表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

赤いダリアと君

 僕は先程、クラスの子に渡されたダリアを見ながら、赤い色のついたダリアを数分の間、想像した。


 頭の中では、一際目立っている赤いダリアでも、僕の目に映るとただの暗い絵になってしまう。


 ため息をつきながら、花を見ていると早く水がほしいと、催促されているような気がして、急いで花瓶に水を入れる。

 花瓶の中にゆっくりと、花を入れるとお礼でも言われているような気がして、僕も嬉しくなる。


 このクラスで孤立しているせいか、僕の頭がついにおかしくなったのかは定かではないが、どちらにしろ、花と会話している僕は、クラスから見れば相当ヤバイやつだろう。


 周りの目が急に気になり、窓際の席に戻ろうとすると、またクラスの子が話しかけてきた。


「ねえ、その花なんて名前?」


 振り向くと、クラスで人気者の君がいた。


 まさか、話しかけられるとは思っていなかった。

 寧ろ話すことは、一生ないと思っていた彼女に急に話しかけられて、僕の頭は真っ白になった。

 しかし、問いかけられた以上は、答えなければならない。

 一生懸命、言葉を振り絞って答える。


「え……あ、この花は……ダリア……です」


 緊張のあまり出てきた言葉は、途切れ途切れになってしまった。

 恥ずかしくって下を向いた僕には、お構いなしに彼女は陽気に話しかけてくる。


「アハハ、なんで敬語なの?」


 明るい笑い声と、眩しい笑顔の彼女を見て鼓動が早くなる。


「え……? いや、話したことないから……?」


「あー、そうだね、ありがと! 花の名前教えてくれて」


「うん」


 少し話しただけなのに、僕は心臓が飛び出るんじゃないかと思った。


 しばらく、彼女の後ろ姿を見ていると少し違和感を感じた。

 違和感の正体を探ろうとしたら、彼女が急に振り返って、また僕の方に近づいてきた。


「ねえ、赤坂くん」


 さっきとは違って、真剣な表情で僕を見つめてくる彼女。

 長い髪が振りむくと同時に、甘い匂いを広げながら、僕の視界を奪った。


「! ……なに?」


「花、詳しい?」


「え……? まあ、少しなら」


 そう答えると、彼女はおもちゃを貰った子供のように、目を輝かせた。


「じゃあさ、一番毒の強い花って知ってる?」


「え……? 毒の強い花?」


 僕は心底、驚いた。

 女の子なら世界で一番綺麗な花は? とか、聞いてくるかと思っていたからだ。

 実際にこの質問をされたこともある。

 それなのに、彼女の口から出てきた言葉は"一番毒の強い花"。


「知っているけど……」


「すごく毒の強い花だからね、手に入れるのが難しいやつでもいいから、とにかく毒の強い花を教えて」


 彼女は毒の強い花を、何度も強調してきた。

 もし、知っている花を教えて、彼女がその花を自殺か殺害に使ったらと思うと、教える気にはなれなかった。


「……何に使うの?」


「君には関係ないよ」


 即答だった。

 確かに関係はないが、これで何かあったらと思うと、心配で寝られなくなる。


 もう少し問いただそうかとしたら、いつもの明るく可愛い彼女からは、想像できないような恐ろしい顔で、こっちを見ていた。

 怖くなって口籠っていると、いつもの表情をした彼女が、少し焦りながら言った。


「あー、ごめんね、別に自殺や殺害に使うつもりはないよ」


 心を見透かされた……。

 いや、誰だって同じことを思うだろう。

 彼女もそれを察しただけだ。

 それでも迷っている僕に、彼女は意味のわからない言葉を言った。


「きっと、その花を使ったって結果は同じ……」


 今度は暗い顔をする彼女。


「……え?」


 聞き返すと彼女は明るい顔に戻って、今度は大きな声で言った。


「なんでもないよ、ごめんね、せっかくの休み時間を奪っちゃって、じゃあね」


 また僕に背中を向けて歩き出そうとする彼女を、引き止めて言った。


「僕が知っている花で一番、毒が強いのはトリカブトとかキョウチクトウ……くらいかな」


 彼女は一瞬、驚いたがすぐに笑顔になって"ありがとう"と言って席に戻った。


 彼女が席につくと、周りの子が近づいてきた。


「あいつと仲いいの?」


「なに話していたの?」


 など質問攻めにされていた。


 僕はそれを横目で見ながら席に戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