備をした。

一年生はすべての選択授業が午後2時に終了するのだが、それでも嫌である。就職して働けば夏休みがほぼ消えるのなら今のうちに少しでも休んでおきたいと思ってしまう。そこまで大げさに考えなくても・・・と、もう一人の自分に言われつつ家を出た。


文句をつけていた講習は以外にも早く終わってしまった。

俺もそこまで真面目なタイプではないためボーっとしていた時が多かった。武弘に至っては爆睡していたので俺のほうが優等生だろう。帰り道、武弘に最終確認を取られた。

「じゃあ今日の夜8時、廃遊園地に集合な!怖気づくなよ?」

「ハイハイ。そっちこそ怖すぎて漏らすなよ?」

お決まりの返しをやって二人で笑う。そこで俺は別にどうでもよかったもう一つのことを聞いた。

「そういえば女子二人を誘うって言っていたよな。誰なんだ?」

武弘は数秒空を見上げて答えた。

「秘密。」

意外な答えだった。

「ふうん、まあ期待しとくよ。」



午後7時40分、俺は廃遊園地に行くため自転車に乗って家を出た。母親には友達と散歩をするといって本当の目的を伏せた。まあ俺の母親は放任主義なので本当のことを言っても咎めやしないとは思うが念のため。廃遊園地までは自転車で10分程度で到着する。一応待たせないように早めに出た。

午後7時54分、園入り口付近に着いた。自分が一番乗りかと思っていたが既に先客が3人いた。

「おせーぞ、瀬川!待ちくたびれたぜ!」

俺も返事をする。

「お前が早いんだよ!また30分前に着いていたとかじゃないよなあ?」

「うっ・・・。」

図星か。相変わらず楽しいこととなるとこんなことをしでかす。そして俺は武弘の隣の会話をしていた女子二人に目をやる。一人のほうは気づいたのか軽くお辞儀をした。


午後7時55分、四人全員集合して武弘が口を開いた。

「では、まず自己紹介をしたいと思います!俺は田中武弘・・・ってみんな知ってるかアハハ!」

何でこいつはこんなに元気なのか・・・。続けて武弘が言う。

「じゃあ次、瀬川!」

「あ、半分言われましたが瀬川 勇二ゆうじといいます!今日はよろしく!」

とりあえず元気に紹介したが柄でないため自分で違和感を覚えてしまった。

「今日は威勢がいいな・・・、じゃあ次、れいちゃん!」

「ちゃん付けで呼ぶなって言ってるだろ・・・。大宮 怜華れいか、よろしく。」

怜華は黒髪ロングの顔が整った人だ。ただちょっと機嫌が悪そうだ。

「最後、らんちゃん!」

「初めまして、小林 蘭菜らんなといいます。今日はよろしくね!」

そしてもう一人は手に一眼レフカメラを携えたメガネをかけた、蘭菜だ。

2人とも可愛いほうで武弘とはすでに知り合いだったと思うと、なぜか悔しくなってきた。

「それでは、廃遊園地の肝試しスタートオオオオ!」



俺達四人は遊園地に入った。入った場所は集合場所にしていた入り口ではなく壁にぽっかり空いた穴からだった。入場門は固く閉ざされており、登ろうにも高くて届かない。事前に穴を見つけていたという武弘についていき今に至る。感想はというと・・・。

「うわっ・・・、すげえ古いな。」

思わず本音を漏らす。入り口から雑草が我も我もと背を高くして茂っていた。入って正面から斜め左にはほったらかしにされて寂しく放置されたコーヒーカップのアトラクションがあった。ほかにはジェットコースターや観覧車もある。昔、大勢の客が足を運び楽しんでいたであろう面影はもうなく、ただ夜の闇と湿った空気がはびこっているだけであった。俺が物色しているうちに後ろでカメラのシャッター音が聞こえた。

反応して振り向くと怜華は蘭菜に話しかけていた。

「ちょっと・・・、何撮っているのよ蘭菜・・・。」

「・・何って写真よ写真。せっかく来たんだからこのぐらいしないとねえ・・・、フフフ。」

黒髪の麗人、怜華は顔を引きつらせあたりを見回す。どうやら怖いらしい。意外なことを知りなんだか得をしたような気分だった。頭の中でにやけていると武弘が心中を察したのかぼそりと呟く。

