そして変わりゆく
◆scene No.22◆
志歩の生活は、変化した。
それは涼真と毎日一緒に帰るようになった事。これは、同じ職場であるから、凄く容易な事で勤務が違う日は、志歩が近くで待つか、涼真が近くで待つか、その違いだった。
不気味に感じていて、薄々元カレではないかと思っていたストーカーはやはり、そうで……気のせいでは無かったことに、本当に怖くて……。
涼真が助けに来てくれて本当に良かった!
だからか……。
非常時にあんな風に助けられると女って心を揺さぶられてしまうものだから……だから、すがりついてしまってる。
そんな風に、冷静に分析している志歩と……。
でも、だからこそ……涼真の、差しのべてくれた助けの手を、退ける事は難しくて……。
また、どこからか拓斗が志歩を見ていて、出てくるのかも知れないと思うと、不安が拭い去れなかった。
その不安を知ってか涼真は志歩を一人で帰らせようとはしなかった。
近くのファーストフード店で、涼真の終わりを待っていると
「待たせた」
「お疲れ様」
そんな風に、顔を見ればまるで犬の条件反射みたいに、ホッとして笑顔になって、心が浮き立つ志歩がいて。
不安な帰路は、涼真と歩くことで楽しい帰路へと変化した。
「なぁ、もう飯食った?」
「まだだけど……一緒に食べたいでしょ」
「お、待てる子、志歩」
「待てちゃうの」
「ちょ……ぐしゃぐしゃにしないでってば」
ヨシヨシ、としてくるのは癖なのか、髪を乱されてもなんだか楽しい。
こんな風に……じゃれ合うような、少しだけ甘えさせてくれる付き合い方は……志歩にはなんだか新鮮だった。
「何食べる?」
「ん~、茶碗蒸し?」
「今からそんなの作れないよ」
「うっそ。じゃ、牛丼?これならすぐに出来るでしょ」
マンションへ帰る前にある、小さなスーパーで買い物かごを持ちながら、あれこれとかごに入れて、二人でその荷物を持って帰る。
そして、並んで立った狭いキッチンで
「危なっかしいかな~という予想を覆して、意外といい手つき」
包丁を使う志歩をそう評すると、
「やれば出来るんです」
と返して、この日は牛丼とお味噌汁を作って、遅めの夕食にしたのだった。
深夜にビデオに録ったドラマを二人でパジャマ姿で見ながら、お酒を軽く飲んで……、そして。
「志歩」
その、名前を呼ぶのは……合図。
呼ばれて、すぐそばの涼真を見れば……。
お酒の味のする……キスを交わして……。
そこには……、何も考えずにいられる……ただの二人で。
志歩の部屋、夜からそして朝まで、涼真が一緒にいる。それは凄く……、志歩の心をゆっくりと温めて満たしていった。
ひびの入ったそこを潤すように。
こんな、風だから……。
志歩からは、冬悟に連絡をする事もなくて、そうすると冬悟からも連絡はなくて……。
会わない、メッセージもない、そんな日は積み重なっていっていた。




