第Ⅹ章『母と鍵守』
櫻が梵天に語った過去。
それは、櫻が持っている唯一のマリアとの思い出だった。
〜回想〜
あれは、今から12年前の出来事だ…。
僕の2歳の誕生日になったその日の夜中にマリアが僕の所に来たんだ。
「櫻」
「なぁに?かあさま。」
今まで僕の所に来なかったマリアがその時だけ僕の所に来たんだ。
「櫻、貴方は凄く良い子ね。
もし、私に何かあっても、もう一人の貴方を助けてあげられるわね?」
マリアはまだ、幼い僕にそう言ったんだ。
それも、とても悲しい顔をしてね…。
だから、僕はマリアにこう言ったんだ。
「かあさま、そんなかなしいかおをしないで?
ボクがもうひとりのボクをまもるから!」
「櫻…。
貴方は私の…大切な娘よ…。
でも、ごめんなさい……。」
マリアはそう言って僕を優しく抱き締めてくれて、たった一度、その時だけ僕を外に連れ出してくれたんだ。
サクラと再び出逢った、あの紅い桜の木に…。
「わぁ!きれいだね、かあさま!
……あれ?かあさま?」
僕が桜に見入っている時にはマリアの姿はなかった…。
僕はその時、マリアに捨てられたとそう思ったよ…。
マリアが言った
「ごめんなさい…。」
は、僕に対して捨てるからごめんなさいの意味だと思った…。
〜回想終了〜
「捨てられたと思ったのなら、櫻はマリア様を捜して真意を聞こうとはしなかったのかい?」
「ううん、捜さなかったよ…。
捜してもマリアは僕の所にもう、来ないもん…。」
「そうか…」
「うん…。
でもね、マリアの従者だった闇狼が僕を捜しに来てくれたんだ。
闇狼が僕を捜しに来てくれて僕はまた、出る事が許されない部屋に戻された…。
そして、それ以降、マリアは僕の所に2度と来なかった。
マリアは僕を捨てサクラを選んだんだ…。
そして、マリアが亡くなる『あの時』を迎えて僕は、サクラと引き離されて奴隷市場に売られかけたんだ…。
その時に、ソフィア様に助けて貰って今がある。
でもね、僕には帰る場所がないんだ。
僕が帰る場所はソフィア様の所でもなければ、魔王の城でもないから…。」
俯いた櫻に梵天は
「なら、我が櫻の帰る場所になってやろう」
「えっ…?」
「我と共に来るか?」
柔らかく笑みを浮かべ櫻へと差し伸べられた梵天の手。
果たして櫻は、その手を取るのか。