「意外だろ怜華のやつ。こういうところは苦手なんだよ。ほかにも・・・。」

聞こえないように小声で言っていたが周りが静かだったため筒抜けのようだった。

「ちょっ!武弘!あんたねえ・・・・!」

「ああ・・・、悪かった悪かった!もう言わねえよ・・・。」

少し涙目になっていた怜華を武弘はなだめる。感情は顔に出やすいらしい。可愛い・・・。

表に出したら気持ち悪いと思われるであろう感情をそっとしまって俺は頭に浮かんだ疑問を話す。

「あの・・・、怖いならどうして肝試しなんかに・・・?」

この質問に怜華は一部否定しつつも返してくれた。

「こ、怖くなんかないわよ!ただ蘭菜が行くっていうから・・・しかも男子二人とだから心配で・・。」

目をそらして娘の貞操を心配する母親みたいなことを言った。俺と武弘は獣扱いらしい・・・。

そのやり取りをよそに蘭菜は熱心にシャッターを切る。俺の注目が蘭菜に向いたことに気が付いた武弘は、またも注釈する。

「蘭菜は筋金入りのオカルトマニアでな、特に心霊とか呪いとかそういう類には目がなくてな・・・。」

へえ、と心の中で言った。おとなしそうな外見とは裏腹に怖いものが大好きらしい。カメラは心霊写真を撮るために持ってきたのかとうなずく。女子二人の素性すじょうを知りつつ、俺と三人は数分荒れた道を歩み進めると、ボロボロで今にも崩れそうな一つの屋敷を見つけた。

「なに・・・、あれ。」

怜華は震えて声に出す。武弘は何か引っかかっているのか立ち止まっており、蘭菜は相変わらずだったため、俺は静かに屋敷の正面へと向かうとくすんだ看板らしきものを見つけた。

「ミラー・・・、ハウス?」

瞬間、武弘の声が響いた。何か思い出したらしい。武弘のもとへ向かう。俺が来たところで話してくれた。

「ここはミラーハウス、鏡がたくさんある屋敷でな。昔は人気のアトラクションだったらしいんだ。」

自慢げに説明を終えると今度は低い声で話し始めた。

「先輩から聞いた話なんだがな、なんでもこの屋敷に入ると外面はそっくりそのまま中身だけ別人になっちまうって噂があるんだよ・・・。」

聞き終えると怜華は真っ青になっていた。この本当に大丈夫かな?

一方蘭菜の顔は満面の笑みであった。幽霊出てこい、怪奇現象発生求むと言わんばかりであった。

俺はというと・・・、まあそんなもんかといったところだ。


武弘の一通りの説明を聞き終えた後、俺達はとりあえずミラーハウスに入ることにした。入る前に怜華は拒否していたのだが、蘭菜にここで待つの?といわれるとしぶしぶと蘭菜の腕に抱きついた。こんな場所で一人で待つよりは良いと判断したのだろう。

「いいか、開けるぞ・・。」

武弘を先頭に蘭菜と怜華、そして俺と続いた。中は真っ暗だったため、俺はスマートフォンの懐中電灯アプリを開いて前を照らす。初めて使ったが結構光が強い。武弘も持ってきていたた懐中電灯で辺りを照らす。蘭菜は興奮気味に写真を撮る。怜華は・・・緊張しっぱなしである。

俺はあたりを見回す。壁は一面鏡である。右も左も鏡の環境に少し気味の悪さを覚える。しかし、自分がたくさん映るというのはなんとも言えない気持ち悪さである。進み続けるうちに武弘は後ろ歩きでこのミラーハウスの説明をしてくれた。このミラーハウスはそこそこ入り組んでいるらしいが、床に赤い矢印が貼ってあり、それに沿って進めば出口にたどり着くとのこと。あ、ほんとだ武弘についてきただけなので今まで気づかなかった。長年放置されてたからか、色あせてたり少しはげたりしている。

進んでいる途中分かれ道が三つあり、俺たちはどの道を進むか相談した。

「王道の真ん中にしようぜ、真ん中!な、瀬川!」

王道の真ん中ってなんだよ・・・。

「真ん中なんてつまんない!左か右・・・、左にしよう!」

左に何かオカルトな意味があるのだろうか、蘭菜が言うと怪しく思ってしまう。

「もう出られたらどっちでもいいわ・・・。右で。」

どっちでもいいって言ったのになぜ右を選んだ・・・。

誰も言っていないが多数決で決める流れになってしまった。面倒くさいので適当に言った。

「真ん中で。」

「さすが瀬川!俺はお前を信じてたよ!」

勝手に信じてもらっては困る。

「・・・まあいいわ、真ん中で。」

不服そうだが、文句もつけず従ってくれた。ありがとう蘭菜さん。

「早く出ましょう、こんなとこなく居たくない。」

「よし、じゃあ真ん中の道をGO!」

武弘が威勢よく進み、ほかの二人も続く。前を照らしながら、俺も続いた。


選んだ真ん中の道を歩き。進んでいる間、多くの鏡が設置された大部屋に着いた。四方八方合わせ鏡になっており、最初は顔をしかめていたものの少し慣れ、何とも言えない不思議さを感じた。

