表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

この出会いは幸か不幸か

 あかりの自殺を手伝うと言ってしまった日から、僕は何度も断ろうとしたが、結局断ることができないまま、数日が経った。


「はあ……どうやって断ろうかな」


 これから学校が始まる憂鬱な頭で、そんなことを考えながら、いつも通り学校へ行く道を歩いていた。


「なにか理由をつけて断れば、あかりもわかってくれるはず! いや、その理由が思いつかない……」


 ため息をつきながら歩いていると、急に誰かに引っ張られた。


「いっ!?」


 大きなクラクションの音と、尻餅をついて痛む体。

 何が起きたのかわからなくて、呆然としていたら、後ろから怒鳴り声が聞こえた。


「死にてえのか!? 馬鹿! 車に引かれるところだったんだぞ!?」 


 そう言われて、目の前の信号を見ると、上のほうが少し濃い黒色をしていた。

 #F0000という識別コードを見て、赤色だと判断した僕はすぐに謝った。


「あ……ご、ごめんなさい!」


「はあ……気をつけろよ」


「は、はいっ……本当にすいません、ありがとうございました」


「おう! 前見て歩けよ!」


 そう言って笑った彼に、もう一度お礼を言って、謝罪をした。

 頭を上げると、僕と同じ制服を着た男がいた。


 僕と違って明るく、満面の笑みで頭を掻いて笑う彼。

 髪は短く、普通の人より濃い肌の色の識別コードが出ている彼は、きっと運動部なのだろう。


 周りの目が気になり、すぐにこの場から去りたいと思った僕は、もう一度お礼を言ってから、歩き出した。


 しかし、前に進めない。

 いや、正確には彼が、僕の腕を引っ張っているから、進むことができない。


 先程、強く握られた腕は、優しく触れていても痛い。


「あの……なんですか?」


「…………」


 人を呼び止めておいて、何も話さない。


 命の恩人だから、あまり強いことは言いたくないが、このままでは遅刻してしまう。


「あの、僕、学校が……」


 消えてしまいそうな声で、何とか言葉を発する。 


 明るかった彼が、急に真剣な顔になった。


「そうか……お前があいつを笑顔にしてくれたんだな」


 また、眩しいくらいの笑顔で笑う彼。


「え……? あいつって誰ですか?」


 僕の質問には答えずに話し続ける


「頼んだぞ! あいつ……はるかのこと」


「あ、あの……たぶん、誰かと勘違いしています」


「してねーよ! いつか、お前がその力の使い方を知ったときに、すべてがわかるさ」


「えっ!? なんでそのことを……」


「遅刻するぞ、じゃあな! また会おうぜ」


 僕の質問には一切答えずに、去っていく彼。


 呆然と立ち尽くす僕の耳に、鳴り響く学校のチャイム。


「やばっ!」


 体力のない僕が走ったところで、間に合うはずがなかった。


 授業の途中で息を切らしながら、先生に二度目の謝罪をして席についた。


 休み時間に、面白いおもちゃを見つけたような、子供の顔をしてからかってくる、あかり。


 僕はあかりと小さな喧嘩をしながら、僕の最悪で不思議な一日が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