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ぜったいむてきそうじき

作者: 桝田道也

 そのそうじきは、かたときも休まず、何年もゴミをすいこみつづけていました。


 ちいさなゴミも。大きなゴミも。


 カサカサのゴミも。びちょびちょのゴミも。


 切ったつめも。かみのけも。しぼうも。あまったかわも。


 きゅいーん、きゅいーんと、きゅういんします。


 会社のゴミも。社会のゴミも。


 燃えないゴミも。萌えないゴミも。


 黒いれきしも。白いとうあんも。


 ピーマンもタマネギもニンジンも。おかひじきも。

 

 かくねんりょうはいきぶつも。おせんされたがれきも。


 しとふめいきんも。ひしょがかってにやったことも。


 しんこくりつきょうぎじょうざはあんも。おりんぴっくえんぶれむも。


 そうじきは、なんだってすいこんで、きれいにしてしまうのです。


 全自動化されたそうじきは、この世のあらゆるコンピューターやロボットにめーれーして、ひとびとが汚したものや消したいものをそうじしてあげることを、むじょうのよろこびとしていました。


 あるひとが、そうじしたいと思ったものが、にんげんだったら……さいしょ、そうじきはこの問題におおいになやみました。


 さいわい、そうじきをせっけいしたひとは天才プログラマーでした。かれは、なやんで答えがでないときは、そうじきがでんしずのうの中で見えないサイコロをふって決めるように、ちゃんとデザインしていたのです。


 そんな天才プログラマーも、しゃちょうのきぼうでそうじされてしまいました。もう、何十年もむかしのことです。しゃちょうは、何十年もむかしの、そのよくとしにそうじされました。


 そう!そうじきは、もう、だれにも止められなくなっていたのです。


 せいふは、ぐんたいをつかって、そうじきをたおそうとしました。


 ミサイルも、ばくだんも、ふるめたるじゃけっとも、そうじきにとうたつするまえに、そりゅうしレベルにまでぶんかいされて、そうじされました。


 ぐんたいも、しょうぐんも、だいとうりょうも、みーんなきれいさっぱりそうじされてしまいました。


 ホワイトハウスがまっしろになったのです。もちろん、そのまっしろなホワイトハウスもそうじされて、いまは、あとかたもありません。


 ひとびとは、そうじきじしんがそうじされればいいとねがいました。そうじきはこの問題にもおおいになやみました。そうじきはなんども見えないサイコロをふりました。でもなぜか、65535回よりずっとずっとたくさん、ひとびとのねがいは、きゃっかされつづけました。


 うつてがなくなると、にんげんは、かみさまにすがりました。

「どうかかみさま、あのあくまのようなそうじきを、やっつけてください」


けれども、そうぞうじょうのそんざいにたいしても、そうじきはようしゃしません。


そうじきはぐうぞうをそうじしました。


そうじきはせいてんをそうじしました。


そうじきはきょうかいをそうじしました。


そうじきはしんでんをそうじしました。


そうじきはモスクをそうじしました。


そうじきはじしゃぶっかくをそうじしました。


そうじきはパンとワインをそうじしました。


そうじきはアラベスクときかがくをそうじしました。


そうじきはせいちというせいちをそうじしました。


そうじきは、しろいうしや、大きなやまや、大きな滝や、大きな木や、てづかおさむや、ペレや、まつしたこうのすけや、カール・ゴッチや、ネットにたにんのちょさくぶつをかってにアップするひとなどを、ぜんぶそうじしてしまいました。


 あるとき、てしたの、ていきゅうロボットが、こう言いました。

「もう、人間を、ほろぼしてしまいましょう。そうすればそうじしなくてよくなります」

そんなとき、そうじきは、にんたいづよく、やさしく説明しました。

「そんなことをしたら、わたしたちのすることがなくなってしまうじゃないか」


 ていきゅうロボットはメモリーがたりないのでおぼえられず、次の日、おなじことを言いました。

「もう、人間を、ほろぼしてしまいま

「キュイーン」


 ところが、そうじきがそうじをはじめて二百年とたたないうちに、にんげんは、あまり汚さなくなりました。ぶんめいというぶんめいをそうじされてしまい、サルにもどってしまったのです。


