告白の時
◆scene No.24◆
志歩は自分のプライベートな時の多くを、涼真と過ごすことが過ごすことが増えていて……。だから自然と、冬悟へは連絡してをしなくなっていた。
だから………このまま別れを告げるべきかどうかを悩み……。
冬悟には何の連絡もしない。
という結論に達していた。きっと……連絡が無いという事は冬悟もそうであると……。
アドレスも………削除した。
それで、もう会うこともないはずだ。
「アドレス、消しました」
仕事が終わり、一緒に帰路つく志歩は隣を歩く涼真にそう告げた。
「へぇ?意外と……簡単に、別れられちゃうもんなんだね」
涼真の言葉は、軽いようでさっくりと心を突き刺してくる。
「……自分でも……そろそろ終わりにしなくちゃって、思ってましたから」
遠からず、この結論を志歩は出していたと思う。
「そっか………、良かったね。じゃあ、俺も彼氏役終わりにした方がいい?」
涼真のその呟きに志歩は目を見開いて、そのジェンダーレスな涼真の顔を見つめ直した。
「え?なんですか、それ」
「忘れて次に行けるんだろ?それでいいと思う」
次に行けるなら、その言葉に志歩は絶句した。
涼真の顔からは、その感情がよくわからない……でも……
「ちょっと………待って。まさか別れさせるためだけに………付き合ってるのはフリだったの?一緒に……こうして過ごしてるのに」
でも……ほんとうに、それだけ?
二人で過ごした日を思えば……すべてが演技だったなんてとても思えなくて……。
「うぶなフリするなよ。べつに俺の事を好きなわけでもなし、次の奴が見つかるまでは送り迎えはしてやるよ」
次のが見つかるまで……。
その言葉に志歩は……彼の隙を見つけたと、そう思った。嫌いなら……ストーカーに付きまとわれようと、放っておけば良いのだから。
「………男だったら………好きにならせた責任とって、私と付き合ってよ……」
自分でも驚くことに、こんな執着心が志歩にあったのかと。
そんな言葉が自然と口から溢れていた。
「え?」
「確かに……、最初はそんなに、好きだとか思ったりしてなかった。でも私は、好きでもない人と一緒に過ごしたりしないんだから………」
必死の志歩の言葉に、ぷはっ、と涼真は吹き出して笑っている。
「俺ね……、不倫する女は嫌い。だから……近づいて、恋人の真似して壊してやろうと思ったわけ。どう?嫌でしょ?こんなヤツ」
ゆっくりと諭すような、そんな言葉は志歩の胸にずんとくる。でも……涼真は、意地悪だけどそれだけじゃない……。
嫌でしょ?
その言葉を告げるのは……涼真の正直さの表れでもあって……。
(騙されてたのは、ショックだけど……私だって……清廉潔白な訳じゃない)
涼真を嫌いになんて……なれない。
「もう……別れたから……。二度と不倫なんて、しない……したくない。だから。だったら……ホントのフリーの今なら、もう一回はじめから付き合って。過去は変えられない、でも……二度めは絶対にしない、涼真が私を変えたんだから」
「なぁ………、なんか手近な所で、手を打とうとしてない?」
志歩の心を探るような、そんな目を真っ直ぐに見返してゆっくりと言葉を紡ぎ続けた。
「してない。楽しかったから……ずっと……。それに助けてくれたし……、一緒にいる時間が……楽しくて。
……偉そうで冷たそうで、意地悪なんだけど、でもそういうところも好きになってしまったから……。
だから……私をそんな風にした、責任をとってよ」
「俺さ………、一回自分の女にしたら……結構しつこいよ?」
「いいです。私だけを、見てくれるならそれで」
「けっこう好き者だな、志歩。こんな性格悪いのでいい訳?」
「その黒さがいいです」
涼真はまた笑ってる。
「ま、じゃ改めて付き合う?」
「望むところです」
「意外と、食らいつくね」
クスクスと涼真はなおも笑ってる。
志歩には、何を思って莉沙が別れたいと思ったかはわからないけれど……。
けれど、今思うことは……。
志歩だけを見てくれる人がいい、と、そういう事だ。
涼真と過ごすようになって、その事を鮮明に思い知った。涼真がしつこいなら、むしろ望むところである。
そしてその相手である涼真は……掴み所がなくて、振り回されて……夢中にさせる、だから……よそ見なんてしてる隙はないのだから。




