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目覚めのコーヒー


◆scene No.18◆


拓斗のストーキングで、震えていた志歩を暖めるかのように、一つのベッドで寝て……そして、その翌早朝を迎えていた。


「おはよう」


涼真が営業で鍛えた、とっておきのスマイルを志歩に向けた。

「なんですか………無茶苦茶営業スマイルですね」

「なんだよ、なかなかプライベートではしてやらないんだけどな、コレ」


「やっぱり?」

クスクスと志歩が笑って、そうして笑みが出たことに内心涼真はホッと安堵の息を吐いた。


ベッドからキッチンに立ちコーヒーのフィルターをセットしてる志歩に、涼真はぼそっと呟いた。

「お前さ……男の趣味悪いな……」


「………ですよね~、ストーカーに、不倫ですもんね」

無理矢理笑いを浮かべてるのが、ありありとわかってしまう。


その志歩の背中から涼真よりも頭一つくらい背の低い志歩を腕に閉じ込めるように包み込んで、顎を頭に乗せた。


コーヒーの香りか、お湯が落ちると共に広がり部屋に満ちる。


「なぁ……」

耳のすぐそばで言ったからか、志歩の体がひくんと反応する。


「しばらく、ここに来てやろうか?」

「しばらく?」


「あいつ……まだ、諦めたかわかんねーし。お前だって……怖いんだろ?」

それに志歩が一緒に過ごす相手に、涼真でなく、もう一人の男(・・・・・・)を望んだとしても、妻帯者であるからきっとそれは叶わないはずで。

諦めたかわからない、その言葉に志歩の体が強ばったのが分かる。


「涼真……」


志歩の小さな呟きは……そこで止まっている。


涼真はやや強引に、話を纏める事にして、言葉を続けた。

「決まりな……しばらく寝泊まりするから、志歩はここで、不倫相手とは当分会えないから」


「うん………ありがとう……少し。ホッとする」

志歩はその涼真の体重を軽く支えながら、コーヒーを二人分用意した。わざと少し重さを感じるように、体重をかけているからだ。


淹れたコーヒーは、砂糖とミルク多目のは志歩ので、ミルクのみのが涼真のだった。


「ほんとに………私ってどうしようもない、女だよね。元カレはストーカーだし……ほんとに……ストーカーしてるなんて……」


きゅっと唇を噛み締めたその顔に、やや強引な体勢で涼真はキスをして、力の入っていた唇をペロリと舐めた。


「血、でる」

「そんなに……噛んでないよ」

「そんな顔になったら、仕事に障るぞ」


「やだなぁ、もう」


ふふふっと笑いだしたその声に、涼真も軽く笑って、コーヒーの入ったカップをもってテーブルに置いた。


一口飲んだそれは、涼真には甘すぎで

「うへ、コレまちがえた」


「甘かった?」

「あまくて吐きそ」


「今日は特別、甘くしちゃったから」

へへっと志歩が笑ってカップを取り替えた。


「おう、何でも好きなの飲め」

「飲みますよぉ~」


空元気だとわかってるが、それだけで今はいい。


顔色のない、あの顔を見ていれば、そんな無理矢理の笑顔でさえ、良く見える。


わしゃわしゃと、そのまだ寝起きのままの髪をさらに乱せば、

志歩は笑いながら、それをまた手櫛で直す。


そんな風にじゃれあいながら、床にコロンと寝転がった志歩を上から見る体制になっていた。


「なぁ……後で風呂借りていい?」


「いいですよ」


「じゃ……いいのかよ…」

意地悪く、笑みを口に乗せた涼真に

「ま、待って……」

焦ったような志歩の表情が浮かぶ。


空元気以外の、表情だった。


涼真の手は、志歩のその手を上から縫い止めて、ささやかな抗議をしてるのを見下ろした。


涼真は思わずスイッチが入りそうだった本能を紛らわせて

「………今日は、おあずけされてやるか……。着替えに帰んないとな……」


それに、車だって置きに帰らないといけない。


「へ、変な冗談は……」


「半分本気だったけど………。これじゃあんまりにもムードが無いよな」

よいしょ、と押し倒す形になっていた志歩を起こして、


「今日どっかで俺のパジャマとか買っといて」

「え?」

「使い回しは、ダメ」


「な、無いですよ」

「………そか、泊まったりは……さすがに無いのか」

「……相変わらず、いぢわるですね」


「歯ブラシは硬め、シェーバーは持ってくる」

「了解です」


「志歩、一緒に帰るからな」

帰る時間はずれたとしても、待ってろよという事だ。


「了解です」


そこでようやく、無理のない笑顔がこぼれ出た。


それに涼真も、笑いを返して車の鍵を持って部屋を後にしたのだった。マンションの周りに、あいつがいないか気にしながら……。


涼真の視界に、拓斗の姿は見つからずもう一度、志歩の部屋のあるあたりのマンション窓を見上げた。

朝は……夜よりも、不審な影も存在が薄くなる気がした。だけど……また夜がくれば……涼真にさえその影を落とす気がした。


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