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第二十一話 メイド姿の幼なじみ

「沙羅お姉ちゃん!?」

「何っ!?」

 ミクの言葉に、ケイトは愕然とその視線の先を追った。


「ミクちゃん!? それにケイ君!」

 メイド、沙羅もまた驚いたように声を上げた。思わず見つめ合ったまま硬直してしまう。


「あら? 神山様」

 その硬直を破ったのは、横から出てきた理香だった。

「来て下さってたんですね。ありがとうございます」

 理香はケイトのそばにきて片膝を付いた。続けて沙羅もそばに寄ってくる。


「こ、こんにちはケイ君。ミクちゃん」

「あ、ああ……。それにしても、なんでお前がここに?」

 理香との単独イベントになると思われた地で、ミクに続き沙羅まで現れた事には意表をつかれるばかりだった。


「そ、その、この前ここに来た時にメイドさんの服があまりにも可愛かったからどうしても着たくなっちゃって、たまたま学校ですれ違った綾瀬さんに話したら、一日だけアルバイトしてみませんかって誘ってもらえて」

 沙羅は恥ずかしそうに呟いた。知り合いにはメイド姿を見られたくなかったのだろう。


「まさかここまで本気だったとはな……」

 前回沙羅がメイド服を着てみたいということは確かに明言していた。それがこんな形で実現されるとは思いもよらなかった。


「沙羅お姉ちゃん、すごく可愛い! とってもよく似合ってるよ!」

 ミクは興奮気味に沙羅を見回している。足先から髪の毛の先まで、舐め回すようにように見つめていた。

「えっ、そうかな? そんな風に言ってもらうと、照れちゃうよ。でも、ありがとうミクちゃん」

 縮こまり気味だった沙羅だが、ミクに誉められ赤くなりながらも堂々としてきた。


「ねえ、ケイ君。どうかな?」

 沙羅はくるりと一回転し、誉めてもらおうとケイトに期待の眼差しを向ける。

 ケイトは思い切り皮肉を込めて言い放った。


「お前がメイド服着たらメイドのイメージが悪くなるって言っただろ。自意識過剰な奴はこれだから困るんだよ。見苦しいから早く着替えてくれ」

 冷たい言葉を浴びせるが、沙羅は傷ついた様子もなく苦笑いを浮かべた。


「やっぱりケイ君ならそう言うよね。意地悪だもん」

「事実だからな」

 ケイトは本気で言っているのだが、沙羅は本心とは受け取っていないようだった。


「沙羅お姉ちゃん、いいなあ〜! あたしもメイド服着てみたい!」

 ミクの興奮はまだ冷めていなかった。

「やめとけ。お前が着たって似合わねえよ」

「そんなことないもん。沙羅お姉ちゃん、あたしもここでアルバイト出来ないかな?」

「え? それは……」

 思わぬ要望に、沙羅は困ったようにケイトを見た。おそらく、考えている事はケイトと同じだろう。


「中学生に出来るわけないだろ」

 沙羅の分も含め、ケイトはあきれたように言い放った。

「え〜、そんなのずるいよ! ちょっとぐらいいいでしょ!」

「無茶を言うな」

「やりたいやりたいやりたいよ〜!」

「だだをこねるな」

「お兄ちゃんのケチ!」

「そういう問題じゃない」

「う〜」

 ミクは不満顔でケイトを睨みつけた後、そっぽを向いてしまった。ケイトは全く悪くないのだが、ミクの中では悪者にされているようだった。


(今回は正しい事言ったのに、なぜこうなるんだ……)

 普段は悪態をついて相手の機嫌を損なわせているが、間違った事を言わずにそうなっては釈然としない思いだった。


「あの、お嬢様。お話からすれば、確かにアルバイトという事は出来ません。ですが、メイド服を着てみたいという事だけでしたら、お貸しする事が出来ますがいかがなされますか?」

