青空は眩しい
◆scene No.16◆
涼真とのデートは、二人が休みの日に決行となり良いのか悪いのか、快晴だった。
初夏の日差しは、爽やかで普通ならワクワクするデート日和だ。
普通なら……。
志歩には、涼真の意図がよく分からない。
これまで、涼真からは男女のそういうのを何となくでも感じたことが無かったからだ。それは涼真がジェンダーレスな雰囲気が強いからと、お互いに彼氏彼女がいたからかも知れないのだが……。
「どこに行くの?」
事前に動きやすい格好でと言われていたから、志歩はパンツスタイルにスニーカーだ。それは、涼真も同じような格好だった。
同じショップで購入してるものだから、似かよったファッションに統一されていた。
つまりは、それなりに動く場所なのだと予想はつくけれど
「志歩に必要な所、かな?」
マンションに車で迎えに来た涼真は、それだけを言い行き先も告げずに走り出した。
平日なだけあり高速は程々に空いていて、志歩は窓の外を眺めた。
涼真の言うように、冬悟とはこんな風に出掛ける事なんて想像もしなかったし、そもそも夜にしか会ったことが無かった。
だから……涼真と今日は楽しんでも良いのかもしれない。
それに……志歩から送った写真も、それからメッセージのやり取りも、莉沙の所には随分とたまった筈で……それはもう、この関係を……終わりにしても良いかも知れないと思わせた。
冬悟の心は……志歩に全て注がれている訳じゃないのだから。
☆★☆★☆★☆★
駐車場を降りて、掲げられている看板は“ふれあいミルクファーム”。
「牧場………?」
「そう、都会で心が爛れた志歩にはピッタリだろ」
「爛れたって」
「……忘れさせてやるから、今日は楽しめよ」
涼真は笑みを浮かべている。
「偉そう」
「おう、俺は偉い。何せ、副店長で志歩より上司なんだから」
こんな時に、それを持ち出すなんて、と思いつつも思わず笑えた。
志歩と涼真は、その動物たちと触れ合う事の出来る牧場に入り、羊に餌をやったりしながら、散策をした。
「ねぇ………なんで涼真は写真ばっかり撮って、やんないの?」
「今日は、そういう日なんだ」
そうやって、涼真は志歩が時々はこわごわと餌をあげるのを笑いながら、可笑しな写真を撮ったり、
「次はあっち」
と、指示を出したり、
二人で並んで馬にも乗ったり………。
「たかーい!こわーい」
「志歩の声に、馬の方がひびる」
「うそ!」
「ほら、その顔を見てみ?『この人間うるさいな』って思ってる」
「うそ!馬は優しいから、そんな顔しない。ほら、円らな可愛い目をしてるから」
それから………。
「ねぇ、何で私だけ?」
志歩が体験してるのは、牛の乳しぼりだ。涼真はそれをスマホで撮影しながら、またしても、たどたどしい手つきに笑ってる。
「俺?……牛はでかくてこえーよ」
「なにそれ、ヘタレ」
「都会育ちだからな」
そんな風に他愛ないやり取りは、涼真の言うようにとても楽しかった、とても。
「じゃ、昼はBBQだな」
「やった!」
「やったって、悪趣味だな、さっきまで牛とふれあってたくせにさ」
「ちょっと!自分だって」
「じょーだんだって」
きゅっと頬を摘ままれて、志歩は涼真を軽くにらんだ。
「志歩の方がうまそう」
軽くキスをされて、志歩はさっきから翻弄されてばかりだ。
外でひとしきり遊んだ後のBBQは、美味しくて、涼真は軽いトークを繰り広げるけど、楽しくて。
志歩は心から楽しんだ。
それからBBQの後は、ゆっくりと芝生の上で寛いで、濃厚なミルクのソフトクリームも食べて……。
青空の下のその味は甘くて美味しくて、訳もなく幸せで……。
まばらに見かける、小さな子連れの家族がいて……。
ふと、涼真を見ると『家庭持ちの男なんて止めとけ』と、また言われている気がした。
冬悟と莉沙の子供達。
(止めておく、べきだったのかな、最初から………)
莉沙も、もしかすると……本気じゃなかったかも知れないのに。
振りだしには戻れない。
何もなかったことには、ならない。
でも志歩は……、終わらせる事が出来る。
莉沙はどうするか……冬悟はどうするかま……それはもう、志歩は考えたない。
確かに………志歩は冬悟が好きだった。でも……それは淡い恋心のまま、過去にするべきだった。
でも………ほんの一瞬……実った失ったはずの恋は、甘美で幸せだった。
志歩の心は………決まった。
もう、逢わない………終わりにしよう。
青空の下で、誓うにはそれはいかにも相応しく思えた。
だから………帰りの車で、涼真から恋人のする本気のキスをされて……志歩はそれを、同じだけの温度で返していた。




