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第七話 恥ずかしがり屋のクラスメイト

 始業式のシーンがカットされ、教室ではホームルームが始まった。都合良く沙羅はケイトの隣の席だった。

 クラスが変わったという事で全員が前に出て自己紹介をする事になり、余計な生徒の分は省略されて沙羅の番に回った。


「雪城沙羅です。趣味はお菓子作りです。みなさんよろしくお願いします」

 沙羅が無難に挨拶を済ませると、一部の男子生徒たちから歓声が上がる。このクラスでも沙羅の人気ぶりは健在のようだった。


「あ、あの、私……」

 次に知らない女の子の順番が回ってきた。ケイトから見れば、それがクラスで二人目の自己紹介だった。

「わ、私、私は……」

 その少女はやたらと緊張しているようだった。小柄な身体にあどけなさが残るなかなかの美少女だったが、今はその顔を真っ赤に染め、足をがくがく震わせていた。

「わ、私は芹沢(せりざわ)結衣(ゆい)と言います。そ、その、よろしくお願いしましゅ」

(しゅ?)

 最後の語尾に、クラスが爆笑する。結衣は泣きそうな表情を浮かべ、席へと戻っていった。


 それ以上自己紹介が続けられる事はなかった。時間が飛び、放課後へと突入する。この日は始業式だったため、午前中で授業は終わっていた。

「ねえケイ君。一緒に帰ろう?」

 帰り支度を終えた沙羅が、ケイトのそばに寄ってきた。

 と同時に、ふいにケイトの脳裏にはメイド喫茶のサービス券がよぎる。

 さらには商店街への寄り道、校内を歩くというプランも浮かび上がった。どれを選ぶかによって、誰かの好感度が大きく影響するのだろう。


(今一番好感度が高いのは沙羅だろうな。となれば、一緒に帰るのは論外だ。喫茶店に行けばおそらくは理香が出てくる。それなら、安全圏は一人で校内か商店街かな)

 ケイトは今後の展開を見据え、慎重に選択肢を選んでいく。


(いや待てよ。もし喫茶店で理香と接触して、理香の事ばかり気にかけてたら沙羅の好感度を下げる事が出来るんじゃないか? 理香との好感度はまだ全く上がってないから、ちょっとぐらいなら平気なはず。沙羅は常に付きまとう存在だから、下げられる時に下げておかないと、後で厳しくなるかもしれないな)

 そう策略を立てた時、ケイトの答えは決まった。


「なあ、せっかくだからあの喫茶店に行かないか? 券もらったんだからさ」

「綾瀬さんのところの? うん、行こう」

 沙羅は笑顔で答えた。もともとメイドに興味を持っていたようだから、嫌という事はないのだろう。

 ケイトは自分の鞄を持つと、教室の外へと歩き出した。すると入り口のところで、入ってきた女の子と正面衝突した。


「きゃっ!」

 相手は自己紹介でがちがちに緊張していた結衣だった。ぶつかった拍子に尻もちをつき、スカートの中から白い布地の物が見えていた。

(嬉しいハプニングってところかな)

 ケイト自身は特に喜ぶ事もなく、客観的にこのシーンを捕らえていた。

 スカートの中が見えている事に気づいた結衣は慌てて裾を押さえ、顔を真っ赤に染めて急いで立ち上がった。


「あ、あの、その、ごめんなさい。私、ぼーっとしてたもので」

 よほど動揺しているのか、結衣は早口でまくし立てる。

「別にいいよ。いい物見せてもらったから。純白って清純なイメージがあっていいよね」

 ケイトはわざと自分の印象を悪くするように卑猥な発言をした。

 結衣はさらに顔を赤くし、泣き出しそうになる。


「じゃあな」

 ケイトはそんな結衣を残し、廊下へと出た。

「あ、ま、待って下さい」

 少し歩いたところで、結衣が呼び止めてくる。

「あ、あの、これ」

 結衣は手帳を差し出した。それはケイトの生徒手帳だった。

「いつの間に……」

 設定上はさっきぶつかった時に落とした事になっているのだろうが、ぶつかって落ちるようなところに手帳を入れておいた記憶はなかった。

 それどころか、手帳を持っていた事すら知らなかった。


(ま、いつものパターンか)

 もはや何度も理不尽なイベントを経験しているため、ケイトは早々と状況を飲み込んだ。

「ありがとう。純白ちゃん」

 相手を挑発しつつ、ケイトは手帳を受け取った。

 結衣は手帳を渡すなり、泣きながら走り去っていった。

(我ながらいい悪役ぶりだな)

 女の子を泣かせておきながら、ケイトは満足げだった。

 自己紹介で出てきて今のイベントを合わせて考えれば、間違いなく結衣も攻略出来るメインキャラだ。

 相手がメインキャラである以上、間違っても好感度を上げるわけにはいかなかった。


「ケイ君、今のはひどいと思うよ」

 沙羅は遠慮がちながらも、ケイトを非難した。今のケイトの行動によって、一緒にいた沙羅の好感度まで下げられたようだ。

 ケイトとしては願ったり叶ったりだった。


「そうか? おれは純白っていいなって誉めてあげたつもりなんだけど」

 追い打ちをかけるようにケイトは悪役を続ける。

「それ、誉め言葉になってないよ。ケイ君男の子だからそういうの好きなのは分かるけど、でも見られた女の子にとっては結構ショックなんだから」

「はいはい、じゃあ次から感想は口に出さないようにするよ」

 適当に答え、ケイトは歩き出した。沙羅はそれ以上口出してくる事はなかった。

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