関わる気はなかったのに
聖麗学園。日本屈指のお金持ち学校で、社長の子供、芸能人の子供、総理大臣の子供、スポーツ選手の子供等、様々な生徒が存在する。知力、財力、この2つの力がなければ聖麗学園には入れない。私が在学しているという事は、私にはその力があるという事である。自分が特別とは思った事は無いが、世間一般的に見るとそうらしい。
校舎は初等部と中等部が同じ校舎で、高等部だけ別校舎となっている。だから、初等部から上がる私にとっては、前と何一つ変わらないのだ。唯一変わるのは制服だろうか。
「はぁ~、何で庶民と一緒に校内を案内されなければなりませんの?」
美夏が少し怒り気味にそう言った。
「あぁ、そうですか。私も貴方と一緒に校舎を案内されるなんて嫌ですよ」
対する綾は怒っているというか、適当に受け流しているといった感じだった。
あぁ~私ってバカ!!何でこの二人に関わったの。このアホ!!
私が、この二人に関わってしまった理由は、ホームルーム前に遡る。
いつもより早く学校に着いた私は、新しい担任に挨拶しに行こうと職員室に向かった。
担任に媚を売っておいて損は無い。先生には媚を売ろう、それをモットーとして、初等部で生活してきた。だから私の評価は、初等部の先生方の中では高い。しかし、初等部の先生と中等部の先生は違う。また、一からやり直しである。そんな事を考えている内に職員室前に着いた。職員室は、初等部と中等部の先生が一緒に使っているので、場所は初等部時代と変わらない。
職員室の前では、二人の先生が何やら話し込んでいた。チラッと聞こえたのは、外部から中等部に入学する生徒が、二人いるという話だった。『光宗美夏』と『川崎綾』の二人の事だろう。まぁ、私には関係ない。関わる気はないのだから・・・。
「失礼しまーす」
入って右側半分が初等部の先生方のスペース。左側が中等部の先生方のスペースとなっている。
「おっ、西園寺じゃん。卒業式以来だな」
近くにいた6年生の時の担任、岡田先生に話しかけられた。そういえば、初等部の先生方の中で、一番仲が良かったのはこの先生だったな。
「久しぶりですね、岡田先生。元気でしたか?」
「元気だよ。中等部に上がった感想は?」
岡田先生の歳は40代位、貫録のある体つきでいつもニコニコしており、とても話しやすい。だからこそ、私はこの先生が一番好きなのだ。
「今日、中等部に上がったばかりですよ。それに同級生も初等部と変らないので、本当に卒業したのかなって感じですね」
「そうだよな。せめて校舎でも替えればいいのに、校舎まで初等部と同じだからな」
「ですよね~。ところで、私の担任の川尻先生ってどこにいますか?」
岡田先生と話していると、きりがない。いい加減な所で区切らなければ、いつまでも話しているような気がする。
「あぁ、川尻先生?あそこにいるよ」
岡田先生は、一番窓側の奥の方にいる眼鏡の先生を指差した。その先生の近くには、二人の女の子がいた。片方は、金髪で巻き髪ロングのいかにもお嬢様というような感じ。悪役のオーラがムンムンとしている。もう片方は地味だが、大人っぽい感じで、金髪の女の子とは違った可愛さがある。
もしかして、あの二人が例の子かな。可愛いな・・・。
特に金髪の子(多分、光宗美夏だと思われる)は、ボンキュボンとメリハリが利いており、羨ましい。私は、言わなくても分かるよね。察してください。
「あの先生、お前には合わないと思うぜ」
川尻先生の方を向いている私に、小さな声で岡田先生はそう言った。
「本当ですか?嫌だな~」
「まぁ、社会に出たら、嫌な人とも付き合っていか無いとダメだから、練習だと思って付き合っていけよ」
そんな事言われても、嫌なものは嫌である。しかし、担任である以上は関わって行かなければいけない人物である。
「とりあえず、挨拶に行ってきます」
「おぉ、行って来い。頑張れよ~」
何だか岡田先生楽しんでませんか、と言ってやりたい程、岡田先生の声は弾んでいた。
私は重たい足取りで、川尻先生の机に近寄った。川尻先生は、眼鏡を掛けた若い男の先生で、何だか堅そうな人というのが第一印象だった。確かに私には合わないかもしれない。私に気付いた川尻先生は、二人に話すのを止めた。
「何の用ですか?」
川尻先生は鋭い目つきに冷たい声で、私に問いを投げかけた。私はその問いに、とびっきりの笑顔を作って答えた。
「私、先生のクラスの生徒の西園寺桜です。挨拶に来ました」
そんなとびっきりの笑顔である私に、川尻先生は一瞬、怪訝な顔をした。
え、何?何でそんな変な顔したの?作り笑顔だと思われたの?実際そうだけど・・・。
「1年間よろしくお願いします」
「はい、よろしくね。あぁ、そうだ。この二人に校舎を案内してください」
私の挨拶は適当に受け流され、面倒事を私に押しつける。
この人最悪。岡田先生の言うとおり、あんまり好きじゃないタイプだ。しかし、どうしよう。この二人には、あまり関わりたくない。でも私は中等部でも優等生に見られたいし・・・。
モヤモヤと考えていると、川崎綾の方が私の方にスッと手を出してきた。
「川崎綾です。よろしくお願いします。えっと・・西園寺さんで良いんでしたっけ?」
「あぁ、はい!よろしくお願いします」
そう言って私は、綾の手を握った。そして後悔した。
あぁ!!しまった。これじゃあ、案内しないとダメじゃん。うわぁ~最悪。まぁ、でも校舎案内だけなら、今後そこまで関わることも無いでしょ。
そう軽い気持ちで考えていた私に、この俳句を聞かせたい。
気をつけよ、軽い気持ちで、関わるな。
西園寺桜