現実世界で存在するもの
昨日のことを、まだ現実として受け入れることができなかった。
新波さんが言ったことを、うそだと否定するわけではないが、アニメや漫画みたいに、超能力や魔法がこの世に存在すると思ったことは一度もないし、ありえないと思って生きてきた。
しかし、そんな僕の前に現れた彼女の口から出た言葉は、今まで僕が生きてきた世界の常識を覆す言葉だった。
新波さんは何度も自殺を繰り返している、絶対に"死なない"少女。
信じたいと思っても、頭のどこかでこの事実を否定している。
しかし、僕の識別コードも他の人からしたら、ありえないものだ。
そう考えると、新波さんの死なない体も、普通なのだろうか。
……頭がおかしくなりそうだ。
「なんなんだ……この世界は……」
「何、一人でブツブツ言ってるの?」
急に後ろから話しかけられて、大声を出してしまった。
「え? うわ!」
視線が僕に集まる。
「あははっ何でびっくりしてるの?」
ちょうど新波さんのことを考えていたから……なんて言えるはずがない。
「誰だってびっくりするよ、急に話しかけられたら」
少し強めに言ってしまった。
「ごめんね……悪気はなかったの……」
悲しそうな顔をする彼女。
「あ……ごめんね、ひどいこと言って、そんなつもりじゃなかったんだ……本当にごめん」
僕は何度も新波さんに謝った。
「ふふっ、そんなに謝らなくていいよ」
「許してくれるの?」
「うん!」
「ありがとう」
よかった。
いつも通りの可愛い笑顔の新波さんに戻った。
「ところで何か用?」
話すことのない二人が、急に話すようになり、周りも驚いている。
二人の秘密を共有してからは、学校でも普通に話すようになった。
しかし、目立つようにもなってしまい、なれない視線に戸惑ってしまう。
「あ、そうだった! あのさ、今日の放課後にまたあの場所に来てほしいの」
「昨日の原っぱ?」
「うん、話したいことがあるの」
新波さんの言う話したいこととは、きっと彼女の体質のことだろう。
「わかった」
「じゃあ、待ってるね」
僕に背中を向けて歩く新波さんを見ていたら、急に振り返って僕の方に近づいてきた。
あれ? この光景どこかで……。
「ねえ、赤坂くん」
新波さんの長い髪が、甘い匂いを広げながら、僕の視界を奪った。
「なに?」
「なんか……変わったね」
「え?」
「あ、気にしないで! 急に変なこと言ってごめんね」
笑顔でじゃあねと言ってまた去っていく彼女。
「なんだったんだろう……」
ポツリと出た僕の言葉は、誰にも届かずに教室から消えていった。