涼真が見たもの
◆scene No.9◆
仕事を終えた涼真は仕事場の近くで、一人の気軽さで、軽く適当な食事をしてそして、店を出た……その時。
それを……目撃してしまったのは、本当にたまたまだったのだと思う。
会計を終えて、一歩足を踏み出たその視線の先に、
桐生 冬悟が歩いていた。
それだけじゃない。
その横には………橘 志歩が隣を歩いていたのだ。
「じょうだん………だろ………」
どくん!
と心臓が跳ねた。
目まぐるしいくらいの大勢の人が行き交い歩いているこの大きな街で、待ち合わせでもしない限り、知り合いに会うことなんて難しい筈なのに、どうしてそれを見てしまったのか……。
(………浮気は……ガチかよ……)
どうしてよりにもよって……冬悟の相手が、志歩なのか。
志歩は一生懸命働く子で、涼真は好感を持っていた。
それだけに……なんだか赦せない感情がふつふつと沸き上がり………、ほんの少しだけ、と後を追うように歩いてしまっていた。
(後をつけて………どうするっていうんだ)
涼真を二股の末に振った元カノへの行き場のない怒りと、それから仄かな莉沙への憧れと、そして志歩への好感と。
全てがぐちゃぐちゃにこんがらがる。
「………っだよ……」
冬悟へ対しての怒りなのか、志歩への怒りなのか何なのか………。
よく分からないどす黒い感情が、涼真を絡めとろうとしていた。
何を話してるのか……、時々笑い合いながら歩く冬悟とそれから志歩。二人は駅の雑踏へ消えて行き、涼真は一人その場に立ち止まり、少ししてまた、歩き出した。
二人が雑踏に消えた先は、涼真の帰宅のルートと重なっていたから後をつける訳じゃないが、そうなってしまうのは仕方がない。
人の事情に、鼻を突っ込むのは得策じゃない。
下手をすれば、自分も巻き込まれて余計なトラブルになるかもしれない。
冬悟が……自分の好ましく思う女性二人を弄んでいるのが赦せないのか、それとも、身近な志歩が不倫をしてるのが赦せないのか、姉の友人である莉沙を、夫の浮気という苦しみから助けたいのか……。
涼真は元々……チャラいようで、実は正義感に溢れていて……そんな風に自分でも思うが、やっかいな性格で……。
そのお陰で、学生時代はよくトラブルに巻き込まれたりした。
余計な所で熱くなる……損な所があると自覚していた。
(……そうだ……)
なのにふと、あることが思い浮かぶ。
自分でも思い付いたその事に性格に難ありだと思うが、その思い付いた事が出来るその位置に、涼真はいた。
(……暇人かよ)
ふっと、そう思い笑えてくる。
実際に仕事以外は、暇であるのだが。
持って産まれた性分なのか……。
(暇つぶしだ……単なる……)
涼真はそう考えて、遊戯でもしようかというように、その暇つぶしをする事に、した。
それは、上手くいくかどうかは……予測もつかない。
「……まぁ……なるようにしか、ならない……」
考えたことが、実現する可能性は……大抵の場合とても低いのだから。すべては……運命の、悪戯。