表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/29

冬悟の決意


◆scene No.20◆


 土曜日、冬悟は仕事着であるスーツを着て、湖都の手を引いて莉沙と並んで歩いていた。


「あ、こんにちは!」


そう声をかけてきたのは、斜め向かいに住んでいる莉沙と仲良くしている永峯 円香と夫の秀和だった。

彼女たちもまた、洸成と悠成と同じ年の和希と陽希という子供たちが居るので、行き先は同じく参観だと思えた。


「こんにちは」

冬悟が会釈すると、

「こっちゃん、今日はお父さんも一緒で、嬉しいね」

「うん!」


はりきって返事をする湖都が、嬉しそうで冬悟にも愛らしく感じた。


「莉沙ちゃん、またお茶でもしよ」

「ありがと円香ちゃん」

自然と莉沙と円香が並んで話し出したので、冬悟は秀和と話す雰囲気になってしまった。


「これから仕事ですか?」

秀和の方からそう言葉をかけてくれて、冬悟は少しホッとしながら返事を返した。

「そうです。永峯さんも?」

「ですね」

穏やかな子煩悩な父親の秀和は、照れ臭そうに微笑んだ。


「こういうのに、行かないと滅茶苦茶怖いんですうちの」

秀和はそう言いながらも、にこやかに微笑んでいる。


「へぇ、そうなんですか」

「誰の子供だと思ってんの!って」


ははっと冬悟は笑って返した。


(………そうか……みんな両立させてるものなのか……)

学校につけば、土曜日の為か確かに父親の姿は多く、熱心に授業を見ていた。


悠成はまだ1年生だから、はりきって授業を受けているのがわかったし、洸成は難しくなってきた漢字もたくさん覚えて、その字をたくさん使って作文を書いていた。


「なぁ………莉沙」

「なに?」


「いや………でかくなったなと、思ってさ」

「そうね」


参観中でも湖都はやはりまだじっとしていられず、ゆっくりとみさせてはくれない。


「冬悟はゆっくり見てて、私はまた見られるから」


湖都を教室から連れ出して、莉沙は廊下へと出ていった。


(そ、か。当たり前だけど………一人で三人見るってやっぱり大変なんだな………)


一時間目と二時間目を見て、冬悟は仕事に行くことにした。


「莉沙、じゃあ……そろそろ行くから」

「うん、わかった。行ってらっしゃい」


「あ~、それから明日。出掛けようか……どこがいいか、考えておいて」

「え?」


「じゃ、また帰ってから」


冬悟はらしくない自分に、やや照れなからそう言った。


(……そんだけ……やってなかったってことか……)


「え~お父さん、行っちゃうの?」

「仕事に行くから、お母さんの言うこと、湖都はちゃんと聞いて」

「はぁい」


手を振り合って冬悟は小学校を後にした。



☆☆☆



「で………参観に行ってきたと」


謙豪にそう言われて、冬悟は頷いた。

「で、どうだった?父性に目覚めたか?」


「父性って………」


「男ってさ………産んでないから、ちゃんと意識して行動しないと父親になれないんだってさ」

「それ、誰の言葉だよ」

「俺」


「なんだ………」

「だから、会わせてもらえもしない俺が言うから真実味があるだろ?三人もいるんだから、父親の仕事も頑張れ。男の子なんて特に、父親の存在は大きいはずだからな」

謙豪は腕を組んで、頷いている。


「肝に銘じておく」


「でも……意外だったな」

「何が?」


「なんかこう、さ。プライドが高いから、そんな風に媚びるじゃないけど、家族サービスなんてするように思えなかった」


「……」


「頑張れ、しんどいのは怠ってきた罰だ」


はぁ、と、その言葉に冬悟はため息が出た。


時を戻せれば良いのに。


10年も過ごしてきたはずの夫としての冬悟は一体何をしていたのか……。気づけば、完璧にしてきたつもりでその実、完璧ではあり得なくて、だから……怠ってきた、と言われても返す言葉が無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