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運命の双子  作者: 雨音 唄乃 -Utano Amane-
第1部 始まりの物語
15/70

番外編 『鍵守の10年間 上』

僕が荷馬車から救われ、ソフィア様の夫サブエラ様が統べる国で暮らし始めた、その10年間の物語…。




僕の養父と養母になるソフィア様とサブエラ様が暮らす城で新たな暮らしが始まった。


サブエラ様が統べる国は穏やかで何一つ争いのない平穏な国で新たな暮らしは僕にとって新しい事ばかりだった。


この時初めて、父様や母様と呼べる人が出来た。

でも、僕は暮らし始めた1年は与えられた部屋からあまり出なかった。


初めての外の世界。

初めての暮らし。


僕にはそれが怖かった。

また、失うのではないかと思ったら怖かった。

だから、僕は部屋から一度も出なかった。


それを見兼ねてソフィア様は僕の部屋に訪れた。


「櫻、母です。

入りますね。」


真っ暗な部屋に光が射し込んだ。

僕は天蓋付きのベッドにいてシーツを被っていた。


「…どうしたの?」


「櫻にお客様です。

どうぞ、お入りくださいな。」


「僕に客…?

誰…?」


「久しぶりだな、お嬢。」


「!…闇狼あんろう?」


「嗚呼、やっと逢えたな。

無事で良かった…」


部屋に入って来たのは僕がサクラと離れ離れになるまで一緒にいた闇狼あんろうだった。


「私が櫻をあの荷馬車から連れ出す前に闇狼あんろうを魔王様の城からこの城に連れて来ました。

その後に、櫻を荷馬車から連れ出し彼が此処にいると黙っていてごめんなさい。」


「…母様。

良いよ…そんな事……っ」


僕は居ても立っても居られず、闇狼あんろうに勢い良く抱き着いた。

勢いが良過ぎたのか闇狼あんろうは僕を支えきれずに倒れた。


「…おっと。

珍しいな、お嬢が俺に抱き着くなんて。」


「きっと、櫻は嬉しいのですよ(微笑)」


「そ、そうですかね?」


「そうですよ。

櫻、貴方に話さなければならない事があります。」


「話さなければならない事…?」


闇狼あんろうに抱き着いたまま、僕はソフィア様の顔を見た。


「それは、貴方の従者に闇狼あんろうをするにあたって儀式をしなければならないのです。」


闇狼あんろうが僕の従者に…?

でも、マリアの従者なのに…」


「マリア様、亡き後は俺はお嬢の従者になる事が決まってたんだ。

だから、その事は気にしなくて良い。」


「そっか…分かった…。

その儀式はいつ…?」


「儀式は今夜。

なので、櫻には儀式に向けて今夜までに支度をして貰わなければなりません。」


「今夜⁈

そんないきなり…」


「今夜は満月。

闇を司る者は満月の夜に儀式をやるのです。

櫻はその血筋。

それ故に今夜、儀式を行わなければなりません。」


「分かった…。」


「身を清める為に水浴びに行きましょうか。」


「あの、ソフィア様。

一つ良いですか?」


「なんでしょう?」


「…闇狼あんろう?」


「お嬢の髪を切らして貰っても良いですか?

