お友達
校舎案内は二人の喧嘩により、失敗に終わった。私も必死に止めたが、全く止める気配がなく、しまいには二人とも全く口を聞かなくなった。気まずくなった私は、校舎案内を中止し、二人とともに教室に戻ってきてしまった。
教室では、やはり外部入学生が珍しい事もあって、二人とも人気者だった。私はというと、教室の隅にある私の机でクラスメイトと話していた。
「ねぇねぇ、桜ちゃん。あの二人ってどんな感じの人なの?」
「う~ん。私的には、あの黒髪の川崎綾さんの方は、良い人だと思う。金髪の光宗美夏さんは、ちょっと私とは合わないかも・・・」
そう言った所で机に人の影が現れた。私は怖くて、後ろを振り向く事が出来なかった。何となく、影の形から私の後ろに立っている人物が分かってしまったからだ。
うわぁぁぁ、ど、どうしよう。謝るしかないよね。
「ご、ゴメンなさい!!」
私は振り向き、美夏と向かい合ってから、そう言った。怖くて美夏の顔が見られない。
「西園寺さん。昼休憩が始まったら、すぐにラウンジに来てください」
美夏は謝罪には触れず、それだけ告げると、自分の席に帰っていった。そこでチャイムが鳴り、朝のホームルームが始まった。
あわわわ、えらいこっちゃ。悪役令嬢なんて怒らせたら何をされるのやら。
私はホームルーム前の出来事がチラついて、午前中は全く集中できずに授業終えた。後で誰かにノートを映して貰う事にしよう。それよりも問題は、美夏の所に行かなければならない事。
私は憂鬱な気分になりながら、ラウンジに向かい歩き始めた。
ラウンジは中等部の生徒しか使えない部屋で、ここでは紅茶やコーヒー、そして軽いお菓子が無料で出てくるため、昼休みや放課後には多くの生徒で賑わっている。美夏と綾に校舎案内をした際に、唯一案内出来た場所である。
ラウンジに着いて辺りを見渡したが誰も居なかった。昼食時ということもあり、皆はお昼ごはんを食べているため誰もいない。とりあえず近くの椅子に座り、ウェイターに紅茶とクッキーのお菓子を頼んだ。
いつも賑わっている時にしかラウンジを使わないので、誰もいない室内は新鮮だった。いつもの時も良いのだが、静かなのも魅力的である。
頼んでからすぐに、紅茶とクッキーがテーブルに来た。私は、紅茶を飲もうとカップの取っ手に手を掛けた所で、美夏が現れた。
「ごきげんよう、西園寺さん」
今更、ごきげんようって、先程まで同じ教室に居たんですけど・・・。
しかし、ビビりの私にそんな事を言えるわけない。私は軽く頭を下げた。
「へぇ~、その紅茶とクッキーおいしそうですね。私も頼もうかしら」
そんな事を言って、私の目の前に座った。ここに来るまで突然怒ってくるのではないかと、ビクビクしていた。しかし、普通に話してくれているのでもしかすると、そこまで怒っていないのかもしれない。
「あの、これはウェイターさんに言えば、貰えますよ」
「へぇ~、お金はいらないのかしら?」
「あ、特にお金とかは要らないです」
「まぁ、高い学費払ってるんだから当然よね。すいませ~ん」
別にそんなこと言わなくても良いんじゃない と思うが、指摘して揉めたくはない。
美夏もウェイターを呼び、私と一緒な紅茶とクッキーを頼んだ。
「じゃあ、本題に入りましょう」
「私が陰口言っていた事怒っているんですよね。ゴメンなさい!!」
私は、椅子から降りて床に正座をし、おでこを床に擦りつけた。日本の伝統芸、DOGEZAである。今まで友達に対して使った事は無いが(母にはある)、今回は相手が違う。目の前に居るのは、悪の塊とも言える悪役である。目を付けられると、この3年間最悪な学生生活を送る可能性がある。そんな人生絶対に嫌である。だからこそ、情けないが最上級の謝罪を行うしかない。
しかし、何の反応もない・・・。
ど、ど、ど、どうしよう。これ以上の謝罪なんて・・・ハッ!?せ、切腹ですか!?嫌だ~
死にたくないよ~。
「何をしてますの?頭をお上げになって」
私は恐る恐る頭を上げるが、彼女の表情は先ほどと変わらない。ってきり怒られると思っていた私は少し拍子抜けした。
「私がお願いしたいのは、いつも私と一緒にいて欲しいの」
はい?
私は頭を上げて、美夏の顔を見た。最初はふざけて言っているのかと思ったが、美夏の顔は真剣だった。
「え~っと・・・。どう言う事ですか?」
「不安なんです。私、誰かと一緒に居ないと何にも出来ない子なんですの。昔っからそうなんです。だから、私の友達になっていつも一緒に居てくださる?」
え~!?漫画の中では勉強もスポーツもいじめも何でもできる子だったのに・・・。でもそう言われれば、漫画でも取り巻きが絶対に近くに居たし、言ってる事は本当かもしれない。
どうしようかな。あんまり関わりたくも無いけど、断って後で仕返しされても嫌だし、友達位なら良いよね。
「友達位なら別に良いですよ」
良かった。私の陰口について怒ってたわけじゃないんだ。後、光宗さんの性格が何だか漫画の悪役の頃とは違う気がする。見た目はあんな感じだけど、本当は優しい人なのかも。
その時、誰かがラウンジに入ってきた。入口の方を見ると、最悪な事にそこから入ってきたのは、黒田薫だった。相変わらず爽やかでイケメンだと思うが、私はあまり好きではない。
美夏の方に視線を戻すと、彼女は黒田をチラチラ見ながら体をクネクネと動かす。
「光宗さん。どうしたの?」
「あ・・・あの殿方は誰ですの?」
ま、まさか・・・。
美夏をよく見ると頬が少し赤い。
「黒田薫君。成績優秀、運動神経抜群の同級生ですよ。確かBクラスだったような」
「そ、そう・・・・」
この反応、絶対そうだ。もう?早すぎるよ。