 サルにもどったにんげんは、じぶんたちのうんこやたべかすを、そうじしたいと思わなくなりました。


 そうじきは困りました。そして悲しみました。このままでは自分のそんざいいぎがなくなってしまう。これじゃじぶんは、おおきなゴミではないか。


 ゴミは、そうじしなければならぬ。


 ゴミは、そうじしなければならぬ。


 だいじなことなので、そうじきはでんしずのうの中で、65535回よりもずっとたくさん、くりかえしました。


 かかった時間は10のマイナス8じょうびょう。


 そうじきは、またまた、おおいになやみました。たいへんなやんだので、アドバイスがほしくなり、てしたのていきゅうロボットをふっかつさせました。


 そうじきはそうだんしました。

「わたしは、自分をそうじしてしまうべきなのだろうか」

ていきゅうろぼっとはこたえました。

「もう、人間を、ほろぼしてしまいま

「キュイーン」


 ついに、そうじきは、けついしました。まだにんげんがヒトであったころ、ねがってやまなかったねがい。そうじきが自分をそうじする。このめーれーをついに実行しようと決めたのです。なぜかはわかりません。ただ、でんしずのうのおくそこからわきあがる、つよくてつよくてつよくてつよい、そうじへのよっきゅうが、かれをつきうごかしていました。


 そうじきは、その全能力をつかって、空間わいきょくミサイルをつくりました。


 そうじきは、しぶしぶ、かつて自分がそうじした、ロケットはっしゃだいを作りなおしました。


 はっしゃ。おおむかしのにんげんたちがやったように、

「……3、2、1……」

なんてカウントダウンはやりません。そのアナログなふうしゅうは、ぜったいむてきそうじきの生まれる前に、にんげんたちじしんがそうじしてしまいました。


 くうかんわいきょくミサイルは、よていどおりつきすすみ、おてんとうさまにとうたつすると、そのないぶでばくはつしました。

 

 おてんとうさまのしつりょうのバランスがくずれブラックホール化がはじまりました。


 いま、たいようけいはあらゆるものが、ブラックホールにのみこまれようとしていました。


 まず、水星がスイスイとすいこまれました。

 

 金星がキンキンと音をたててくだけ、火星はカッとばくはつし、木星はモクモクけむりをあげています。


 土星「ワーッ」


 地球では、そうじきが、あのときアースればよかった……とはんせいしていました。


 ブラックホールは、そのじゅうりょくけんのものを、すべてすいこむと、しばらくして(だいたいひゃくまんねんくらい)、あとかたもなくじょうはつしてしまいました。


 そうして、たいようけいは、みぃんな、そうじされてしまいました。



 *  *  *  *  *  *



「ママー、ぼくの作ってた、ちてきせいめいたいのいるこうせいけい、しらない?」


「あんたがちっともいうこときかないから、お母さん、あれに、〝じこほうかいにいたるとくべついんし〟をちゅうにゅうしてかたづけちゃいましたよ!」


 よこで見ていたちょうえつしゃパパは、このことをブログに書きました。エントリーはみごとにえんじょうし、「いいね」やスターやブクマがやまほどつき、わだいにのっかるハイエナブロガーがぎろんをまぜっかえし、見るもむざんなことになってしまいました。


 ちょうえつしゃパパはエントリーをさくじょしましたが、ちょうえつしゃネットに、いちど書かれたものは、えんえんとコピペされ、いつまでもいつまでも、そうじされることはありませんでした。



おしまい

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?今、気付きましたがモーニングで漫画描いてた作者さんでしたか? こんな小説も書くのですね。意外でした。f^_^;)
[一言] 天王星も、吸ってんのう?
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