表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

莉沙のため息 ②

 冬悟がバスルームに行った隙に、莉沙は鞄の中に無造作に入れてあった冬悟のスマホのロックを外して、素早くLINEを開いた。冬悟のパスワードは知っている。


だから、すぐに開いた。


 莉沙は、自分のスマホを開いて“雪”という相手に

『いまお風呂』

と打ち込んだ。


そうすると、少したって冬悟のスマホのLINE画面に、無音でメッセージが入る。


アイコンの横の名前は“しほ”

『昨日はありがとうございました!忘れ物を預かってます。

もう一度だけ会ってください』


莉沙はその画面をカメラで撮影して、そして元通りにしてスマホを元の位置に慎重に戻した。


そして、莉沙のスマホには冬悟と女性の、裸と思わしき写真。

……隠し撮りをしたものを切り取ったのか、女性のほうの顔は見えないが、冬悟の顔はわかる。


(………気持ち、悪い……)


――なに食わぬ顔で……夫面して。


お父さんぶって。


外では………若い女性と寝てきたんだ。

莉沙ははじめて知った。冬悟は、いつものように普通の顔をしてそういうことが出来るのだということが。


ロックつきのファイルにいれて、莉沙は子供たちのいる部屋に行った。


「洸成、悠成、片付けて。湖都もお兄ちゃんたちと一緒にね」

「ええー、まだ遊びたいよ」

洸成が不満そうに言う。


「洸成、明日も学校よ。悠成と湖都も幼稚園」


しぶしぶ散らばったおもちゃを片付けだす3人を見て、洸成のランドセルと時間割りをさりげなくチェックする。それから、湖都はトイレに行かせ、3人の歯を仕上げ磨きしたり、寝る前も、忙しい。


なのに、冬悟はお風呂から出てくるとビールを出してTVをつける。他の部屋へ聞こえるくらいの遠慮のないボリュームで。


(この子達、あなたの子供なの、わかってる?)


「はい、お父さんにお休みなさい言ってきて」

莉沙の言葉に、めいめいが賑やかにお休みなさいを告げにいく。


「おー、お休み。早く寝ろよ」


3人を連れて、2階にある子供部屋に洸成と悠成を寝かせ、湖都は寝室に連れて入る。

寝る前の絵本を読んで、していると悠成が

「おかーさーん、ぼく眠れない」

「寝ようとしてないからでしょ」


莉沙のベッドにきゅうきゅうで3人で寝ると、次第に寝息が増えていた。


まだ、眠れない。

けれど、起きて冬悟と会いたくなかった。


ベッドに持ってきていたスマホを手にして再びLINEを開いて雪にメッセージを送る。


『返信きた?』

『来ました』


そして次には、冬悟の返信をスクリーンショットで写した写真が送られてきた。


『今週土曜日、接待の後でいい?遅くなる』

『大丈夫待ってるね、ありがとう』


土曜日………その日はさっき話したばかりの悠成の卒園式の日だった。


―――早く帰って………祝おうって気持ちもないのね。

土曜日が卒園式だって、知ってるよね?


悠成、3年で大きくなったしとてもお兄さんらしくなったよ。

知ってるの?

最初は泣きながら行ってたの、知ってる?

運動会で、リレーも走ったんだよ?

発表会で、クラスで一人、大太鼓したんだよ?

聞いただけで、莉沙の撮影したビデオを見もしてない。

『仕事あるから』

そんなことはわかってる。


―――軽く聞いただけでわかった気にならないで。


冬悟へ対しての失望が……どんどん広がっていく。

確かに、仕事で来れないのは仕方ない。次の日は休みだから、その日に祝おうっていう合理的な考えなんだろうと、莉沙は思う。


でもね………


わかってる事と、気持ちは………別。


(冬悟はそうして、私の気持ちを静かに殺していく………)


だから、そう。


G.blackで、橘 志歩に出会って、……志歩が冬悟に、話しかけた時。彼女の目に、冬悟への恋心を見つけた時。


(もしも、この子が冬悟と不倫でもしたら………別れる理由ができる)


そう思ってしまったのだ………。


その瞬間こそがこの遊戯(ゲーム)のスタート、(ゼロ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