武弘はついてすぐに興奮度が最高潮となり子供のようになっていた。蘭菜は全くぶれずに写真を撮っていた。怜華も慣れたのか鏡の中の世界を見ていた。そうこうしているうちにふと時間が気になったのでスマートフォンを見る。すると8時45分であった。

「げっ、俺たちこんな時間になるまでいたのか。武弘、そろそろ帰ろうぜ。あと十五分で九時だ。」

「おっ、そんなに経っていたのか・・・。なんか特別何もなかったな・・・。」

武弘が返す。それに対して怜華が冷静に返した。

「何もないほうがいいし、それが普通でしょ。」


そろそろお開き。俺は体を伸ばして帰りの準備をする。武弘はあくびを、蘭菜は今まで撮った写真のデータを確認、怜華はホッとした表情をした。俺たち四人は出口へ続く赤い矢印をたどると矢印が行き止まりになったドアの前に着いた。武弘がつぶやく。

「ここが出口か。」

ここを出れば肝試しはおしまいである。字義通りの肝試しであった。特別期待していなかったが、まあ良い点と言えば女子二人とお知り合いになれたことかな。ハハッ。武弘がドアを開ける。黒に染められた外から湿った空気が流れ込む。武弘に続いて後ろの三人も出口から外に出た。


「では、肝試しお疲れさまでした!」

武弘が元気よく声を張った。

「お疲れー。」

俺も気の抜けた声で返した。

「お疲れ様・・・、もうこりごりよ・・・。」

怜華は自分の思いを総括した。

「お疲れさま!さて、帰ったら撮ったものを隅々と調べないとね・・・。」

蘭菜は満足げに語る。そして武弘は腰に手を当て俺に言った。

「瀬川、俺は怜華と蘭菜を家まで送ろうと思うんだけど、お前は一人で大丈夫だよな?」

「馬鹿にすんな、一人で帰れる。」

俺が返答すると、怜華は不満げに漏らした。

「あら、武弘、紳士のつもり?残念だけど私は一人で・・・。」

「あれえー、怜華ちゃあん。夜が怖くて私と一緒に来たことを忘れてしまったのかなあ?」

「ちょっ!それは言わない約束・・・、もう!」

怜華は赤面してそっぽを向いた。蘭菜は怜華を諭す。

「せっかく武弘君が優しくしてくれるんだから、それに甘えましょ!上手く甘えるのもいい女の条件よ!」

蘭菜はいい女とやらをを語りだした。俺は知らないけど。

「それじゃあ壁の穴まで出発!」

4人は来た道をそのまま辿って、壁の穴を抜けた。俺は外に止めておいた自転車のチェーンを外し、家へと帰る前に三人にさよならを言った。武弘は約束通り女子二人を家まで送るようだ。俺は家に着くと、母親が珍しく俺を注意した。高校生の門限は9時ですとか押し付けてきやがった・・・。



~現在~

ちょっと長めの思い出浸りになってしまった。俺は武弘のラインに返事をする。勿論OKだ。

すぐに返信された。場所は・・・へえ、ミラーハウスねえ。メンツは・・おっ三年前と同じか・・・。

ちょっと楽しみになってきた。日程は後日報告と・・・。

俺はスマホを近くの台に置き、もう一度寝ることにした。特別やることがないなら寝るに限る。階段を上って自室に戻る。窓からおばさん2人の世間話がうるさいけど・・・まあいいか。



「あら~瀬川さんお元気?最近ホントに暑くてねえ~まいっちゃうわ。」

「ほんとに暑くてなんか疲れますわ。もう・・・。」

「息子さんはお勉強?大学生は大変ねえ・・・。」

「いいえ~、どうせ怠けてますわ休みですから。本当にどうしちゃったのかなあ、高校当初は真面目でもっと上のレベルの大学の理系学部を狙って頑張ってたのに風船の空気が抜けたみたいになって・・・。」

「何かに挫折したのかしら・・・うちの娘も急にやる気がねえ・・・。」

「それがどうも違うらしくて奇妙なことを言ってたんですよ。元から文系志望だとか、俺はそんなまじめなやつじゃねえとか・・・。まあそれでも尻叩いてそこそこ良いところには行かせましたけど・・・、うぜえうぜえ前はそんな過保護じゃなかったってぼやいてましたわ。」

「たまたま反抗期だったんじゃない?」

「ん~それもイマイチでその他にも色々違ったんですよ。なんというか・・・『別人』みたいな?」







































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