第ⅩⅡ章『黒き薔薇の呪い』
櫻が暗部の本部に暮らし始めて半年の歳月が流れた。
いつもの様に仕事へ向かう梵天を櫻は部屋のテラスから見送った。
「今日は早く帰るって言ってたけど、何時に帰ってくるかな…」
小さく呟いた声は本部から遠ざかる梵天には届く事はない。
テラスから部屋に入ろうとしたその瞬間…。
ドクン…!
「……っ‼︎」
急に鼓動が強く跳ねて、櫻はその場にドサッと倒れた。
ドクン…ドクン…!
鼓動は弱くなるより強くなっていく。
そして、櫻はある部分を抑えた。
それは、左の鎖骨下にある黒い薔薇の模様。
これは、『黒薔薇の呪い』。
先祖返りである櫻はその呪いも引き継ぎこの世に産まれ堕ちその呪いは勿論、双子の姉であるサクラにも呪いはある。
黒い薔薇の模様は少しずつ広がっていく。
「…はぁ……っ!」
鼓動が早くなるにつれ呼吸すら上手く出来ず酸素不足に陥っていた。
そして、闇に堕ちていく意識、駆け寄って来る聞き覚えのある声と姿。
「お嬢…!」
「闇…狼……っ」
一言呟き、櫻の意識は闇に堕ちて行った。
櫻の元に駆け寄って来たのは従者の闇狼だった。
闇狼は櫻の異変に気付き駆け付けたのだ。
「お嬢!
しっかりしろ!お嬢!」
必死に櫻の身体を揺らす闇狼。
だが、櫻の意識は闇に堕ち目覚めない。
「また、『黒薔薇の呪い』か…。
何度、この黒薔薇にお嬢は苦しめられれば良いんだろうな…。
なぁ…マリア様…教えてくれ…。
俺は…お嬢を…貴方の愛娘を護る事は出来るのだろうか……。」
少しずつ広がる黒い薔薇の模様を悔し気に見詰め、闇狼は倒れた櫻を抱き上げ天蓋付きのベッドに寝かせた。
闇狼が呟いた言葉は誰にも聞かれる事なく消えていった。