 立ち聞きしていた事を気に病んでか、やや控えめに理香が口を挟んだ。

 すかさず反応したミクが、顔をぱあっと輝かせる。


「本当!? うん、着てみたい!」

「おいおい……」

 思わぬ展開にケイトはア然とした。

「では、あちらにご用意しますので、一緒にお願いします」

「ありがとう、メイドさん」

 全く遠慮のないミクは意気揚々としていた。


「よかったね、ミクちゃん」

「うん! すっごく嬉しい! お兄ちゃん、待っててね!」

 軽くウインクし、ミクは理香と一緒にカウンターの奥へ下がっていった。

 取り残されたケイトは、ただ茫然と成り行きを見守るばかりだった。


「あんなに喜ぶなんて、よっぽどミクちゃんメイド服着たかったんだね」

 沙羅は自分の妹を見ているかのように、微笑ましげに笑っていた。

「……そんなにいい物なのか、それって?」

 ケイトは改めて沙羅も着ているメイド服を見回すが、理解が出来なかった。


「女の子なら、可愛い服を見たら着てみたくなるものだよ。このメイド服、とっても可愛いもん」

「お前が着てなければ可愛く見えたのかもな」

 さりげなくケイトは皮肉を漏らすが、沙羅は気にしてないようだった。


「お待たせしました、ご主人様」

 背後から、お決まりのセリフをかけられた。お約束にも早々と着替えを済ませたミクだった。

 妙なセリフを吐いたミクに嘆息しつつ、ケイトは後ろを振り返った。


「お前な……普通に戻って来れ……」

 言いかけてケイトの言葉が止まった。目を見開いてミクの姿を凝視してしまう。

 そこにはメイド姿のミクがいた。間違いなく、ついさっきまで目の前にいたミクだった。

 だがその印象はだいぶ変わっていた。ただメイド服を着ただけのはずなのだが、別人のように可愛くなっていたのだ。


「ミクちゃん、すごく可愛い! お人形さんみたいだよ!」

 すかさず反応した沙羅は、目を輝かせミクにぎゅっと抱きついた。沙羅から見ても、ミクの変貌ぶりには驚いていたようだった。

「えへへ、ありがとう沙羅お姉ちゃん。なんだか照れちゃうな」

 誉められたミクは、嬉しそうにはにかんでいた。


「ねえ、お兄ちゃん。どうかな?」

 ミクは沙羅から離れ、くるりとケイトの前で一回転した。最後にスカートの裾を摘んでメイドのポーズまで取る。

 ミクの姿に見とれていたケイトは、声掛けにとっさに反応出来ず、思わず正直に感想を漏らしていた。


「まあ、よく似合ってるんじゃないか?」

「本当!? ありがとう! お兄ちゃんにそう言ってもらえると、すっごく嬉しいよ!」

 ケイトに認められ、ミクは満面の笑みを浮かべていた。

 一方で、沙羅は少し拗ねた顔を浮かべていた。


「いいなあ、ミクちゃん。私もケイ君に誉めてもらいたいな」

 ミクとは違い、けなされた事を根に持っているのだろう。意地悪で言われたと思っていながらも、やはり少しは傷ついていたのだ。

 ミクを誉めてしまった事は失敗だったが、沙羅の好感度を下げる事には成功していたようだった。


「誉めてもらいたければもっと女を磨くんだな。ま、いくら努力したところでお前が綺麗になる事はないだろうけど」

 ケイトは追い打ちを掛けるようにと悪態をついた。

 だが沙羅は微笑みながら言い返した。


「いつか私だって、ケイ君が意地悪言えないぐらい綺麗になるんだから。ケイ君の事、ビックリさせちゃうからね」

「今よりひどくなってビックリするかもな」

 皮肉で返すが、沙羅の表情には変化がなかった。


「お兄ちゃん、沙羅お姉ちゃんには相変わらずなんだね」

 ミクはしみじみと呟いた。ケイトが意地悪だという事は、このゲームに元から組まれていた設定なのだ。


「おれは本音で話してるつもりなんだけどな」

「またお兄ちゃんったらそんな事言って。でも、お兄ちゃんが本当は優しいって事、ちゃんと分かってるからね。そんなお兄ちゃんに、あたしが今からご奉仕してあげる」

「ご奉仕?」

「うん。ちょっと待っててね」

 ミクは颯爽とカウンターの奥へ下がっていった。

 それから間もなく、トレイにコーヒーを乗せて戻ってくる。


「お待たせいたしました、ご主人様。コーヒーにミルクはお入れしますか?」

 ミクはメイドになりきり、ケイト相手に接客しだした。以前理香がやった事と同じ事をしようとしているのだろう。


「……楽しいか?」

 特に関心を抱く事もなく、ケイトは呆れたように呟いた。

「今日はご主人様のために、特製オリジナルブレンドコーヒーを作って差し上げますね」

 ミクはケイトの呟きを無視し、勝手にコーヒーにミルクと砂糖を混ぜだした。一体いつの間に覚えたのか、今のミクはメイドカフェのメイドと相違ないぐらい役にはまっていた。


「ご主人様、どうぞ」

 ミクは完成したコーヒーを差し出した。完璧だと言わんばかりに、その表情には自信が浮かび上がっていた。

 ケイトはそのコーヒーとミクを見やり、深々と嘆息した。


「悪いけど、おれは別にメイドが好きなわけじゃないんだ。これ以上お前のメイドごっこに付き合うつもりはない」

 無情にも、ケイトは席を立ち出口へと歩き出した。

 その様子を見て、ミクは素に戻って慌て出す。

「え? ちょっとお兄ちゃん!?」

「ケイ君!?」

 沙羅もまたケイトを呼び止めようとするが、無視して外へと出て行った。

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