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心の絵の具

 僕は手帳を片手に、待ち合わせの場所に全力で走った。


 あかりに伝えたいこの言葉と気持ちが、僕の足を早くする。

 一言でも多く、この気持ちを言葉にして、君に伝えられるように僕は走った。


 色で作られたこの世界は、識別コードが多く、僕の行く手を阻む。


 いきなり飛び出してきた識別コードを避ければ、僕の体は地面にぶつかる。


 地面から顔を上げれば、すべてを飲み込んでしまいそうな闇のように暗い空、心配そうに僕を見る真っ黒の人、この世界は残酷だ。


 手を握りしめ、暗い道をまた走り出す。


「ハァ……ハァ……ゴホッ」


 心臓がうるさく騒いで、僕の体中に大きな音を立てる。


 口からは、少し血の味がして、咳と荒い呼吸だけが僕の耳に響く。

 苦しくて目に涙を浮かべる僕に、暖かく優しい声が聞こえた。


「友也? そんなに慌ててどうしたの? まだ待ち合わせの時間じゃないよ?」


 心配そうに僕の背中を擦る彼女に、心の中で何度もお礼を言いながら、息を整えた。


「ありがとう……もう大丈夫だよ」


 胸に手を当てて、落ち着いたことを彼女に知らせる。

 あかりも胸に手を当てて、よかったと笑い返してくれた。

 

 もう一度、お礼を言ってたから僕は、あかりの目を見た。


「あかりに伝えたいことがあるんだ」


「ん? なに?」


少し二人の間に緊張が走った。


「僕はね……思うんだ」


 一呼吸おいてから、ゆっくりと僕は口を開いた。


「人の心にはパレットがあって、生まれたときは真っ白い絵の具が入っている。でも染まりやすい白は、少しでも黒や青を混ぜるだけで、簡単に汚い色に染まってしまうんだ」


「黒や青?」


 いきなり意味不明な話を始める僕に、彼女はびっくりしていたが、ちゃんと僕の目を見て聞いてくれた。


「うん、感情の絵の具、人は成長するたびに人から感情を受け取っているんだよ、人からもらう感情もあれば、自分の目で見て受け取る感情もある」


「へ~、何か難しいね、でも汚い色は嫌だな……どうすれば染まらないの?」


 彼女らしい質問だなと思いながら、僕は丁寧に答えた。


「それは無理だよ、ずっと真っ白の絵の具のままで生きることなんて、できないからね」

 

 あかりは少し悲しそうな顔をした。


「そうだよね……色を混ぜれば汚くなるよね、ずっと白いままでいられたらいいのにね」


「僕は嫌だな」


 彼女の瞳が大きく開いた。


「え? なんで嫌なの?」


「だって、染まらないと相手のことを理解できないからね、この絵の具は相手のことを知るために受け取るんだよ、少しでも同じ色に近づかないと人の心はわからない」


「……そっか」


 やっぱり難しいねと笑いながら、あかりは長い髪を耳にかけた。


「真っ白には戻せないけど、誰かが色を少し受け取って、綺麗な色を分けてあげるしかないんだ」


「一つ一つの色はとても綺麗だけど、混ぜてからもっと綺麗な色に出会うかもしれない、予想もしなかった色の組み合わせが、綺麗な色になることもあると思うんだ」


「だから僕は……色が好きだよ」


 綺麗な色も、汚い色も見えないくせにと笑う彼女は、とても綺麗で残酷だった


「友也……この世から去ってしまう人はもう一度、綺麗な色に戻りたくてこの世から、消えてしまうのかな」


 彼女は小さな声で、優しく僕に問いかけた。


「……そうかもしれないね」


「消えたくても、消えることのできない私が、真っ黒になったらどうすればいいのかな……」


 昔に聞いたことのある、今にも消えてしまいそうな声。

 僕は力強く答えた。


「そしたら半分……いや、もっと君の汚い色をもらってあげる! そして僕が綺麗な色を君のパレットにあげるよ!」


「ありがとう」


 また君の言葉が、私に生きる勇気をくれたねと笑う彼女。


 生きる勇気をくれてるのは君だよと、静かな世界で力強く答えた






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