第Ⅸ章『鍵守と天狗』
息を切らしながら森の中を走る櫻の後を追う梵天。
梵天は櫻には何かあると思い後を追っていた。
そして、辿り着いたのは古びた大聖堂。
櫻は躊躇なくその中に入るが梵天は立ち止まり大聖堂を見上げた。
かなり年月の間、使われていなかったその大聖堂は老朽化が進んでおり、あちこちが崩れ果てていた。
それでも、梵天は怯む事なく櫻の後を追い古びた大聖堂の中に入って行った。
大聖堂の中は綺麗とは言えないほど、ステンドガラスは割れていて壁も罅割れや崩れ落ちていた。
不気味と言えば不気味な所だろう。
だが、梵天は確かに櫻がその中に入って行った瞬間は見た。
しかし、櫻の姿は見付からない。
引き返す事もなく梵天は大聖堂の奥へと進んで行った。
そして、大きな礼拝堂に辿り着いた。
礼拝堂の奥には大きな十字架と聖母マリア像がありその傍に櫻の姿はあった。
「…さく……」
梵天は櫻に声を掛けかけたが、暫く考えて櫻の様子を見る事にした。
「…マリア……。」
梵天に気付かず、聖母マリア像を見上げ、泣いているのか声を震わせながらマリア像に触れる櫻。
その姿は母が恋しいと泣く子供の様だった。
「何故…貴方は僕を捨てたの…?
ねぇ…マリア……っ」
縋る様にマリア像にしがみつく櫻の姿を見兼ねて梵天は櫻に声をかけた。
「…櫻……」
「!……君は……っ」
梵天の声に気付き、振り返った櫻は泣き顔で驚いた表情をしていた。
「どうして…此処に……」
「君が気になったから後を追ってきたんだ。」
「…そう」
「どうして、泣いているのか我に…教えてくれないか?」
「…誰にも、言わない?」
「言わないさ。」
「絶対?」
「嗚呼」
櫻は梵天を暫く見詰めた。
「……分かった。
君のその言葉を信じて話す」
「ありがとう。」
梵天は話を聞く為に櫻の隣に座った。
「僕が何故、泣いていたのかと言うと……」
櫻が梵天に語ったのは信じられない事実だった…。