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夫婦の絆


◆scene No. 23◆


 冬悟は、冬悟なりに莉沙との距離を少しずつ近づけるべく、努力しているつもりだった。やはり長年蓄積された、溝は……一朝一夕で解決することではないと辛抱強く言い聞かせながら……。


莉沙と向き合って話す事は、初対面の女性と話す事よりもある意味とても難しかった。


この前の参観に行くと告げた時も、参観に行った時も、アミューズメントパークから帰って来た時も、莉沙は嬉しそうに笑っていたけれど、夫婦間にはどこか緊張が漂う気がしていたし、それも仕方ないと思っていた。


 だから……、冬悟はつきあいが悪いと言われようと、毎晩早く帰宅するようにしているから、その分家族と過ごす時間は増えたはずで……、莉沙と話す機会が増えるはずで……。


なのに、莉沙は。


いつも忙しそうに、家事をこなしていて、ゆっくり冬悟の隣に座ろうとはしない。


「じゃあ……先に寝るね」

莉沙が、そう声をかけてきた時、冬悟は思わず立ち上がって、腕でその進路を塞いだ。


「俺を避けてるのか?」


「違う……」

莉沙がはっと、身を縮ませた。

「じゃあ……一緒に居たくないくらい、嫌い?」

「そう、じゃない」


冬悟の腕を押し退けて体を離そうとする莉沙を冬悟はしっかりとその肩を抱いて、逃がすつもりが無いことを暗に伝えた。


「悪かったと……思ってるんだ。これでも……」


「悪かった……?」

ピクリとわずかに震えた感覚が、腕を通して伝わってきた。

緊張が伝わって、冬悟もまた緊張が強まる。


「いつも……莉沙に任せたままで……それでいいと思ってた。そんなつもりは無かったのに、仕事ばかりで……それで良いと思ってた。莉沙なら上手くやってるから大丈夫だと」

腕の中の莉沙の息は大きくて、そして少し荒い………。


(……さらに言えば……言葉にして伝えられない事も……ある……)


「これからは……ちゃんと家庭の事もする……だから、避けないでくれ」


「とう……ご……」


小さく莉沙が呟いて、ふっと固くなっていた力が抜けた。


「私こそ……ごめんなさい……」


「なんで?」

「……臆病だから……、冬悟から…別れを告げたられるんじゃないかと思って怖くて二人になりたく無くて……」

「なんで………別れるなんて」

「最近……急に優しくするから……。もしかすると最後に思い出作りでもしてるのかと思って」


その答えを聞いて、冬悟は思わず苦い笑いが出てしまった。

これまでの事を改めようとしてしていた行動が、裏目に出ていたとは……!


「……言葉にしなくても……莉沙を大事に思ってる事は伝わると思ってた……」


そう呟くと、莉沙の目からは涙が溢れていて……。

「泣くな……、悪かったから」


「あやまら、ないで……悪いのは……私の方」


そう震える声の莉沙に、ゆっくりと力を込めて抱き締めたその体は、柔らかくてそしてか細くて、頼りなくて……。冬悟の胸をざわつかせた。


ゆっくりと遠慮がちに背に回された手は、細い手の感触を伝えていて何をもって『莉沙は大丈夫』だと思っていたのかと……。


莉沙と、そして子供達を守るのは……自分だと、改めて肝に命じた。


ここから……もう一度……やり直したい。

それは、冬悟の想いであり、莉沙もそして同じ気持ちであると、そう……伝わりあったとそう感じ取った。




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