この出会いは幸か不幸か
あかりの自殺を手伝うと言ってしまった日から、僕は何度も断ろうとしたが、結局断ることができないまま、数日が経った。
「はあ……どうやって断ろうかな」
これから学校が始まる憂鬱な頭で、そんなことを考えながら、いつも通り学校へ行く道を歩いていた。
「なにか理由をつけて断れば、あかりもわかってくれるはず! いや、その理由が思いつかない……」
ため息をつきながら歩いていると、急に誰かに引っ張られた。
「いっ!?」
大きなクラクションの音と、尻餅をついて痛む体。
何が起きたのかわからなくて、呆然としていたら、後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「死にてえのか!? 馬鹿! 車に引かれるところだったんだぞ!?」
そう言われて、目の前の信号を見ると、上のほうが少し濃い黒色をしていた。
#F0000という識別コードを見て、赤色だと判断した僕はすぐに謝った。
「あ……ご、ごめんなさい!」
「はあ……気をつけろよ」
「は、はいっ……本当にすいません、ありがとうございました」
「おう! 前見て歩けよ!」
そう言って笑った彼に、もう一度お礼を言って、謝罪をした。
頭を上げると、僕と同じ制服を着た男がいた。
僕と違って明るく、満面の笑みで頭を掻いて笑う彼。
髪は短く、普通の人より濃い肌の色の識別コードが出ている彼は、きっと運動部なのだろう。
周りの目が気になり、すぐにこの場から去りたいと思った僕は、もう一度お礼を言ってから、歩き出した。
しかし、前に進めない。
いや、正確には彼が、僕の腕を引っ張っているから、進むことができない。
先程、強く握られた腕は、優しく触れていても痛い。
「あの……なんですか?」
「…………」
人を呼び止めておいて、何も話さない。
命の恩人だから、あまり強いことは言いたくないが、このままでは遅刻してしまう。
「あの、僕、学校が……」
消えてしまいそうな声で、何とか言葉を発する。
明るかった彼が、急に真剣な顔になった。
「そうか……お前があいつを笑顔にしてくれたんだな」
また、眩しいくらいの笑顔で笑う彼。
「え……? あいつって誰ですか?」
僕の質問には答えずに話し続ける
「頼んだぞ! あいつ……はるかのこと」
「あ、あの……たぶん、誰かと勘違いしています」
「してねーよ! いつか、お前がその力の使い方を知ったときに、すべてがわかるさ」
「えっ!? なんでそのことを……」
「遅刻するぞ、じゃあな! また会おうぜ」
僕の質問には一切答えずに、去っていく彼。
呆然と立ち尽くす僕の耳に、鳴り響く学校のチャイム。
「やばっ!」
体力のない僕が走ったところで、間に合うはずがなかった。
授業の途中で息を切らしながら、先生に二度目の謝罪をして席についた。
休み時間に、面白いおもちゃを見つけたような、子供の顔をしてからかってくる、あかり。
僕はあかりと小さな喧嘩をしながら、僕の最悪で不思議な一日が始まった。