だいぶ、伸び過ぎてて儀式の最中に邪魔になると思うし今まで、俺が切ってたので…」


そう言うと僕の髪を闇狼あんろうが触った。

確かに僕の髪は太腿の付け根までに伸びていた。

今までは腰の辺りの長さだった。

一年でここまで伸びたのだ。


「そうですね。

貴方に髪を切って貰う方が櫻は嬉しいと思いますし、お願いします。」


「はい。

それじゃあ、早速準備しますね。」


闇狼あんろうは手際良く僕の髪を切る為の準備をした。


「お嬢、こっちに来てくれ。」


「うん」


闇狼あんろうがベランダに椅子を用意してくれた。

その椅子に僕は座った。


「長さはいつも通りで良いか?」


「うん、お願い。」


「お嬢の仰せのままに」


そう言って闇狼あんろうは洋服に髪が落ちない様にシーツをかけた。


「切り始めるから動くなよ?」


「もう、分かってるよ(苦笑)」


そんな会話があり、闇狼あんろうは僕の髪を切り始めた。

チョキ、チョキと髪を切る鋏の音が妙に心地良く僕はベランダから見える景色に安らぎを覚えた。


「…よし、終わった。

これで、良いか?」


闇狼あんろうは僕に手鏡を渡し、合わせ鏡をしてくれた。


「うん、ありがとう。

この長さがやっぱり、落ち着く」


「それは、良かった。

ほら、ソフィア様に見せて来いよ。」


「うん!」


洋服にかけたシーツを外し、僕はソフィア様の元に駆け寄った。


「ねぇ、見て!母様。

どうかな?」


「ええ。

凄く似合っていますよ。(微笑)」


僕の目線に合わせてソフィア様は座ってくれてそして、優しく微笑んで僕の頭を撫でてくれた。


「さぁ、次は水浴びに行きましょう。」


「うん!」


「俺は此処の片付けをします。

すいませんが、お嬢をお願いします。」


「分かりました。

櫻、行きましょう。」


そう言ってソフィア様は立ち上がり優しく微笑んで僕に手を差し伸べられた手を取った。


そして、初めて僕は部屋の外へと出た。

暮らし始めて一年余り、殆ど部屋から出なかった僕はこの時、自分の脚で初めて部屋の外へと出た。


ソフィア様と一緒に城の廊下を歩いているとメイドや執事、騎士や大臣までいた。


通りかかる度に、色んな人達に挨拶をされた。

そして、城の裏にある王族のみが入れる湖に辿り着いた。


「櫻、これから水浴びになりますがこれを着てください。」


ソフィア様に渡されたのは白いワンピース。

僕はそのワンピースを受け取ると今まで着ていた黒いワンピースを脱ぎ、白いワンピースに着替えた。


「着替えたら、もう水に入って良いですよ。」


ソフィア様にそう言われ僕は恐る恐る水に脚を入れた。

最初は冷たかったが、慣れてきたら心地良かった。

初めての感覚に僕は心を躍らせた。


「櫻、どうですか?」


「冷たくて気持ち良いよ!」


「楽しそうで何よりです(微笑)」


はしゃぐ僕を見てソフィア様は優しく微笑んだ。

水浴びがこれ程、楽しいものだと僕は初めて知った。


その時、僕には世界にはまだ、知らない事があるんだと思った。


「そろそろ、部屋に戻りましょうか」


「はーい」


ソフィア様が僕に手を差し出しその手を取る直前、僕の頭の中に何かが流れ込んできた。

断片的な何か。


(大勢の人?

これは、一体……。)


「!…櫻!」


僕に手を伸ばすソフィア様。

届く事なく僕の意識は少しずつ闇に堕ち、僕は湖に沈んだ。


沈んで行く僕は、意識を保てなくなる前に凄い勢いで飛び込んで来た何かに抱かれた感覚を覚えそのまま意識を闇に堕とした。


「……んっ……っ」


気が付くと見覚えのある部屋だった。


「……此処は…僕の部屋……?」


「!…櫻!

良かった…気付いたのですね。」


心配そうな顔で僕を覗くソフィア様とサブエラ様。


「櫻、ソフィアから話は聞いた。

大丈夫かい?」


ゆっくりと起き上がる僕を労わる様にソフィア様が起こしてくれた。


「大丈夫…。

僕は一体……。」


「湖から上がる直前、急に意識を失って湖に沈んだんですよ?

覚えてませんか?」


「うん…覚えてない…

でも、誰が僕を助けてくれたの…?」


闇狼あんろうだ。

彼が櫻を助けてくれたんだ。」


闇狼あんろうが…」


「ソフィア、やっぱり今日の儀式は中止にしよう。」


「そうですね。

櫻をゆっくり休ませた方が良さそうです。」


「僕…やるよ。」


「櫻!

でも、身体が…」


「父様、僕は大丈夫だから…。」


「…分かりました。」


「ソフィア…」


「櫻は言い出したら聞かない様なのでやりましょう。

そうですよね、闇狼あんろう?」


「はい。

お嬢は一度、言い出したら聞きませんから。」


壁に寄りかかっていた闇狼あんろうが櫻のベッドに近付いた。


「…そうか。

なら、儀式をやろう。

だけど、無理はダメだぞ。」


「うん。」


そう言ってサブエラ様は僕の髪を撫でた。

そして、この時までは僕が視たあの断片的な何かが起こるとも知らずに、儀式は始まった。

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