結末の予感
◆scene No.14◆
昨夜は……驚いてしまった。
まさか帰ってくるなんて、雪からは今日会うとメッセージが最後だったと言うのに。
まさか……それに……見られてしまうなんて。
泣いていたと、気づかれてしまった………。
子供たちが寝てしまうと、つい……また物思いに沈みこんでしまっていたから。
朝の支度を終えて、洸成と悠成を起こして、それから………湖都を起こしに行くと
「おはよう」
目を開けた冬悟が、湖都を揺すって起こしていた。
「湖都、朝だぞ」
「おはよう………」
「連れてってやるから」
「ありがとう」
わずかな気遣いに……、昨夜から感じる少しの冬悟の優しさが。
もしかするとついに、決意をしたのかとそんな気がしてしまう。
『離婚』を。
莉沙はそれを望んでいたはず。
なのに、どうしてこんなにも胸が痛むのか。
莉沙と子供達と別れ、彼女と新たな道を選ぶ事を決めているのかと………。
莉沙と話す糸口を探しているかのようで、冬悟の顔が見られない。
冬悟と湖都を残して莉沙は寝室を後にして、リビングに戻るとまだパンツ一枚で、お尻を振りあってる洸成と悠成がいる。
「こら、洸成、悠成!遊んでたら遅刻しちゃうから」
莉沙が怒っても、二人はどこ吹く風で制服を投げ合ってる。
「こら!お母さんを困らせるな」
湖都を抱っこした冬悟が言うと、二人は
「え、お父さん?」
「遅刻するって言われてるだろ」
冬悟が父親だからか……それとも珍しい事だからか、二人はてきぱきと着替えを競い合うかのように終えて、ダイニングテーブルについて、用意していた朝食を食べ出す。
莉沙がいくら言っても聞かないのに………。
冬悟の腕から湖都を受けとると、次は湖都の着替えをし始める。
(……やっぱり……変。これまで、朝から湖都を抱っこしたり二人に注意したことなんて無かったのに)
「お父さん、珍しくね?」
「洸成、言葉はきちんと使え。珍しくない?だろ」
「珍しくない?」
言い直した洸成に、
「何が?」
「んー、なんか朝からっていうか、ひさしぶりに喋った気がする」
「そうか?だったら、それはお前たちがお父さんの言うことを聞いてないって事だな」
「ちがう!お父さんはいつも遅いから、あんまり家にいないんだ」
悠成が冬悟に言うと、洸成が真剣に言った。
「悠成、お父さんは、家族の為に一生懸命働いてるんだぞ。そんな風に言ったらダメだ」
それは莉沙が、いつも子供達に言い聞かせていた言葉だった。
「でも、居ないのはホントの事だろ~いい子ぶりっこ洸成~」
「悠成!お父さんがいないときは、俺たちがお父さんの代わりなんだからな」
「やれてないじゃないかっ」
「うるせー悠成」
「止めろって、朝から。早く食べないとお腹すいたまま、行かないといけなくなるぞ」
着替えをさせても、まだまだくてん、と眠ろうとする湖都をソファに置いて、莉沙はお弁当に蓋をして冬悟の鞄に入れ、そして湖都の鞄にも入れれば支度は完璧な筈だった。
「莉沙」
呼ばれて、ビクンとしてしまう。
何を言われるのかと、息が詰まる。
「今日は……なるべく早く帰るから」
「え?」
(早く帰って………どうするつもりなのか……)
「わかった……」
他ならぬ莉沙のはじめた、その遊戯………
(違う………遊戯なんかじゃない。そんな軽い言葉じゃ無くて……これは現実………)
覚悟を、しなくてはならない。
元気よくランドセルを背負って行く、洸成と悠成を見送ると続いて冬悟も靴を履いて出掛ようとしていた。
「何か……食べたいものはある?」
「何でもいいよ」
「そう………」
置かれていたずっしりと重い鞄を渡しながら、
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
きっちりとしたビジネスマンスタイルの冬悟を見送れば、力が抜けてへたり込みそうになる。
こんな他愛ないやり取りも………莉沙がはじめたその、結末を迎えれば無くなるのだ。
今更ながら、しでかした事の大きさに戦慄が走る。




